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仏談 -ミス仏界-

 仏さまには性別はないという。性別などという俗なものには縛られていないのかもしれない。しかし天部と呼ばれる仏像(多くは「◯◯天』と呼ばれる)には、女性であることが明らかな、美しくたおやかな表情を見せるものがある。本日はそんなべっぴんさんについて。

 世の仏像好きの間で美人の誉れ高いものとして候補の筆頭にあがるのは、まずは京都は浄瑠璃寺の吉祥天(きっしょうてん)だ。真っ白なお顔にきれいなアーチ型の眉。私が尊敬してやまない、かのみうらじゅん氏も絶賛する美女である。厨子に納められた高さわずか90㎝という小さな仏様で、ふくよかなお顔がかわいらしくも妖艶である。
 ちなみにこの浄瑠璃寺、池を挟んで西に本堂(安置されているのは阿弥陀如来)、東に三重塔(同じく薬師如来)が配されている。この配置は前世の苦悩を東方の薬師如来が救い、阿弥陀様のいる西方の極楽浄土へ導くことを表している。よって庭の中心(現世)に立つと、三重塔の後ろから朝陽がのぼり、本堂の後ろに夕日が沈むのである。

 浄瑠璃寺の吉祥天ももちろんいいのだが、私は奈良は秋篠寺の伎芸天(ぎげいてん)の方が美女度は断然上だと思う。浄瑠璃寺の吉祥天がアニメのヒロインなら、秋篠寺の技芸天は実写ドラマの女優だ。言うなればドラえもんのしずかちゃんと有村架純さんくらい違うのである。
 見に行けばわかるが秋篠寺の伎芸天は後ろ姿が良い。配置の関係で真後ろからは見られないのだが(壁の前に置かれてある)、一番端なので斜め後ろからは鑑賞可能だ。なんでも首から上は後補らしいのだが、立ち姿も美しければ、とにかく『なやましい』とはあんな顔のことを言うのだ、というお顔をされている。

 数ある仏様の中で最も色んなことをやらされている仏(神)様、それは弁財天=弁天さまだと思う。昔から美人の代名詞になっているが、彼女ほど忙しいお方はいるまい。水だ、芸事だ、財宝だ(だから弁「財」天)。はたまた日本古来の宇賀神(とぐろを巻く形で表された蛇で、頭部だけがお爺さんの姿)と習合し、頭の上に顔が爺さんの蛇を乗せた姿になっている像が基本だ。究極は蛇だけのやつまである。こうなるともはや弁天さまと呼べるのか怪しい。
 七福神の紅一点でもある彼女、実は吉祥天とその座を争った経緯がある。宝船に乗り込む女神の席は一つだ。きっと芸達者で癖のあるところを発揮して、大黒天あたりにハニートラップをかけた可能性もあるんじゃないのか?
 またこの弁財天のバリエーションの中には、誰がそんなことしてしまったのか、裸体になっているものがある。私は裸になってお姉さん座りをしている弁天さまを見ると、体を売って日銭を稼ぐ娼婦に身をやつしたようでいたたまれないような気持ちになる。ここまでくると、持っている琵琶をポロンポロンと鳴らしながら、こぉんなぁ女にぃ誰がしたぁ・・・ と裸で歌っていてもおかしくはない。

 これらの美女以外にも女神はいるんだけど、はじめてということでとりあえず代表的なところを。お後がよろしいようで。

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