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【LIPHLICH】コンセプトワンマン 煌煌たる様-EP2-ライブレポート22/02/20

前回の『コンセプトワンマン暗暗たる様-EP1-』の記事はこちらに

前回の凄惨な印象のSEとは異なり、三拍子のフランス語のシャンソンめいた歌が流れている。
アコーディオンとかラテンの感じとか。

物販横のスペースにはカメラが三台設置され、うち一台はマイク付きだった。
前回がとてもよかったため、「もう一度見たい」と切望していたことを思い出す。
(この日のライブ後に、公式のnoteアカウントが発表になり、前回のライブ映像が公開されたけれど、この時点では想像すらしていなかったため、記録用かな?と思うだけだった)

SEが止まる。開演のブザーが鳴る。
幕が左右にゆっくりと開く。

最初に目に入ったのは、強く光るピンクのライトだった。
昭和歌謡やキャバレーに通じるムーディーさ。

『煌煌たる様=キャバレーの文脈』なのだということを、
たったこれだけの演出で会場の全員が理解したと思う。

笑顔で手拍子を煽りながら小林さんが登場する。
ミラーボールの光。
竹田さん。新井さんの順に入場。
青いライトに切り替わり、空気に緊張が走る。
流れていた音楽にドラムが重ねられる。
再び先ほどまでのピンクのライト。曲に楽器が重ねられていく。
ワンフレーズの演奏が終わるところで久我さんが登場。

1曲目は「ショウ・リブラの場合(煌煌アレンジ)」
ステージの上は青いライト。久我さんにピンスポットでゴールドの光。
久我さんのかけている銀ぶちメガネのフレームが光る。

B級の私にしかできないことで
あなたがまぶしく輝いた

青・ピンクのライトに染まる空間を白い光が切り裂く。
それを見守りながら、
「LIPHLICHが以前から得意なキャバレー/見世物小屋の文脈で
 この曲を1曲目に持ってくるって、想像してなかったな」
と呆然と驚いていた。

たしかに二重構成のショーマンの歌ではあるから、見世物ではある。
ライブで盛り上げられるイメージの華やかな曲とは、印象が異なっている。

キャバレーという言葉に想起させられる華やかな情景に溺れる曲ではなくて
ステージに立つ側の葛藤を描く曲。

まるでシャムの双子
二人で初めて見世物

言ってしまえば裏をかかれたと呆気にとられた。
1曲目の選曲でこれか、と驚く。
『煌煌たる様』から予期した曲のどれでもないが、
間違いなく見世物小屋を舞台にした側面の1曲目。
この後何を見せられるんだろう、と思ったことを憶えている。

ショーは終わるものだし、大丈夫

登場人物のモノローグが、現在の状況を示すかのように重なる。

最後のフレーズの前で、目覚ましい転調。
この曲がここで転調することは、あらかじめ分かっていたけれど
それでも、その前からの空気が一変して変わるところに息を飲む。

今夜の上演でもう残り時間が尽きてしまった
夢の淡い自由 二人で泣いて選び取ったんだ

このフレーズを歌い終わったのちに、空に向かって投げキスをする久我さん。

ピンクのライトで、空気が一変する。
2曲目は「ダイヤの4P」

1曲目からの反動なのか、いつもよりも演奏とパフォーマンスに勢いがある気がする。
Aメロでゴージャスで華やかな、黄色/ゴールドのライト。

寂しさを寄せ合って楽しんでいた
行き着いて夢を見ていた ニッチビッチエブリナイト!

