見出し画像

詩 I 涙腺ファスナー


開けるつもりはないのに
勝手にひらいてすぐまた閉じる
わたしの涙腺ファスナー

あの人がいなくなって
つらい想いがあふれ続け
いっぱいになりかけていたの


ぜんぜん気づいていなかったわ
あの人へのこんな思い
もう忘れたと思っていたのに


今ごろあの人はなにをしてるのかしら
あの笑顔は変わってないかしら
たまにはわたしのことを
思い出してくれてるのかしら


わたしはたまに思い出すのよ
いえ、たまになんてうそだわね
やっぱり忘れてなんかいやしないわ


忘れようとするたびに思い出すのよ
わたしの意識の中にあらわれるたび
あなたは積み重ねられていく


もういっぱいだと思うとき
涙腺ファスナーはうごきだすの
すべるように なめらかに
さらさらと溢れだした
あなた色の涙

涙腺ファスナーは涙に浸り
きらきらと輝きだす
わたしはすこし成長する
「ありがとう、またお願いね」と
小さな声でささやくと
ゆっくりゆっくり閉まっていく




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?