単発小説

12
ノート

姉のいる隣室

ぼくたち双子の小学生の終わりに、ひとつだった子供部屋がふたつになった。それまで一つ部屋で暮らしていたぼくら姉弟の生活は、薄い壁に仕切られた筒抜けの個人活動へと変わった。

 中学校にも馴染んだころ、その後数年にわたってぼくを苦しめる騒音がはじまった。ひどいときには朝までつづく姉と友達の姦しいさわぎは、ぼくの人権を確実に侵害していた。この事態を反面教師に、ぼくはヘッドホンを愛用し、物音のひとつも漏ら

もっとみる
ひみつ:アイコンのねこはうおーとなきます
3

風景描写の練習

青年は踏み出しあぐねていた。
 遙か前方には、頂上も見えぬほどの、恐るべき台地が立ちはだかっていた。それはおよそ自然界にあるべからざる形の、雲を貫き、遙か宇宙まで続くであろう岩の円柱だった。青年の乏しい想像力は、地下で根を張り、天井を貫くまでに育った大樹の幹にこれをなぞらえることで、なんとかその異様を了解しようとした。
 その頂上にあると覚しき滝口からは、これまた一本の水の柱とも呼ぶべき瀑布が駆け

もっとみる
おかゆいとこなどございませんか
2

川向こうのあなたへ

やあ、見えてるかい?
 もしあなたがこれを見てくれているのならば、ぼくの願いは叶ったってことになるね。

 ぼくはあなたをいつも見ていた。
 気持ち悪いと笑わないでほしい、なにせ「こっち側」には誰もいないし、何もないんだ。川向こうを見るしかないだろう?
 「向こう側」で笑うあなたたちはとても楽しそうで、ぼくにはそれがまぶしかった。いつだって羨ましくて、そのなかに交じって遊ぶ空想を浮かべてはため息を

もっとみる
おれいに福をまねきます
8

短編:生ける壺 増補版

手直しする約束の短編を書き直してみました。

 これね。良くなったいや駄目になった、ご感想を聞いてみたく思います。

◆生ける壺

 日課の散歩の途中、足先が何かに当たった。見れば陶製の壺が転がっている。装飾のない簡素なもので、腹が膨れた円筒、というだけの単純な形だ。壺は蹴られたままの勢いで五メートルほど転がって行き、道端のブロック塀に擦れて止まった。
 今時壺とは珍しいが、気に留めるほどのもので

もっとみる
おれいに福をまねきます
3

短編:生ける壺

あんまり元気がないから昔書いたやつを引っ張り出してオチをつけた。手直しは後だ。前に投稿してないことを祈る。

◆生ける壺

 ある日、日課の散歩の途中、足先が何かを蹴った。目をやれば陶製の壺が転がっている。装飾のない簡素なもので、腹が膨れた円筒、というだけの単純な形をしている。壺は足がぶつかったままの勢いで飛んでいき、道を挟んで向かい側にあるブロック塀に擦れて止まった。
 今時壺とは珍しいが、気に

もっとみる
ありがとうございます!ねこはよろこんでいます。
4

短編:七色の短冊日記

毎日まともな文章を完成させるというのはひどく大変なことだな…… ま、ぼくは「まともな」を抜いているから楽なもんだが。ハードルは下げていくぞ。正味な話連続投稿なんて、面倒な鎖を繋ぎ始めてしまったと後悔してんだから……

◆七色の短冊日記

 少年はありがとう、と言った。
 幼稚園児か行っても小一の、児童と表現するのが相応しい年頃だ。その彼が俺の手に、感謝とともに紙の輪っかを巻き付ける。
 おそらくは

もっとみる
(うれしがっている)
4

新陳代謝

ジリジリと、偽善的な電子音でベルが鳴る。三分ほど騒音を無視すべく格闘したのち、私はばね仕掛けのように飛び起きた。今日は会議だ。身だしなみを整えなければ!
 洗面台に立つ。無精髭と蓬髪に覆われた陰気な表情が私を出迎える。普段は内勤めのおかげでこの格好でも(なんとか)許されているが、今日はそういうわけにもいくまい。
 シャツを脱ぎ、シェービングクリームを頬に塗りたくる。首にも、胸にも、脚にも。体を横断

もっとみる
(うれしがっている)
3

影の薄さの治し方

いい天気だ。雲一つない青空のど真ん中に、太陽はいかにも堂々と居座っている。
 わたしは視線を傾ける。太陽は視界の右端にフェードアウトし、左から滑り込んできたアスファルトが青空を右半分にまで押し込んでしまった。日に焼けた舗装道路の向こう側から滑るように近付いてきた大型トラックが、わたしの両肩を引き潰し、去っていった。
 トラックの後輪には、うまい具合に引っかかってしまったわたしの右腕がまだ張り付いて

もっとみる
ひみつ:アイコンのねこはうおーとなきます
8

日記

5月16日 日記
 この日記を書き始めて数日。ようやくまともに書けるようになってきた。
 最初はタイトルを書くのも大変だったものだが、五日目あたりから書くのが苦にならなくなり、四週目も近付いた今では、一日一ページ近くをコンスタントに書けるまでになった。
 せっかく手に入れた日記帳だ、存分に使わせてもらおう。

4月20日 殺人事件
 この日記を書き始めたのはいつだっけ? 机の上ですっかり埃を被って

もっとみる
ありがとうございます!ねこはよろこんでいます。
7

「足」

平成末期の某年、春。
 ベタ惚れだった彼女にフラれ、ついでに勤めていた会社もつぶれ、一切のやる気を失っていた頃のことだ。俺は昼日中からバイトもせず、好物のアイスをビニール袋に提げて、アパートへの道を辿っていた。
 ちょうど姿が見えてきた我がアパートは、ごく普通の二階建て。俺はその一階部分で一人暮らしをしている。家賃の安いだけがとりえのボロアパートだ。
 郵便受けに溜まったチラシを共有ゴミ箱にぶち込

もっとみる
うおっ(急なスキにおどろきつつお礼)
6