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「ヴィルヘルム2世」を読む

今日ご紹介するのは、竹中亨「ヴィルヘルム2世」(中公新書2018)です。

19世紀~20世紀の西洋史が好き

私は、特定の人物の生涯に焦点を当てて、歴史を振り返る作業が好きです。その時代を生きた人のミクロの視点で振り返ることで、その時に起こったイベントの相互の連関や時代的評価が浮かび上がります。

高校時代に学んだ世界史の影響で、ナポレオンの登場〜第一次世界大戦あたりまでの西洋史が好きです。当時は、文学部の史学科に進み、西洋史の研究者になりたいと考えていました。

結局、大学は法学部に進み、国際法を専攻しました。国際法を学ぶことはそのままヨーロッパの歴史と関係性を学ぶことでもありました。今でも、西洋史への憧憬と愛着は持ち続けています。書店で関連する書物を見つけると結構な頻度で買い求めています。本書も同じ文脈で見つけたものです。

問題ある人物

天才的な外交手腕を持つプロイセン宰相、オットー・フォン・ビスマルク(Otto Eduard Leopold von Bismarck-Schönhausen 1815/4/1-1898/7/30)の辣腕によりドイツの統一が実現した後に登場したのが、本書の主人公で血気盛んな若きドイツ皇帝、ヴィルヘルム2世(Wilhelm II., 1859/1/27-1941/6/4)です。

多くの研究者が、彼の人格や能力について様々な視点から問題を指摘しています。第一次世界大戦のドイツ敗戦の元凶と考えられていて、あまり評判のよろしくない人物です。

実際、本書でも著者の筆はかなり辛辣です。

傲慢で独善的、癪症で衝動的、自信過剰で自己顕示欲が強烈とくれば、これはもう敬して遠ざけるのが賢明、という相手

といった表現をはじめ、手厳しい表現が随所に出てきます。

今こそ、第一次世界大戦を学ぶ意義がある

オーストラリアとセルビアの地域紛争が第一次世界大戦に拡大した経緯については、いまだ謎が多いとされます。

本書によると、意外にもヴィルヘルム2世は戦線拡大に消極的だったようです。ただ、随所随所にヴィルヘルム2世の性格的欠点が浮き彫りになった形の失策が重なり、事態を深刻化させたのは事実のようです。

彼自身の判断ミスに起因する失政の積み重ねが、新興のドイツ帝国を没落させ、敗戦の辛酸を舐めさせる大きな原因を作ってしまったのに、本人にはその自覚と責任感が最後まで欠如していたようです。

本書の中で、皇帝になる以前の生い立ち、育ち方、偏屈な考え方なども丁寧に描写されています。ヴィルヘルム2世と似た特性(無類の旅好き、刻苦勉励を嫌う など)を私も持っているので、自分自身が批判に晒されているように感じた部分も多くて居心地が悪かったです。

そんな評判のよくない近寄りたくない皇帝は、昔から何となく気になる歴史上の存在でもありました。ドイツ現代史を学ぶ上で外せない人物です。西洋史が好きな方には丹念に書かれた本書の一読をお勧めしたいと思います。

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