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【TRicKY】トリ様を見て「先天的な才能を生かすためには、後天的に腹を括らなければならない」と考えた話

先日、ライブの対バンで見かけたTRicKYさんことトリ様の歌が、翌日も、翌々日になっても、頭から離れず、混乱した(今も混乱している)のが、この話の発端である。

ライブで見た後ずっと回っていたのは「不思議少女なっちゃん」

曲の途中で、唐突に20年の時間が流れて、16歳のまま大人になったなっちゃんのくだりになるのが、残酷すぎる。

ところで、私はここ十年、ライブで見た曲や景色を、一瞬で忘れてしまうことが悲しくて仕方なく、憶えていられない私の認識力の低さや、記憶力の薄さをずっとコンプレックスに思い、悩んだ挙句「もうどうせ忘れるから、もう最初からノート持ち込んでメモ取るわ」と開き直ってからやっと冷静を保ってライブに向き合えるようになってきたという経緯があるんですが、この日は楽しむだけを目的に足を運んでいたため、「記憶に残そう」という必死な覚悟もなく、ノートも持たず、無防備な状態で目にしたのにも関わらず、二日経っても三日経っても色褪せない強さで口を突いて出る「不思議 少女 なっちゃんは~」のフレーズ。

なんなんだ。なにこのメロディーの強さ?
私は今まで本当に音楽に対する認識力や記憶力って皆無だと悩んでたんだけど、これ、私が悪かったわけじゃないってことでは?
いやていうか、トリ様がすごいのでは???
ていうか天才では?

と混乱しながら、トリ様のYoutubeを軽い気持ちで開いてみる。

そうすると、呆気にとられたまま一時間が過ぎていて、仕事の昼休みは終わっており、私はその日昼食を食べ逃すということになった。

Youtubeを見ていると、トリ様のライブを度々見かけていた10年前の忘れていた記憶を思い出したのと、「トリ様天才だな?」だという確信が固まりましたので、曲を紹介させてもらおうと思います。
前置き長くなってすみません。

◆ドライブイン鳥へ行こうよ!/TRicKY

なっちゃんの次に離れなくなったのはこれで、うわごとのように数日間「レッツゴードライブイン鳥…」って言っていました。
ドライブイン鳥行きたくなったし、
twitterでドライブイン鳥の話をしたら、ドライブイン鳥に行ったことのある乗り鉄友人諸氏が現地の写真を送ってきて悔しかったです。
土日とかで軽率に行きたいけど、車なくても行けるんだろうか。
四国在住の友人はこの動画見て「うちから7時間か…」と言ってました。
軽率に聴くと、九州に行く呪いがかかる歌。強い。
鳥めしもスープも食べたい。
MVの「行きまっしょい!」の表情がキメキメで最高。

◆とびきりコンプレックス/TRicKY

歌として一番好きです。
というか、ライブを見かけていた10年前当時も、この歌は好きで印象残ってました。
改めて聞くと最高だったので、少女漫画アニメのオープニングとかになってほしい。
イントロから、展開もサビも全部最高。客席は大変そう。
「泣き虫な空想のお姫様」っていう音を、サビのメインに置いてるのが最高。
他人を羨み、コンプレックスまみれの女の子が最後に

だからアタシ笑うんだ 無理をしてでも笑うんだ
笑顔で心を作れたら 誰か愛してくれるよね?

こう着地するのは、ひとつの悟りだと思う。えらい。

◆来年こそはのクリスマス/TRicKY

呪いをかけてる歌詞はさておき、メロディーライン、世の中のクリスマスソングで一番好きかも。
知ってる限りでは一番テンション上がるメロディーライン。有名なクリスマスソング色々ありますけど、トリ様の勝ち。
とはいえ、ソロクリスマスの女の子のつらさをここまでかわいく前向き具体的に書かなくてもいいんじゃないですか?
東京大神宮(は恋愛祈願)とか、知ってる人限られるニッチなパワーのある言葉選びすごい。
本人のアイドル感も素晴らしいと思います。「パッとしない」のはにかみ具合、超かわいい。

◆恋とはソーシャルディスタンス/TRicKY

数年後に古くなる可能性上等で、時事ソング書いていく姿勢がまぶしい。えらい。
内容は甘酸っぱいつらめの少女漫画で最高。サビ始まりのアイドル感も最高。
リードギターの疾走感と歌に入った後の緩急差も最高。
「これ、ロケ地井の頭公園かな?見たことある」と思ってたら、ロケ地のカフェがNEPO併設のサンドイッチ屋さんなんですね!当たってた。

◆恋する黒魔術/TRicKY

呪いをかける系の片想いソングは最高。昔見たことあるような、ないような。
誰にでもあると思うんですけど、これを作品にアウトプットできる人は覚悟が決まってる。(正直私は書けない)

