見出し画像

『アリとキリギリス』 知られざる結末

誰もが知るイソップ寓話『アリとキリギリス』には、誰も知らない驚きの結末がある。原作では、遊び呆けるキリギリスに対し〝冬の備え〟に勤めるアリを讃える。しかし、本当にそうだろうか? 真に〝幸福〟なのは、どちらなのだろう…? そんな小生の疑問を元に、物語をリメイクしてみた。あなたは、どう感じるか?

はじめに/短編小説『アリとキリギリス』知られざる結末
(このあと本編/3分で読めます)


◾️『アリとキリギリス』知られざる結末


いつものお花畑の〝ステージ〟は
いつも以上に、最高に盛り上がっていた…!



ミツバチの熱い手拍子♩
コオロギが掻き鳴らす洒落たBGM♫
小鳥のさえずりは絶妙な合いの手となり♪
蝶の羽音が重低音を醸し出す♬
ひまわりもチューリップもたんぽぽも
リズムに合わせてワルツを踊る🎶



そのアンサンブルのど真ん中…
夢中でタクトを振り、歌う主役は…


もちろん…キリギリス!!!


彼が奏でる〝歌と音楽〟は

いつだって観客を魅了し、熱狂に巻き込む。
誰もが〝いてもたってもいられない〟ほどに。


〝音楽の力〟の恩恵だけではない。
キリギリスの才能。それを凌駕する努力。


彼は物心ついた時から
一日たりとも〝歌わなかった日〟は無い…

でも、当のキリギリスは
〝努力〟してるつもりなんて微塵もない…


ただ毎日が愉しくて〝幸せ〟…
だから来る日も来る日も続けてる…


そもそも、ここは単なるお花畑だった。
ステージなんて無かった…
最初は彼が一人で、愉しく歌っていただけ。


ところが、その歌声は圧倒的な吸引力で
あらゆる生き物を魅了
していった…


観客が〝歓んでくれる〟ことは
キリギリスにとっての〝歓び〟になった。

いつしか、歌うことが〝生き甲斐〟となった。


今日も〝幸福〟な一日になるはずだった…
ところが〝異変〟は突然やってきた…



「誰かが倒れてる…!」
第一報を伝える小鳥たち。



ざわめきと悲鳴がステージを中断する。


キリギリスは歌をやめ
ざわめく野次馬の中に分け入った。 


倒れていたのは…
一匹の…瀕死のアリだった…。


駆け寄るキリギリス。
「あ、アリ君…一体どうして…!?」


アリは…かろうじて答える。
「キリギリス君…ごめん…
 僕のせいで騒がせてしまって…」


アリは酷く衰弱していた。
消え入るような声で経緯を語る…



アリたちの巣穴が、突如、アリクイに襲撃されたこと。蓄えていた食料も仲間のアリたちの命も、一夜にして、すべて奪われてしまったこと。壊滅の最中、自分は何とか一命だけはとりとめ、命からがら逃げ出してきたこと…



残酷すぎる悲劇…
キリギリスは、言葉を絞り出した。


「あ、アリ君…よくぞ、生きていてくれた…
 ボクに何かしてあげられることはあるかい



アリは、声にならない声で答える。

「き、キミの歌が聴きたくて…不思議だな…
 気付いたら、ここに来てた…」



キリギリスは、微笑みを返した。

「お安い御用だ。さぁ…盛り上がろう!!」


もう一度、最初から唄い直す。

努めて明るく笑顔で。心を震わせて。
〝想いよ…届け!〟と言わんばかりに…


歌い上げると、すぐさま
キリギリスはアリに駆け寄った。



「さあ、アリ君、次は何が聴きたい!?
 どんなリクエストにも応えるよ!!」



アリの声は、さらに小さくなっていた。

「ありがとう…キリギリス君…
 キミの歌は…本当に素晴らしいね…
 どうして…気付けなかったんだろう…



言い終えるや否や、アリは吐血した。


「あ、アリ君!!!」叫ぶキリギリス。


アリは目を閉じ、静かに続けた。

「思えば、僕らは将来の心配ばかりしてた…   
 来る日も来る日も〝備え〟に奔走して…」
  


「アリ君!もういい!それ以上喋るな!!」


そんなキリギリスの制止も聞かず
アリは擦れ切った声で呟いた…

「こんなことなら…もっと…
 好きなことを…やればよかった…かな…」


「アリ君!もう…」


アリはキリギリスを遮り、続けた…
まるで残りの命を絞り出すかのように…


「ぼ…僕の人生は、何だったんだろう…
 キリギリス君、教えてくれ…どうしたら
 キミみたいに生きられるのか…?


キリギリスは首を振り…苦悩した。
それでも、真正面から、答えた。


「ボクはね。毎朝、自分の心に聞くんだ…
 〝もし今日が人生最後の日だとしたら
  自分は何をしたいだろうか…?〟
って」


アリは、かすかに目を開いた。
そんな考え方に触れたのは、初めてだった。



キリギリスは優しく続ける。

「ボクは、ただ自分に正直に生きてきただけ。
 それはアリ君たちも同じだと思うんだ…」


アリは、キリギリスの目を見つめた。
キリギリスは、真っ直ぐな視線で応えた。

「アリ君、思い出してみて…
 仲間と励んだ日々を…ボクは羨ましい。
 きっと、色んな〝幸せ〟がそこにはある」

 
 

アリの記憶が駆け巡る。
それは仲間と過ごした日々。


辛く我慢の日々ばかりだったはずなのに…


不思議と脳裏に蘇るのは

仲間と助け合った日々の充実感。
憩いの団欒…何気ない会話…交わした笑顔…



アリの頬を、一筋の涙がつたう…



「キリギリス…
 最後に…キミに逢えて良かった…
 ありがとう…」


キリギリスは、ぎこちない笑みで答える。
「アリ君、なにいってる…最後なんて…」



だが、アリは…
もう…答えなかった…



キリギリスは、アリを抱き上げた。

「あ、アリくん…? アリくん…!?」



その問いかけは
何度も…虚しく…宙を彷徨った…


すこし前の賑わいが嘘のような静寂…
そこにいる全ての命が、ふたりを見守った。

 

キリギリスは

腕の中のアリ君をギュッと抱き締めると
大きな蓮の葉に、彼をそっと預けた…



「アリ君、聴いていてくれ…
 これは、キミだけに贈る歌」



手の甲で、頬を拭った。
何度か、大きく深呼吸した。


微笑みをこしらえて、アリ君に語りかける…

「キミへの…レクイエム(鎮魂歌)」


キリギリスは、ありったけの情熱を込めて
全身全霊で、静かに…優しく…歌いだした…


【 了 】

最後までお読みいただき感謝します。アリとキリギリス…両者の生き方に、正解も不正解もない。大切なのは〝今日の幸せ〟に気付き、感謝し、毎日を丁寧に生きているかどうかなのではないでしょうか? 私はそう思います…あなたは、どう思いますか? ぜひコメントで教えてください。
本作は「創作大賞」応募作品です。皆さんのスキ・コメントなどの応援が、選考にプラスに働きます。更にシェア・拡散して貰えたら最高に〝歓び〟ます。皆さんの熱き一票を。応援・ご協力をぜひぜひ、よろしくお願いしますm(_ _)m

あとがき/短編小説『アリとキリギリス』知られざる結末

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?