イラストの著作権譲渡について考える。

今回この記事を書くことになった経緯を少々。

最近、とあるサイトのニュース記事のコメント欄で、「イラスト業界は著作権全部譲渡されるのがほとんどです」や「8割が譲渡契約させられます」という匿名の書き込みを見つけたので、正直驚きました。「んなわけあるかい(笑)」と。

「8割が」とか情報の出所も不明な匿名のコメントですので、そんなに気にすることでもないのですが、「譲渡させられます」と、まるで相手から一方的に強要されたような表現だったので、業界に身を置くものとして不安にもなりました。同じイラストレーターでもピンからキリまであるかもしれませんが、そんな契約が勝手に一般化されたらたまったもんじゃないと思いました。

私自身の経験になりますが、著作権譲渡契約を結んだのは過去の副業時代も含め計20年くらいの活動の中で数えるほどしかありません。それも特殊な案件のみです。それぐらい稀なケースであり、そして「契約」とは双方が合意のもとで結ぶものであって強要されるものではないので、後になって実は納得してないなどと愚痴るのもおかしいなと思っています。甲乙どちら側にも条件に納得出来なければ自身の要望を伝え協議する権利がありますし、それでも納得出来ないなら締結しないという選択もあります。

自身の著作物は「財産」であり、「譲る」も「譲らない」も最終的に決めるのは他人ではなく著作権者自身ではないでしょうか。

著作権譲渡のメリットを考える

あくまで個人的な意見として、メリットは料金的な面(一般的に割高になる)しかないと思っています。ただ、著作権の種類は細かく分類されているので、全部を譲渡するのか一部を譲渡するのか、その条件によって考え方が変わってくるかと思います。文化庁のマニュアルでも「著作権の譲渡範囲は明確にする」とありますので、そこもちゃんと確認するべきです。著作者人格権については譲渡できないことになってますが、「著作者人格権不行使特約」なるものがあるようで、著作権譲渡契約書を読まれた方ならお分かりの「著作者人格権を行使しない」という条文です。経験上、譲渡契約の場合はまるでテンプレのように著作者人格権不行使もセットになってるのが多いように思います。

著作権譲渡のデメリットを考える

著作権を全部(人格権不行使も含め)譲渡するということは、譲渡された側が思い通り自由にできるということです。創作者の許可は必要無く改変はもちろん二次利用も商用も好きなようにできます。また、創作者であっても譲渡された側の許可なく実績として公表することもできませんので、譲渡された側の対応によっては次の仕事に繋がる可能性も格段に減ると考えられます。それぐらい公表できる実績の積み重ねは重要です。

私が最も著作権譲渡にデメリットを感じるのは、広告関係の制作案件によるものです。実際私にも企業から譲渡希望のお話はありますが、説明をした上で譲渡自体はお断りしてます。なぜなら大前提として広告でのイラスト使用の場合、同業他社とのバッティングが厳禁だからです。問い合わせの際、現在同業他社でイラストを使用しているか必ず確認されます。理由は想像できるかと思いますが、同じ時期に同じ絵柄のイラストを描いた人が同業他社の広告で使われてるのはトラブルの元になるので絶対に使いません。

(例)過去に、ある業種のA社と著作権譲渡契約を締結し、自分の管理下から離れたイラストがあるとします。今回新たに同じ業種のB社から広告用イラストの依頼が来た場合、同じ絵柄のイラストがバッティングしないか過去に譲渡したA社または間に入ってる広告代理店や制作会社等に対してイラストが現在も使われてるのか、または今後使う予定があるのかを直接確認しなければならなくなります。「現在も使ってる」「今は使ってないけど予定はわからない」「社外秘です」等が想定されますが、そもそも部外者に教えること自体難しいので、せっかく頂いた新しい依頼も後々のトラブル回避のため断らざるを得ないでしょうし、B社側もそういう方に依頼するのは避けたいのではないでしょうか。極論かもしれませんが、同業種からの新規依頼は永続的に受けられなくなる可能性もあるということです。しかも、A社がそのイラストをどのように使うも自由ですから、もしかしたら別の事業に展開するかもしれませんし、全く関係ない別会社に譲渡する可能性もゼロではありません。

最後に

私は基本、特殊な案件(例えばキャラクターデザイン等)以外の著作権譲渡は受けないようにしています。理由としては先にも述べたデメリットの大きさです。本来なら、広告の場合その性質上著作権譲渡契約よりも、使用期間を定めた利用許諾契約の方が企業側にとっても何かと安心だと思いますが、なぜ譲渡を希望する企業があるのか考えられる理由としては、間に入っている広告代理店や制作会社の意向も多分にあるのかなと感じます。経験上、やはり自分の権利は自分で守るしかないと思わされる実例もありましたが、それはまた別の機会があれば書こうと思います。

最後までお読み頂きありがとうございます。
時間がありましたら、次回はイラストレーターのマネジメント会社について自分の考えを書きたいと思います。


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