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お母様方の愉しみ

 たとえばお母様方、いや所謂オカン同士などで外食したりすると 大層うるさい。まぁただでさえうるさいのだが、家の外でも主婦ならではの視点というものがあり、特にメシ関係の場面では男にはないアンテナが反応するのか、出てくる料理にいちいち注釈やケチをつけたがる。神はあの本能ともいえる感覚をどうして創造されたのであろう。できればその場に居合わせたくはない私だったが、先日不運に見舞われ、そんな中に同席する流れになってしまった。

 『こんなんチンしただけやん』大きくはないが聞き取れる大きさの声で 店員がいないか確認してから 主婦Aがボソッと言う。『そやなぁ』主婦Bが応える。『これ缶詰やん!』。これにも『ホンマやなぁ』と同意が返る。『盛っただけやで、これ!』『これで490円やて、ボッタクリちゃうの?』・・・。横に座る私はもうそろそろこの辺でやめて欲しかったのだが、なかなか主婦たちは料理に対するツッコミをやめない。で、これ程ケチをつけているから食べないのかといえば、これがバクバク食べるのだ。

 私はそのテーブルで小さくなりながら思った。たとえその料理が『切っただけ』だったとしても、食材をトラックで運んだ人もいれば 出す食器もタダではないし そこに盛り付ける人もいる。それら関わる人の給料や店の家賃や水光熱費だってあるだろう。高いか安いかはその人のモノサシ次第だが、主婦はその一皿を原価で食べないと気が済まないのだろうか?

 旦那や子供の話題を盛り込みながらワーワー談笑している声を BGMに、私はある確信にたどり着いた。主婦たちは文句を言いながら とても愉しそうなのである。きっと彼女たちにとって、メニューの一つ一つにケチをつけるのは、いわば普段の色々を発散するレジャーなのかもしれない と。私は愛想笑いをしながら曖昧に相槌を打っていたが、お母様方の笑顔を見ていると、なぜかこんな日もたまにはいいなと思えた秋の昼下がりであった。

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