久我さんはマイクスタンドを使って、冷静にショーマンとして振舞っている。
丈の長い白いブラウスには黒い刺繍。
自然に客席の視線が集まっていることを認識した振舞だなあと感心する。

パールは消えていった
ピートは消えていった 泣いたことはなかった
ポールは消えていった
プルートは消えていった 泣いたことはなかった

独唱は青ライト。
空気が変わる。
マイクスタンドをつかんで傾け、歩き回る久我さん。

おもちゃ箱の中ひとり 踊るはダイヤ
涙でさらに輝く 私はダイヤ

華やかさと裏腹の悲しみのある曲が続く。
3曲目は「夢見る星屑」
初期から在るライブで定番の曲だ。

バーレスクとかはいかが? 艶めかしいアンヨを突き上げ
チョコレイトはいかが? 頬張って堕ちて逝くとこまで逝こう

外れたゆえの絶頂を味わってみたらもう終い
旨味を舌頭の狡猾さで転がしてみる

悩める暇があるお方には是非とも
こんな日々はまさに星屑の如くでしょう

耳馴染んだフレーズを、こうやって歌詞で改めて見ると
こんな曲だったんだ、と驚くことがある。
特にLIPHLICHについては、初見での情報量の多さを
耳に馴染ませ、ライブの経験として積み重ねていくうちに
「そういうもの」として把握していくことが多いのだけれど
その上で、よく知っているはずの歌詞と曲を重ねて見ると
こんなに絶望の色濃い刹那主義の歌だったんだなと改めて思う。

初見で歌詞を読んでみても、頭では理解しても把握しきれていなかったのは
音の持つ説得力が身体に染み込んでから、彼らの描く情景が本領発揮されるのだと
改めて思った。

サビで客席のテンションは爆上がる。
ピタッとぶれないタイミングで決められていく音の数々。
ギターの輪郭がはっきりしないのは、ベースと音を食い合っているような気がする。

演奏の安定感はドラムとベースのおかげだなと思う。
そういえば、このメンバーになってからの
この曲を見るのは私にとって新鮮な経験だと気付く。

曲が終わるとその幻が失せ、一気に静かになる会場。
重い声で
「コンセプトワンマンへようこそ
 夢のパーティーへ猫目の伯爵がご招待します」
と久我さんが言う。

「Pink Pink Parade Picture」という叫びのような歌に音が重なって
始まったのは4曲目「Pink Parade Picture」

いいところにきたね 太鼓鳴らした行列
老いも若きも歩く さながら派手な蛇の絵

ギラギラした七色のライトに否応なしに空間全体のテンションが上がる。
どこから持ち出したのかステッキを振り回し
猟銃のように構える久我さん。

ちょいとごめんなさい 真ん中辺り入れてくれ
囲まれたところが なによりと教わったから

黄緑、オレンジのライト。
Bメロはピンクと紫。
サビは演者・客席ともに迷いのない景色。
最後の「から」で猟銃に見立てた杖を構え、打ちぬく仕草。

暗闇になった壇上に、一瞬のピンスポットライトが差し
それまでの高揚が現実に引きずり戻される。

先頭切るはどちら様?
やっぱ内緒で割り込もう

「どちらさま」で銃を構え
「割り込もう」で手招きをする。
この曲は、二人称だなと思う。
通り過ぎてゆく太鼓鳴らした行列であるPink Paradeに合流しようと
誘いをかける猫目の伯爵。
集団としての列に飛び込んで一体化するか、ぐっと耐えて自分を保つか
ライブの時に理性を手放すかどうかの選択に似てるなと思う。

ドラムの見せ場、ギターソロ。
それぞれの楽器が、曲の折々でフォーカスされていく構成は
メンバーたちが互いに尊敬しあっていないとなされないものだと思う。

曲の終わりに間髪入れず、音が入る。
「せっかく吾輩が翼を与えたのに落ちていくだけ」
始まったのは5曲目「イーカロス」

この曲を耳にするの、めちゃくちゃ久しぶりだと新鮮に思う。
アコースティック音源のために書き下ろされたこの曲が
普通のライブ編成の中に入ってくるのも予想外というか。
今まであんまり意識していなかったけれど、
彼らは彼らの過去の曲を、ひとつひとつ本当に大切にしているんだなと思う。

