【LUNA SEA】セルフカヴァ―アルバム『STYLE』全曲レビュー⑩IN SILENCE⑪SELVES
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続けて書いていきます。
◆IN SILENCE
圧倒的にギターが主題。
イントロはドラムもベースも入らず、ギター2台だけの構成。
だということに、今更気付いた。何百回も聴いているはずなのに。
この曲の主題はINORANのアコースティックギターでのコード弾きだろう。それに重なるSUGIZOの砂煙が天高く舞い上がるような描写。
ツインギターだからこその強みを最前面に出すことで、LUNASEAのアイデンティティを改めてシングルとして世界に発信する意図があるように感じる。27年前に気付くべきだったことだけど、今回のセルフカヴァーでその一面は改めて強く押し出されていると思う。
歌詞が先なのか、SUGIZOのリードフレーズが先なのかはわからないけれど、歌詞と描写が強く連動していることを改めて感じる。これもLUNASEAのアイデンティティの一つと言っていいだろう。
サビにかかる瞬間、ドラムとベースが加わり、背景がぐっと奥行きを増す。
一枚の風景画が、中に入れる映像の立体感を得たような、魔法ともいえる瞬間。
RYUICHIの声の伸び。原曲との表現力の圧倒的な違いに目を見張る。
ドラムとベースが加わった厚みのままのAメロでも「孤独」という主題は、歌詞に言葉として現れることなく、街という背景になっても揺らがず描写される。
「静けさの中で」という直訳のタイトルと、サビの叫び。
静けさ・孤独を描写するための演奏という逆説的なものがこの曲の主題であるのだと改めてハッとする。無音よりも静かで、無音よりも孤独な曲を目指して作られたことが、ごまかしなく宣言されている。
ギターが主題のこの曲で、ギターソロが圧巻でない訳がない。
透明感と強さを持って伸びるSUGIZOのソロ(月光を模っていると今更ながらにハッとする)に重なる、端正で丁寧なアコギのカッティング。リードギターの伸びが消える瞬間までを、息を呑んで見守ってしまう。
孤独に迷っている前半から鳴り続けている主題のアコギのカッティングを重ねながら、空に浮かんだ羽を見つけることを契機に、孤独に迷うことから脱する様が描かれる。
「見つけたい」と意思表示するところが、孤独さを描いた曲の着地点となる。
アコギとエレキのユニゾンとなる主題のカッティングは、前半と同じフレーズのはずなのに光がさして明るくなった様を感じる。
アウトロに重ねられる透明で繊細で無軌道なSUGIZOの描線。
ロックバンドの中に、アコギが居ても、音を掻き消されて隠し味みたいになってしまう気がしていたけれど、これほどアコギを主題に据えた曲を、シングルリリースしたところが改めてすごいと思わされた。
当時は、「IN SILENCEという曲」というひとまとまりとしてしか受け止めきれておらず、風景描写綺麗だな、って思うに留まっていたが、今回のセルフカヴァーでその構成要素の一つ一つがつまびらかにされたと実感する。
LUNASEAの曲には、主題と物語があるな、そこが昔から信頼できて好きなのかもしれない、と改めて思う。
◆SELVES
鐘の音が鳴るような静けさに満ちたイントロに、重ねられたINORANのウィスパーボイスによるコーラスにハッとする。
IN SILENCEに続いて、「無音よりも静か」を体現したような曲だと思う。
通底するのは、抑圧的なカウントのみ。
この曲においては、ギターもベースもフレーズを弾くというよりも、「微かな音を効果音として重ねる」ということが徹底されていると感じる。
水泡が光を透かして頭上へ上がっていく様が見える。
この曲で初めてフレーズとして爪弾かれるギターソロ。
水音が滴るような暗さ。
SELVESは何について描いている歌なんだろうと原曲を聴いた当時はわからなかったと思い返す。
主題は、このアルバム『STYLE』で意思表示を続けてきたことの総括である「時代に刻まれた愛を伝えたい」というフレーズになるのだと思う。
静けさ、孤独を主題にし、前を向くIN SILENCEに繋げる形で、「無音よりも孤独、静か」である音楽を背景に、大切なことを一言一言こぼすように歌うRYUICHIと、空気の揺れや滲みに耳を澄まして、音をこぼし、重ね、世界を形作るメンバーたち。
五人全員が息を合わせて、一つのことを願い、形にした『STYLE』の核となる曲。アルバムジャケットに描かれた七色に輝く鉱石の断面。アウトロのサラサラと透明で硬質な音で重ねられる爪弾き、無音に収束するそれらの輝きの描写が、五人が目指した祈りを一つの結晶として形にする様を象徴しているように思える。
時代と書いて「とき」と読ませるには意図があるように感じられる。
個人の人生に流れていく時間は、どうしても時代というものと沿って流れている。
個人の人生と、社会全体の空気。
切り離せないそれらを帰結するように、また演繹するように、個人の経験と、社会全体の中にその時にだけ現れる現象。それらが重ね合わせられて、肯定されていく。
ミクロとマクロと言える視点を重ねて、「時代に刻まれた愛を伝えたい」「ぬくもりがきえないように」と願うことは、彼らが目的とした、STYLEそのものなのではないかと思う。
なんとなくの音楽制作ではなく、「音楽を用いて何を描くか」を覚悟をもって宣誓するのが、彼らの示した『STYLE』というアルバムなのではないかと思った。
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