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映画「ラースと、その彼女」青年とリアルドールの純愛の行方

これから、ちまちまと
発掘良品的(単純に私の好みの)映画を投稿していこうかな。

あくまで感想文なので、ネタバレも込みになります。ご了承ください。

今回、私が独断と偏見で選ぶ発掘良品映画。

「ラースと、その彼女」(2007)

原題:LARS AND THE REAL GIRL
公開年:2007年
上映時間:106min
監督:クレイグ・ギレスピー
製作国:アメリカ

今作は、「ラ・ラ・ランド」でも知られるライアンゴズリングが主演をつとめる作品である。
彼の出演作のなかではマイナーな今作だが、もっと知名度が上がってほしいという願いを込めて今回選んでみた。

心優しいけれど人と関わるのが苦手な青年・ラースは、ちいさな田舎町で兄夫婦と暮らしていた。兄夫婦は、不器用で独り身の彼を常々案じていた。

そんなある日、「新しい彼女ができた」とラースが紹介してきたのはまさかのリアルドール!
そこからラースとリアルドール「ビアンカ」との新しい生活が始まるのだった。

現実離れしたこの設定から、一瞬コメディを予想してしまうが、全くそういうテイストではないこの映画。だからこそ笑ってしまう部分もあり、コメディとはまた違う笑いが生まれる作品なのである。

(↓病院の待合室にいるラースとビアンカ)

リアルドールのビアンカを本気で彼女だと思っているラースは、痛々しくてもちろん見ていられない。案の定、共に暮らす兄夫婦は最初戸惑いを隠せない。ラースの兄は、実の弟の度を超えた行動に狼狽える。

しかし、そんなラースを嘲笑するような登場人物は、今作ではひとりも登場しない。
このような変わり者(マイノリティ側)が主人公の場合、マジョリティ側のイジワルな人物の登場が付き物だが、それが一切無い。

ちいさな田舎町の中で、住民たちは町ぐるみでラースの空想・妄想に付き合っていくのだ。

とはいえ、町の人々も最初は受け入れるまでに時間がかかった。それでも次第にラースと同じようにビアンカに接し、ビアンカの存在を受け入れていく。人々が大真面目に、真剣に、受け入れ難いはずのラースとビアンカに向き合っていることが今作が素晴らしい理由のひとつである。

さて、どうしてラースがリアルドールを本当の彼女だと思うようになったのか?まさかこのまま、一生リアルドールを自分の彼女だと思って過ごしていくのか…?

その点についても、今作は丁寧に描いている。

ビアンカの出現は、ラースが過去のトラウマから目を逸らすための存在だったのだ。

それと同時に、

自分の抱えるその問題を克服するために、ラースが必要とした存在でもあったのだった。

そのためラースが自分の問題に向き合えるようになっていくにつれ、自分の思い通りにできる“人形”であるはずのビアンカとの関係は悪化していく。

ビアンカはラースにとって辛い現実から目を背けるための救いでありながら、現実を受け入れるようになるための障害物でもある。
彼女の存在意義は相反した2つから成っているので、このように葛藤が起きるのだ。

「複雑」という言葉がとてもしっくりくる。

ラースのように、自分の中に生まれる矛盾に苦しめられること。分かる人には痛いほど分かるだろう。
この複雑さは、論理的なものでは解決できないのだと思う。

そしてついには、ラースが抱えていた問題を乗り越えることができる日が訪れる。乗り越えた先の描写も、丁寧で優しい。

ラースに見られる ちいさな変化。

いつもの日常が劇的に変わるのではなく、それまでと変わらない光景。変わらない周囲の人間との生活。ただラース自身のなかに確かに芽生えた変化。このちいさな変化のその先に見える希望の大きさに、胸がぽかぽかするラストなのだった。

この映画は、まるでなにかの障害の治療過程が描かれているようにも思える。
しかし、ラースのこの現象を障害と捉えるならば、この映画は問題を抱える本人に向けてではなく、その周りの人たちに向けてのメッセージなのだと私は思った。

周りがいかに本人の問題と接していくか、どう向き合うか。本人が抱える問題を乗り越えることは、あくまで本人次第なのだが、周りの人間がいかなる支え方をするかも大切なことなのだと教えてくれる作品であった。
個人単位の問題、自分自身の問題がテーマのようで、終始人と人とのつながりを感じるものだった。

町の人たちが、ビアンカとの関わり合いを通して心に変化が見られたり、支える側の人間にも変化が訪れていくのも面白い点である。
少し飛躍しすぎるかもしれないが、健常者にとっての障がい者との関わり合いが生む意味や、介護される人間とされる側、あらゆる解釈にいきつく作品であった。

現実で、このような老人が多く閉塞感あるちいさな田舎町でラースのような出来事があれば、ほとんどこの映画のようにはいかないだろう。すぐさまラースの奇人ぶりが噂で広まり、古い考えの老人に矯正されるかもしれない。現実で考えるとモヤモヤとしてしまうが、それでも実現不可能な綺麗事映画では決して無いと思った。

田舎町を感じさせる落ち着きのある映像に癒され、温もりを感じられる物語なので、多くの人に観てほしい作品。眠る気が起きない夜とか、おすすめです。


#映画感想 #映画鑑賞 #note映画部
#ラースとその彼女 #ライアンゴズリング

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