見出し画像

美容文化論 ー日本髪 洗髪ー

 18世紀時分、日本髪を結った女性たちがオシャレのために使っていた整髪用の油は、木蝋(ろう)や植物原料を溶かして作られたもので、特に横への張り出しが特徴の両サイドの鬢(びん)の形を保つためには、サラサラしていたりネットリしている油よりさらに粘度の高いものが必要だったはずで、これは推測の域を出ないが、現代のポマードか あるいはさらにもっと硬い形状の油だったと思われる。
 ちなみに現在も鬢付け油は一般の小売店では取り扱いはないものの健在であり、京都の舞妓さんや大相撲の力士には必需品であるが、使われているものはほぼ『固体』といえる硬さである。そんな硬い油を塗って髪型を作るのだから、水をかければサッと流れる訳はなく、洗うのは大変だったであろうことは容易に想像がつく。

 皮脂に加えて鬢付け油でベトベトになった髪を、昔の人はどうやって洗ったのか? 当然油がついてるから埃もくっ付いて汚れやすいし、逆に取れにくかったに違いない。シャンプーなどなかった当時、洗剤としてよく使われたのは 文献によると ふのりと小麦粉が一般的な洗浄剤として、さらに古くは植物を燃やした後に残る灰(灰汁)や、ぬか袋と称する 米糠や鶯のフンを布の袋に入れたものが使われていたとある。

 地域差や身分による差はあるものの、江戸時代の女性たちは、多い人で月に1〜2回、接客業の遊女でも月に1回しか髪は洗わなかった。中でも『京阪の女は髪洗うこと稀・・』という文献も存在するところを見ると、関西の女性は滅多にシャンプーはしなかったようだ。そんな人は『髪を洗はざる婦女は唐櫛を以って精く梳り垢を去り、しかる後匂油を用ひて臭気を防ぐ・・・・』らしい。しかし衛生上の観点でもなかなか随分な話だ。
 しかしこれが不潔だといって昔の日本を気持ち悪がるのはちょっと早計である。例えば同じ時代である17〜18世紀における世界の文明の最先端であるヨーロッパはどうだったのか? ルイ王朝やマリー・アントワネットなんかの肖像画を見ると、いい香りが漂ってくるような錯覚に陥るけど、当時のパリはトイレという設備を 我が国のように重要視しなかったせいで、街は糞尿の匂いで充満し、セーヌ川にはおびただしいウン◯が群れとなって流れていたのである。なにせ家にトイレを作らなかったから、オマルに用を足して窓の外に捨てていたんだからね。このあたりについても別稿で 香り高く語ろうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?