存在の在処 そんざいのありか

高橋アンテナさんが書かれた小説【思い出すクスリ】のレビュー。クランチマガジンより移転


中途半端に終わってしまった過去。しかも過去の出来事なのに、〝現在という自己〟の支柱になっている過去。
その上、支柱となっている柱を共に支えている相手は既に不在。

過去に決別したくてもできず、支柱だから過去を潰したり、消滅させることも不可能。支柱の崩壊は自己の崩壊を意味するから。

そして彼は薬で過去を書き換えようと思いつき、もがく。自分をすっかり騙すためにはどうしても、Mは不可欠要素なのだろう。

ゲンジにとってトモコの、ナオの存在とは何か?トモコと、ナオと重ねる過去を纏った今をすり抜け、それは彼の未来に繋がるのか?

彼は何処かで気付いているのだろうか?最後には気付いたのだろうか?記憶にせよ、今の行為にせよ、自他にせよ、愛憎にせよ、〝存在の在処〟の秘密に、果たして彼は迫れたのだろうか?

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