個人的な話をして恐縮だが
作品は完成させて発表してしまったら、「仕事は済んだ」とばかりに手を放して
ひとつひとつの過去の作品の詳細など忘れてしまうのが個人的な体感だから
私は過去作品について唐突に読者から「あれ好きです」と言われてしまうと
正直(どんな話だったっけ)と思ってしまうことがある。

持ち曲の多いバンドのファンをしていても、本人たちが忘れていて
「演奏するためには思い出さなきゃいけない」みたいな話もよく耳にする。

それらのことを合わせて考えても、LIPHLICHがこんなマイナーな立ち位置の曲を
平然とライブにぶちこんでくること、さらに猫目の伯爵からの文脈で
「翼を与えられたのに、失って落ちていく様を描く」という重要なシーンを描くこと。
それがいかに過去作品を大切に扱っていないとできないことなのかということは
想像に難くないと思う。

望みすぎちゃいけない 怖がりすぎてもいけない
無理難題 どうしようもない そちらのほうはどうだい

うろ覚えの歌を嫌う僕の 思想なんて破綻させるものだから
好きにさせてもらう中空で やがて消えるバランスにさよなら

蛇足となるのを承知で言うと、イカロスはギリシャ神話で、
蝋で鳥の羽を固めて、翼を獲得して空を飛んだ青年だ。
歌詞を読んだだけでは触れられていない
翼を失って海へ落下して死ぬことが運命づけられたこの話を前提に
久我さんは何を描こうとしたのか、その試みについて改めて考えたいと思った。

ベースの見せ場、丁寧なギターソロ。
これほどの早口なのに、歌詞がとても聞き取りやすい。
両手を組んで、天を仰ぐ仕草をする久我さんが印象に残った。

6曲目は「LADY NANA」

イントロの音で何だっけ、と思いかけたところで「レディナナ」と言ってくれて
早い段階で合点がいって有難かった。

ピンク、青のライトに客席は手拍子。
演奏に合わせて片手を掲げて飛ぶ客席。会場全体が揺れる。
この場にいる人が、壇上・フロアともに意識を集中していることが分かる。

オレンジ・ピンクの光は、冷静さを失わせる作用があるような気がする。
Bメロで差し込まれた惑うように揺れ始める三連の丸い光。

理想の女性である架空の存在NANAを、コケティッシュに端的に描くこの曲が
この日の題材『煌煌たる様』=偶像の非日常のイメージと交差していくことを
演奏の高揚を通して理解する。

歌の歌詞は、そこまで理解できていない曲だったけれど
非日常/特別/非現実/偶像/理想は、
対偶の日常性/普通/現実/実体などと対比されて初めて存在するし
上昇・墜落が一対のものであることもイーカロスで示されていることを思う。

ライブでの没入/非日常性/特別さも、同列の話である。
没入することの特別さは、日常の見慣れた退屈さと対比されて初めて特別になるものだ。

ソロ前で新井さんが、竹田さんを見て目くばせをしたが、
竹田さんはそれに気が付かない。
アウトロのギターフレーズが綺麗だった。

7曲目は「7つ目の大罪」
7曲目であることと曲名は意図的なんだろうか。

My lust, pride, greed, wrath, sloth, envy(色欲、傲慢、強欲、憤怒、怠惰、嫉妬)
水槽で泳いでいる 感覚から抜け出した 君はどんな夢を見る?

真っ赤な光に照らされて、胸元のリボンを解き、
ブラウスの前をはだけさせる久我さん。

夢のような夢を見る

挿入されるストリングが印象的。こんな曲だったっけと思う。
ベースが効いている。
これだけ重厚なテーマの歌に説得力を与える、音楽の立体性と説得力。
世界観として、重厚さを担保できないと、この曲は説得力が生まれなかったと思う。
それを描写しきるのは、崩れないドラムとベース、仕事に徹するギターありきだ。

ギターソロ前。左右の指を突き合わせて、すれ違わせる久我さん。
ギターソロは整っていて綺麗だった。
ベースの音量が幾分大きすぎる気がする。存在感があることはこの曲では有効だけど。

