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美辞麗句

 世の中には耳障りのいい言葉というものがあって、何となく『そうだよなぁ』なんて いい気分になってしまいそうになるんだけど、実は実体が無かったりする。イメージだけの実効力は皆無っていうヤツがあるから注意を要する。

《心を一つにして》
 全員が同じ方向を向いて、一心にゴールを目指していこう! ってな時の常套句だったりするのだが、なんともわかりにくい言葉だ。確かに同じゴールを共有した仲間たちが同じ方向を向いた時、想定を超える結果が得られることはあるが、そんな時には言葉は無くても とても深いところで全員が繋がっているから、チームに飾った言葉は不要であり、こんなワードで鼓舞されても『わかっとるわ!』と、かえって価値と士気を下げてしまうように思うのである。

《楽しむことが大事》
 オリンピックや世界選手権に出場する代表選手が口にし始めたのだと思うが、今やこのワードは少年野球や、さらに小学校の運動会でも使われている。担任の先生が生徒たちに『何より楽しんでいこう!』みたいなことを言っているのである。子供たちは元気よく『はい!』と答えてはいるが、ハテ 楽しむためにはどうしたらいいのか・・・。子供たちにはその訓示の影響は皆無であり、いつも通りに野球やかけっこをやるのである。

《1人は全員のために、全員は1人のために》
 下の子供がサッカーの試合に臨む際、担当のコーチからこの言葉が発せられた。息子は私に似てへそ曲がりだから、『全員のために動くのはわかるけど、1人のために全員が何するんですか?』と聞き返し、コーチは白け、みんなは笑う、という場面に出くわしたことがある。ラグビー協会全体のキャッチフレーズにもなっているらしいが、私も息子に同意見であり、『響きだけはいい』典型だと思う。

《自分を信じて》
 信じられないのよ、これが。私は 私くらい優柔不断で信用できない人間はいないと感じるほどの自分不信である。メンタルトレーニングによって『自分はできる人間だ!』とマインドをコントロールして臨めるといいのかもしれないけど、よっぽどのコーチについてもらってその訓練をしている人以外は、そんなのムリである。

《誰一人取り残さない》
 いや美辞麗句ここに極まれり。一般社会でもそうだが、我々学校なんかでは生徒一人一人の経験・知識、また記憶力などが複合的にスキルアップのファクターになるが、ここに天性の器用さが加味され、最後にヤル気や向上心が掛け合わされる。変数がこれだけあると、良い方に飛びぬける者もいるが、取り残される者が出てしまうことも必然である。『誰一人取り残さない』ためには、フォローするために 別の能力と労力が必要となる。さらにこの変数は、指導する側にも当てはまるのである。 
 30人の教室でもこの達成は至難の業であるのに、数十億が住むこの地球において、そんなことは現実的だとは思えないのだが、私は間違っているのだろうか。

 ここで一句。

中身無き
  うたかたの檄(げき)
    美辞麗句

 お後がよろしいようで。



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