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ばらかもん

 にわかに五島列島が脚光を浴びているが、言葉がきれいすぎてなんだか入って来ず、あのドラマはほぼ観なくなった。劇中では、了解する意味での『オヨ!』が多用されているが、私が使っていた五島言葉においては、あの言葉は『あまりやりたくないんだけど、言われたから仕方なくやる・・・』といったニュアンスを含んでいる。だから快諾する時には使わない。
 ここで五島でよく聞く日常的な会話の一部を切り取って、いくつか例文を紹介しましょう。

1.アセンボヒチズッテン、アッタカモンヤタブゴチャナカッチ。

訳→汗がドッと出るから熱いものは食べたくないんだ。

 長崎では出前といえばチャンポンだ。しかし夏場のチャンポンは冷たい麦茶が必須になっている。
 ある日、知人の引っ越しの手伝いをした。新しい家にはクーラーなど無い。コンビニなどないから、その家で沸かした 出来立ての麦茶がチャンポンのお供だ。熱々のチャンポンを熱々の麦茶で7月にノンクーラーで食べる(笑)。その場は我慢大会の様相を呈した。これはもう『アセンボヒチズット』以外の何ものでもない。

2.スーグビャータルットネー、ツマラントバミレ。ヘッパァ、オッヤドガンモナカ。

訳→すぐにへばってしまって情けないなあ!いやいや俺はなんともないんだって!

 例題は飲みの席でよく聞かれるワードだ。私が子供の頃は、男として生まれた者の共通理念として『男らしさ』や『男気』というものが、今の何百倍も重要視されていた。小さい子であっても陰口や告げ口なんかしたら大人からたしなめられたものだ。

3.コンイオヤコンマカイゲンザァマニアットバッテ、ギバッテタベンネバゾ。

訳→この魚は小さな骨がたくさんあるけど、頑張って食べないとダメだよ。

 夏の終わり。オババが焼いてくれるサンマは丸々と太っていた。以前ネットでマナー講師とやらが魚の食い方を教授しているのを見たが、コッチから食え、手で触るな、口に一度入れた骨を出すな、裏返すな・・・、とうるさいうるさい。私は思った。きっとあんたより私の方がサンマ食うの上手いよ。
 魚は美味しく食ったらいい。それ以上ではない。

4.ミジョカソニミユバッテ、ホンナカッヤビッツンナヒゾ。

訳→(一見)綺麗なように見えるけど、本当は不細工なんだぞ。

 大層失礼な話だが、男子高校生の休み時間の戯言だとしてお赦しを乞う。
 マスク美人っていうのが確かにあった。ウチの生徒たちも、入学当初からマスクをした顔しか見たことがなかったから、一緒に食事を間柄ならでもなければ外した顔を知らない。マスクを外し始めた頃、『お前そんな顔やったんか!?』みたいなことがそこここで起きたものだ。

5.ナンチヤウンガ!ウッコロサルッゾウンニャ!マーカブランゴチシテマッチョケ!

訳→なんだとコラ!ブッ殺されたいのか!?(今からお前の家に行くから)チビらずに待っとけよ!

 電話での口喧嘩の一幕。基本的に自分のことは『ワ』または『オッ』、相手のことは『ウン』だ。自分の家は『オゲェ』。家に来なよ!は『オゲェケー』となる。しかしこりゃ誰にもわからん(笑)  冒頭に『きれい過ぎる』と書いたのはそんな意味だ。


 五島に限ったことではないだろうが、入江があればそこに小さな集落が形成される。面白いことに入江ごとに習慣や言葉が、いわば文化が少しずつ違うのである(顔にも特徴があらわれるという人までいる)。一度海に出ないと隣の街には行けないというロケーションが独自の文化を作るのだろう。
 機会があれば今度は上五島(我が故郷 中通島界隈)を舞台にしたドラマを作ってくれないものか。方言監修や指導なら引き受けるぜー!

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