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精密機械のやうな(『ヴァーチャル・リアリティー・ボックス』穂崎円:著)

アンティークの精密機械を触っているような、こわごわと読む感覚が面白かった。装丁のヴィンテージ感も手伝って、そんな雰囲気を感じさせてくれる。

ファンタジーの感が強いものが多く、その錆びかけのなにかをことばに起こしたかのような儚さが好きだ。一方で、ツイッターを現出させたり、古い歌をリライトするなど、現代的な面もある。その往還を楽しむことができるのが、本作の魅力だろう。戦争への意識がたびたび織り込まれ、はっとさせられる瞬間がたびたびある。

ページを開けばわかるが、ただ文字が並んでいるわけではないデザインの凝りようは、まさに私家版にしかできない技だと思う。

(なんどめの戦争ですか)  (戦争はひとつふたつと数へるもんか?)                                     ー 人称論、または、リバイバルー

こういう戦争へのリアリティみたいな歌がとても胸にくるのだけれど、すべてを引用するわけにはいかないので。生々しさがあるのと、欠如感があるのが、混在していて、しかしそれが人間の世界なのかもしれない、と思わせる。

広がる暗い世界は、しかし現実の鏡写しなのだ。


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