課金アプリ:投げてもらえないという配信者の悩みに、リスナーとして思うこと

大体の場合、お金を払うことは、サービスや商品を得ることに繋がる。例えば、最低月額790円払うとNetflixで映画やドラマをみられるようになる。690円払うとスターバックスの季節限定フラペチーノが飲める。


お金を払っている人は、所謂「お客様」で、何か問題があればクレームをする人もいれば、ただ買わなくなる人もいる。競合はいくらでもあるから。スターバックスが好きじゃないと思えば、タリーズ、ドトール、エクセルシオールなど他のカフェにいけばいい。だから企業はあれこれ策を講じて、自社の商品やサービスを消費し続けてくれるように努力する。

逆にお金を払わなければこれらのサービスや商品を得ることは出来ないのは当然で、なぜ無課金で楽しむことが出来ないのか、と文句をいう人は恐らくいない。お金を払うことが前提の商品・サービスだから、当然である。

ところが最近は、無料でかなりいいサービスや商品を利用することができる。動画配信で言えばYouTubeやTikTok、Twitch、それ以外で言えばGoogleマップ、Spotifyなどがパッと思いつく。これらは、ベーシックは無料、アップグレードしたければ有料課金となる。例えば、広告なしで見たいから月額1,280円払ってYouTubeプレミアムに加入する。ただし、企業にとって無課金のユーザーが要らない訳では無い。なぜならこれらは、広告収入がメインの収入なので、無課金ユーザーを無下にすると企業存続の危機につながる。課金版に移行しませんかと宣伝はされても、移行しないからといってサービスの提供はもう出来ませんよとは言われない。むしろ企業にとって収益のメインは無課金ユーザーなので、大事な「お客様」であることに変わりは無い。

さて、課金アプリはどうか。まずベーシックが無料なことに変わりは無い。ダウンロードや視聴、コメントは無料で出来る、しかし、YouTube等ほかの動画共有サーピスと異なり企業からの広告収入がない分、収益はユーザーの課金となる。大事な「お客様」であり企業存続に必要なのは課金しているユーザーである。ただし、アプリが月額料金を設定している訳ではないので、当然無課金ユーザーもいる。その中で配信者は配信する。

ストリートミュージシャンに例えると分かりやすい。自分を宣伝するために道行く人に向けて無料で音楽を提供(単にうるさいと思う人にとっては垂れ流す)する。気に入ったら、ギターケースに少しのチップを払ってくれる人がいる。払わずに見ている人もいる。見ている人全員に、お金払わないなら聴かないでくださいと言って回るパフォーマーはあまりいないだろう。あまりいないと言ったのには、理由がある。子どもの頃、旅先のアメリカでレストランに入り、窓際に座ると、外で子供達がストリートパフォーマンスをしていたことがあった。具体的に何のパフォーマンスだったかは覚えていない。ただ、窓際に座っているので自然に目に入る。ところが見ていると、窓を一人の子供がどんどんとすごい勢いで叩くのである。何かと思って驚いていると、両親は「見るならチップ払えと言っているから見たらダメだよ」と言う。見るのをやめると、たしかに少年はしばらくしてから窓を叩くのをやめた。日本でそういうストリートパフォーマーには出会ったことがない。むしろ、勝手にパフォーマンスしているのが目に入って、それを見ている人みんなに金を払えと言って回るパフォーマーがいるなら、ヤバい奴である。目に入るところでやるなと思われるだろう。街中のお金を払わないユーザーの目や耳に入る場所、公共の場でやるならば、チップをもらえるかどうかはパフォーマンスのクオリティ次第だ。

ストリートパフォーマーと同じく、広告収入をベースとしない配信アプリで配信者がユーザーを課金に誘導出来るかどうかは、配信者のパフォーマンス次第である。気に入って貰えて応援したい、お金を払いたい、払う価値がある、と思われれば課金される。そう思って貰うためには、配信者は試行錯誤するしかない。スターバックスが競合他社ではなく自社商品を消費してもらえるよう企業努力を怠らないのと同じように。