感情移入させない曲だなあと思う。
客体として、鑑賞させる対象としての演奏。

8曲目は「慰めにBET」
耳慣れた導入に客席が沸き立つ。
ドラムをたたく小林さんがにっこにこでそれを見守っている。
七色のライト。Aメロでおもちゃのシンバルを叩くようにちこちこと叩いている。

すぐに朽ちてゆくの そんな事百も承知
それでもいいと集う灯火の数が今夜の照明

慰めにBET 報酬は1秒のスポット
慰めにBET それだけでいいから I BET ME I BET ME

久我さんはというと、ベースを弾く竹田さんのところに縋りつきに行っており
服を引っ張っていて笑ってしまった。
「主役はあの子でもいいから」のところで、憎しみみたいに指をさす仕草。
間奏でコードでマイクを振り回し、上着をやたらひらひらさせてみる仕草。

やりたい放題かと思いきや、鮮やかな終曲。
全体をひとまとめにするのが見えた。

「煌煌たる様、今回にピッタリな新曲を用意してきましたので」
という導入で始められたのは9曲目「微熱」

正直なところ、一聴して、全く把握できなかったので
この先、ゆくゆくはこの曲が身体に染み込んで
理解できるようになるのかな、とぼんやり考えながら見ていました。
(これは私の把握力理解力の問題)

いつか君の心臓を差し出して
もう戻れないところまで

僕だけの秘密

歌詞があまり聞き取れなかったので内容は分かりません。
曲の構成の印象としては、凝っているというより真っ当なアプローチな気がしました。
折々で入るアクセントが印象に残っています。

手元を見て慎重に演奏するギターとベースと
対比されるようにドラムの小林さんだけ目線をあげて余裕の笑顔だったのが
印象に残りました。

歌・曲の全体像が把握できていない場合、
音は大切な構成要素ではなく見えてしまうので
ずっと聴いていたいと思わせるような音そのものの綺麗さを求めてしまうなと
いうことも考えました。

空気が一変し、10曲目は「アンドゥトロワ・ユーダイ」
これだけアッパーで華やかな曲が続いていたのに
ヘドバン曲は今日初めてだ、とハッとしました。

赤と白の明滅。
視界と音が連動して、意識が飛びそうになる。
久我さんは声にエフェクターをかけているのか、幕がかかって聴こえる。
素晴らしい疾走感。

ぶち上ったテンションをさらに加速させる11曲目は「三原色ダダ」
「お集りの愛しきウェンディ達、ご一緒に」

三原色の日々は 混ざっていく現実
作れない白さを 追い求めているよ

大体作れるけど だんだん濁っていく
黒に近付けども 黒にもなれないね

サビで一人ずつに目線を合わせていく久我さん。
竹田さんはにこにこ。
みんなめっちゃ楽しそう。
小林さんから「後方のお客様、張り切っていきましょー」と声がかかる。
客席全体が、頭の上で両手を左右に揺らす。
遠慮も止めるものも何もない情景。安心感。

曲の全体像を理解してこそだなあ、LIPHLICH、と改めて思う。
ここでこの音が来る!という予感と、待機と、タイミングを合わせた確認。

「少ししっとりと行きましょうか」という導入に続き
12曲目は「不埒」

愚かになることで 君から逃げ出した

コケティッシュに見えるイントロに諦めと悲しみがあると感じる。
久我さんの歌が映える。
邪魔しないギター。とても良かった。
黒子に徹する竹田さん、小林さん、と思いきや
その割には存在感あるし派手だなと思い直す。