◆シャンプー☆プロカリテ/TRicKY

代表曲。振付、10年の時を越えて、「わかる、わかるぞ」って個人的に衝撃でした。
なんでこれが昔も今も代表曲なのかは、正直よくわかりません。
ヘドバン多いしライブ映えするってことなのかな。

◆まるでだめなオタク/TRicKY

友人曰く
「これ一番曲かっこいい。若いオタクはTikTokで戦利品自慢するから、この曲TikTokで流せば多分バズる。みんなこれBGMにしたがると思う。汎用性が高すぎる」

◆大きな林檎の木の下で/TRicKY

曲調も歌い方も、こんなんできるんですね?!って驚きました。格好いい。オシャレ。
シャバダドゥビドゥビダー とその後のピロロロっていうギターが好い。

◆トリ様、どこがすごいか?

上に貼った諸々の動画を見てもらえたら伝わると思うのだけど
トリ様、呪いほどの強さを帯びた(耳から離れない)ポップセンスがあるのは明白だ。
で、ここぞという必要な場所に、体重をかけたようなインパクトのある言葉(食べたら虜さ鳥だけにとか、)を乗せる言語センス
強制的な共感を付与するニッチな具体性(シャンプープロカリテとか、東京大神宮とか、アナスイの香水とか、サイゼで時間潰すとか、ジャスコとか、あいみょんとか、アクシーズファムとか、DDとか、他にもいっぱい)はリスナーの日常の中にある言語で、リスナーが客体(他人)でいることを許さない効果がある。

それを指して、「天才だな~~~」と感心してたんですが、何か要素として足りないものがある気がして、数日間考えてわかった。

それらの音楽センスにしても、言語センスにしても、トリ様が天才的であることには異論がないと思うのだけど、それを生かすには、本人の腹の座り具合が必要なのだ。

芸風を選ばないと言ってしまえば言い方が悪いが、
・プロモーションソング(プロカリテやらドライブイン鳥やら)は、キャラクターの強さでインパクトのあるフックを作る
・アイドル乙女ソングでは、「私が乙女である」という自負で乙女を演じ切る
・歌の背景を伝えるためには、バナナのコスプレもオタクコスプレも女装も厭わないこと
「カッコいい自分」を見せ続けたい人にはできない芸当である。
そしてその上、常に明るい「トリ様」のキャラクターを維持し続けるということ。
これが腹の座り具合ではなくて、なんだろうと思う。

正直、一般的にかっこよく見せることは、簡単である。
さらに、斜に構えた姿勢で面白いことをやってみるのも、恥じらいを防ぐ自意識が見える。
その点、トリ様は全部そのあたりすっ飛ばしているのだ。
「歌の魅力を伝えるために、どんな役でも全力で演じる」
これが、できる人は限られると思う。

格好つけるだけの「アーティスト」を思い浮かべて、「トリ様はアイドルなんだ」とはたと膝を打った。
「実体ではなく虚像(キャラクター)を演じ続けることをトリ様は最初から宣言していたのではないか」と目から鱗が落ちる。

もともと「そういうキャラなんでしょ?」で思考停止することは容易いし、多分トリ様の活動を知る多くの人は「プロカリテの人だよね」で認識が止まっていると思う。

実際のところは、天才的な音楽センスと、稀有な言語センス、さらにキャラクターとしての強さと、それを支える覚悟というか、腹の座り具合が奇跡的だから、「トリ様」が成立していると推察する。

才能とかセンスが、あるだのないだのって話の前に、
それを使いこなせるか、発揮していけるか、アウトプットを実行できるか?する覚悟があるか?という問題がある。

与えられた才能やセンスが分かっているなら、それをどんな形にでも100%アウトプットに繋げる努力をすることが、表現者としての誠実さなのだと思う。
「やればできるけどやらない」「恥ずかしいからやらない」とかっていう人並みの怠惰さを多くの人は羞恥心とか慎ましさとか言い換えたりするけれど、これほど自分の才能に誠実な人はなかなか見かけない、というのが個人的なトリ様への所感で、尊敬を覚えた部分である。

トリ様の公式サイト貼っておきます。がんばってほしい。

◆関連して思い出した太古の記憶

で、対バンでトリ様を見かけていた10年前に私が何のバンドの客だったかというと、同事務所の『こより』の客でした。
思い出したので貼っておきます。

◆サビに「さくら」で入ると売れるらしい/こより


演奏はうまいし、サビのキャッチーさだけ聴くと売れてもおかしくないけど、この全力でひねくれて見せてる羞恥心の感じ、サブカルくさくて私は好きです。
それでも羞恥心に折り合いを付けようとしていても、作品作って活動してたのがえらいと思う。格好良かった、こより。

よくよく見ると、現在のトリ様のサポートに元こよりのメンバーおるやん、っていう腑に落ち。(お元気そうでうれしい)

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