街中と違ってアプリはそもそも配信アプリをダウンロードしてその配信ルームをタップしないと入れないのだから、ストリートパフォーマンスとは違うと思う人もいるかもしれない。ただ、リスナー目線の筆者からすると、その「アプリをダウンロードして配信ルームをタップする」という過程に料金は発生せず、世界中の誰もが無料で見ることが出来る環境であるという点が、ひとつの街中を思わせる。そして特に私がここで言いたいのは、「お金をもらえるかどうかはパフォーマンス次第」という点だ。無料でダウンロード、視聴できるプラットフォームで配信しているのだから、無課金ユーザーは存在する。その中で配信するという環境は、ストリートパフォーマンス的だと私は考える。

そして特に、広告収入をベースにした無料サービスが溢れかえる世の中では、差別化しないと、無課金から課金に誘導、つまり、お金を払う価値があるとユーザーに思って貰うのは簡単ではない。どの程度のパフォーマンスやサービスが有料かの基準はそれぞれ違う。例えば、現在BIGOLIVEでは、1ダイヤ約3.44円である。つまり1円が0.29ダイヤに相当する。ピカピカは、現在1小豆約0.21円である。つまり、1円が約4.76小豆に相当する。YouTubeプレミアムの月額と同じ1,280円払って得られるのは、BIGOLIVEで371ダイヤ、ピカピカで6,092小豆である。

YouTubeプレミアムよりもその配信に価値があると思う人にとっては、1,280円払って相当額のギフトを投げることのほうが、満足につながる。蛇足だが、経済学的にいえば、効用という。生配信では自分の名前を覚えてもらったり直接話したりできるので、距離感が近く、それを目的としてアプリを利用する人は多い。逆に、同じ金額を払うならYouTubeプレミアムの方が満足するという人もいる。YouTubeでは、プレミアムに加入していなくとも無料でプロのミュージックビデオを視聴したり、芸能人によるコンテンツを視聴したりできる。

YouTubeのミュージックビデオを視聴するのと生配信でライバーが歌うのを視聴するのは別物だと思う人もいるだろう。ライバーの歌配信の方が良いと思うなら、それはそのライバーが差別化できている証だ。ただし、配信を視聴者が見るのは、経済学でいう余暇時間(所謂スキマ時間や、自由な時間)である。だから、リスナーにとって、配信者の競合は他の配信者に留まらない。余暇時間に利用する様々なサービスや商品が競合だ。生配信でなくとも、余暇時間にリスナーが見るものや消費するサービス・商品が競合となる。極端な話、私個人にとってはディズニーランドだって競合の枠組みに入る。1番安い価格で、ディズニーランドのパークチケットは7,900円。BIGOLIVEのダイヤに換算すると2,291ダイヤ、ピカピカでは37,604小豆。それぞれのアプリ内で大きなギフトだと認識されているBIGOLIVEのスパドラは、9,999ダイヤで、34,396円。ピカピカの「時超」は、298,000小豆で62,580円。夢の国に行く金額よりも遥かに高い。それこそ夢のまた夢である。

配信者がギフトを投げて貰えないという悩みを持つのは不思議なことでは無い。その悩みの過程で、こういう計算を行っているかどうかは分からないが、私はこういう計算をしながら、自分のできる範囲で投げる。投げない人が見たりコメントするのは仕方ない。アプリそのものがそういう仕様なのだから。それを相手にするのかは配信者次第である。そして、リスナーが投げるかどうかも配信者のパフォーマンス次第である。単にいい歌だなと思って投げないリスナーもいるだろうし、いい歌だと思ってチップを払うリスナーもいるだろう。それに対して投げないリスナーは見るなと、あのアメリカの少年のように言うかどうかは配信者の自由だ。リスナーとして問いたいのは、自分の配信は無料で聞けるプロのミュージックビデオよりも、YouTubeプレミアムよりも、ディズニーランドのチケットよりも、価値あるものと思った上で、投げて貰えないと悩んでいるのかということである。

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