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「始まりの場所 終わりの場所。」 によせて。

note でも活躍されている詩人、大野 弘紀 さん の4作目となる詩集、
「始まりの場所 終わりの場所。」の、予約販売が始まりました。

私も解説的なものを書かせていただきました。
よろしければご一読ください。


始まりの場所 終わりの場所。」によせて。   
                  Mary Ann pianoplayer

この詩集のプロローグは、
「一つの道の上を/木の葉のように/物語が散った」
という一節で始まります。

始まりの場所で、ひとつの物語が「散る」のです。
「物語が散る」とは、物語が終わり、無くなることでしょうか。
・・・いいえ、そうではないのです。

「いつか願った/離れた場所で/同じ月を見るように」
「道を描いた/二つの場所を/一つの太陽が照らすように」
この詩の中で「始まりの場所」と「終わりの場所」は
「別々なようで どこか一緒で」
重なり続いていくのか、触れずに並んでいるのか、
ここではまだ定かではありませんが、
別々の世界が重なろうとする一瞬のきらめきを放ったまま、
ずっとそこにあるように思えます。

この詩集の随所に溢れている どこか不思議な、時に悲しい、
そして美しい邂逅を、息を呑むような一瞬を、
こんなにも正確に捉えた、そして映像的に表現した、最初の言葉たち。
そこにあるきらめきは こうして言葉になり、
詩となって私たちにとどきました。
光を抱く星のように。花びらのように舞った詩の残像のように。

私は自分のアルバム
断片詩集」「踊るように今日を行く。」に対していただいた
レビューを通して大野弘紀さんの詩に初めて出会い、
その繊細で、静かに輝くような言葉たちに感銘を受けました。

そしてリンク先のいくつかのサイトを訪れた際、
前作、返答詩集「余韻」は
コメントした読者に詩を送る試みから生まれたものだ、
という記述を見つけました。
著者は苦しみに寄り添うために、
返答詩と名付けた詩を綴っているのだと。

解き放たれた美しい言葉に、ちゃんと行き先があること。
なんてすてきなんだろう、と思います。
詩を書くということは、自分が見ているものを、感じている感覚を、
言葉にすること。
そして言葉にするということは、誰かにとどく可能性を、
それこそ宿命的に抱いているからです。

本作「始まりの場所 終わりの場所。」は、
すこしずつ進んでいく物語詩と、
それに呼応する返答詩(と私は呼びたいです)を、
静かに、そして鮮やかに順々に紡いで構成されています。
読み進むうちに物語に惹きこまれ、私たちは「ぼく」と共に「君」を思い、
著者と一緒に輝く言葉を随所にみつけながら、旅を続けることになります。

相反する物のはざまで生きる命の一瞬の瞬きに(「青い鳥」)
歩むことに意味を与えるように明ける夜に(「旅路―出会うために」)
花を見ながら星を見ることはできないという気付きに(「合図」)
君が泣いても
あなたを失っても
探したものがどこにもなくても、
月にだって触れられると思う出会いに(「夢の岬」)
思いを馳せ、そして心動く感覚に触れた瞬間の映像を
誰かにとどけるためにていねいにすくい取った、珠玉の言葉たち。

あなたの心に、どんな返答詩が生まれるでしょうか。

#推薦図書 #詩

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