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華麗なる1500m

私は、陸上競技の1500m競争(通称センゴ)のファンです。400mトラックを、3周と3/4周する1500mは、オリンピックや世界陸上でも最終日に組み込まれることも多い種目です。『陸上トラック競技の華』として、陸上競技が盛んな欧州では最も人気があるレースになっています。

レース序盤から中盤では、陸上の格闘技とも形容される激しい位置取り合戦と選手同士の決死の駆け引き合戦が繰り広げられます。ラストの直線でのスプリント勝負はスリリングで、見応えがあります。一団から脱け出す一瞬の反応のタイミングの差が明暗をわけます。人々を熱狂させるエッセンスが、3分半強のレースに凝縮されていると思うのです。

貴公子、セバスチャン・コー

私が中距離レースのファンになったきっかけは、1980年モスクワ、1984年ロサンゼルスの五輪男子1500mで二連覇したセバスチャン・コー(1956/9/29- 現在は国際陸上競技連盟会長)の存在です。

『貴公子』と言われた端正なマスクと圧倒的なラストスパートで人気を博した英国の英雄です。どちらかと言えば小柄な体格ながら、残り200mからのスプリントの切れ味は抜群でした。

五輪連覇を決めたロサンゼルス五輪の1500m決勝のレースは感動的でした。当時27歳とキャリアの晩年を迎え、年齢的な衰えも指摘されていました。英国の後輩で、優勝候補筆頭だったスティーブ・クラム(1960/10/14- 1983年ヘルシンキ世陸金、1984年ロサンゼルス五輪銀)を抑えて、勝ち切ったレースは見事でした。

1970年代後半から1980年代前半の英国は、コー、クラム、スティーブ・オベット(1955/10/9- 1980年モスクワ五輪800m金)と名ランナーが揃い、世界一の中距離王国でした。上流階級出身のコーと庶民階級出身のオベットとのライバル関係と確執は、今も語り草となっています。

一世を風靡した中距離界の名ランナー達

1980年代以降になると、アフリカ選手が台頭してきて、世界の中距離界を盛り上げてきました。

1500ⅿは世界大会の複数優勝者が多い競技で、アルジェリアのヌールディル・モルセリ(1970/2/21- 1991年東京世陸、1993年シュトゥットガルト世陸、1995年イェーテボリ世陸、1996年アトランタ五輪)、モロッコのヒシャム・エルゲルージ(1974/9/14- 1997年アテネ世陸、1999年セビリア世陸、2001年エドモントン世陸、2003年パリ世陸、2004年アテネ五輪)、ケニアのアスベル・キプロプ(1989/6/30- 2008年北京五輪、2011年大邱世陸、2013年モスクワ世陸、2015年北京世陸)などは、その代表格です。

世界最先端の1500mレース

今は、長距離種目同様にケニア勢が強く、2017年ロンドン世陸の1500ⅿ決勝でワンツーを達成した、エリジャ・マナンゴイティモシー・チェリヨットが所属するRAC(ロンガイ・アスレチッククラブ)のコーチ、バーナード・オウマの指導とトレーニング方法が注目されています。おそらくこの二人が現役の世界最強の中距離ランナーでしょう。

RAC所属の選手は、ラストのスプリント能力も超一流ですが、400~1200mのレース中盤でも中弛みなくハイペースを維持し、ゴールまでそのスピードで押し切るスタイルで注目されています。今年のドーハ世陸、2020年の東京五輪での活躍が楽しみです。

1500mランナーの暗部

残念ながら、1500mで名を馳せたランナーには、ドーピング疑惑のある選手が多数います。2008年北京五輪を制したバーレーンのラシド・ラムジ(1980/7/17- 2005ヘルシンキ世陸)は後のドーピング検査で禁止薬物が検出され、金メダルを剥奪されていますし、前述の名選手達も禁止薬物使用疑惑と無縁ではありません。

日本中距離の現状と希望

日本の中距離種目は、世界のトップとは距離がある状況が続いています。しかしながら、最近は箱根駅伝で優勝した東海大学勢が積極的に1500ⅿのトレーニングを取り入れるなど、じんわり盛り上がりを見せつつあります。

2017年・2018年の日本選手権1500mを二連覇した東海大学・館澤選手や、3分30秒台のベスト記録を持つ中央大学の舟津選手は、将来の期待大です。

かつて世界と距離があった短距離種目で、世界レベルの日本選手が多数出現してきています。今後、中距離種目でも強化が進み、世界のトップレベルで活躍する日本選手を見てみたいものです。

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