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相対的な生き方、絶対的な価値

 とある初冬の一日。その日は朝が滅法寒かったから、生徒たちも厚着で登校していたのだが、昼過ぎには季節が逆戻りしたようにポカポカになった。普段と変わりなく午後の授業が行われていた美容科の教室でそれは起こった。

 担当教員が授業中に居眠りをしている女子生徒に『起きなさい』と注意をした。若さとは眠さとほぼ同義語のようなものだから、午後の教室に漂うアンニュイな空気は、よほど意志の強い生徒以外は 両目の瞼が自然に落ちてくるのも仕方ないといえば仕方ない。

 しかしこの日はいつもとは少し状況が違った。注意された女子生徒はムシの居どころが悪かったのか、注意した教員に言い返したのだ。『他にも寝ている生徒はいるのに、私だけが注意されるっておかしいじゃないですか! 納得できません』と。その教員はベテラン中のベテランであり、教員たちの間でも一目置かれるほどの絶対的な指導力を持っていたこともあって、破綻のない返しで反論の隙を与えず その生徒の攻撃は脆くも駆逐されたのだった。

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 経験上『他にも同じような人がいるのに私だけ言われるのはおかしい・・・』と不満を持つのは、知る限り男がこの戦法で応戦しないところを見ると 女性特有の考え方だろうと思う。まぁしかし考えるに 他の全ての人の不正や過ちを指摘しなければ 自分にも指摘するなという論は、理論的でもなければ現実的でもない。これに似たような話はこれまでに何度も見聞きしたが、実際に遭遇した場面を紹介したい。

 原付で歩道を走っていたオバちゃんが前から来た自転車の警察官に呼び止められ、切符を切られそうになった時にコレが出た。『他にもやってる人いるやないの! なんで私だけ切符切られなあかんのよ! 他の違反者をみんな捕まえてから言うんやったら切符でも何でももろたるわ!』

 ・・・メチャクチャだとは思うが、ビジネスの現場でも案外コレに近しいことは起こる。女性の平等好き(失礼!)は男には理解できないことながら、その心は平等が好きというより 経験上平等でなければ丸く収まらないことを知っているから、波風は立てないようにしたいという心理が根底にあるのだと思う。

 悪さをした男子生徒を指導する時に『他の誰もお前みたいなことをやってる奴はいないぞ!』的な指導はほぼ効果がないが、逆に他の人がどう思うのか という関係性を気にする女子生徒には こんな言い方が有効であることが多い。他にも『君はグループ(友達、クラスなど)の中でも一番◇◇だな』みたいなほめ言葉が 女子生徒には効果的である。男に同じことを言っても『グループで一番って言われてもなぁ・・・』となるだけだ。まさに相対的な関係性で生きる女性ならではの話である。


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