締め方が綺麗だった。

続いて13曲目「浮世のはぐれ蝶」

青に紫のライトが映える。久我さんの独唱。
女の一人称目線での怒りと嘆き。サビまで音は入らなかった。

小林さんがサビ前に、竹田さんを見てタイミング読んでたのが見えた。
小林さんは、本当によく見ていると思う。

愛があればとかいうのは嫌いです 九割嘘

ここで久我さんにピンスポット。
サビは真っ赤な光の下で、揺らがない地獄の女王みたいな存在感。

終曲後、青いライトに切り替わり、音が入る。
14曲目「月を食べたらおやすみよ」

でも君がきっとそうするんだろうと
なんとなく分かっていたんだ

このフレーズの男の表情。
男視点の役柄での演技は珍しいなとふと思う。
この曲は初期から在る曲だし、折々のライブでも用いられている曲だけど
女目線の曲(ミズルミナスとか、はぐれ蝶とか、慰めにBETとか、夢見る星屑とか)
に対して、男目線での独白する曲は、少ないように思う。

でも女目線以外の一人称視点がないわけではなくて(結構な数あると思う)
それは、フラットな一人間としての目線で
どうしてかというと、この曲はミズルミナスのアンサーソングで
恋人である男性の主観という前提があるから、男性視点であることが意識されるのかも。
というか、恋愛を描いた歌が珍しいという話になるのかも。
とか考えました。

逆に言うと、初期の歌の一人称は「僕」が散見されるけど
(嫌いじゃないけど好きではないとか、航海の詩とか)
近年は、無防備な一人称の歌は少ないなとか。
女性目線だと明確に「物語上の一人称」とわかるから、
用いやすかったのはあるのかもなと思いました。

話が逸れましたが、曲の話に戻ります。
「月を食べたらおやすみよ」が終わるまで、ライトは青一色でした。
歌うというよりも、言って聞かせるような印象。
スタンドなしでフラフラしながら歌うのが演じる曲によく似合う。
最後の「Goodbye」のところだけ、久我さんにピンスポット。
捧げるように正面奥へ投げるキス。

ドラムにピンスポットが当たり、ドラムソロへと続く。
ドラムの連打の強弱をして見せてくれるけれど、あまりに速くて息をしていなそう。
バスドラが耳に響く。
小林さんの「よっしゃ行こうかー!」の声で15曲目「露天商通りの道理」

七色の光。左右に揺れる客席。
ドラムソロから一転、小林さんは余裕の顔。
世界観とか、景色とか、情景とか、そういうのを演奏と歌と歌詞で
幻を具現化して見せるって、すごいことだなと思う。

間奏明け、ドラム脇の一段高い場所から歌う久我さん。

「バカですねえ、こんなバカな男と踊ってくれやしませんかねえ」
という導入で始められたのは16曲目「不条理、痛快、蛇の歌意」


「バカですねえ」は、多分前曲の露天商通りの道理に住む登場人物だと思う。

赤と緑のライト。曲だけでなく、歌も相当目まぐるしいこの歌を
人前で堂々と歌ってのけるのが、そもそもすごいことだなあと思う。

「煌煌たる様」という文脈で都市の荒廃みたいなものも描かれる流れで聴くと
見えていなかった一面に照明を当てられたような気持ちになる。

竹田さんはなるべく顔をあげるように気を付けているんだろうなと思う。
素の声で「ああもう、やってらんねえ」を聴いて、確かめられたような満足感。

この曲は暴れ狂う蛇のようなうねりがあって、それを乗りこなしているのが
演奏しこなしているメンバーたちだなあと感心する。
楽しむ側は高揚と忘我に飛び込んでいけばいいけれど、
きっとこの曲は冷静じゃないと演奏するとか無理なんじゃないかなと思う。

「ラスソーン!」と叫ばれて始まったのは17曲目「ケレン気関車」

YoutubeでMVを見るばかりだったこの曲をライブで見たのは
個人的に今回が初めて。

ピンクのライト。
知っていると思っていた曲の、演奏が怒涛のドラマチックさで華やかで驚く。

WE GOT THE SUN
破れかけている 負けん気を吐いて ただ忙しいんだ
正しい生き方なんてわからない
遠くても近いみんなとさすらう 希望の消費者さ

存在感。
この速さで怒涛の勢いで流れ込んでいくサビ。
華やかなカタルシス。
両手を伸ばす客席。

「WE GOT THE SUN」のフレーズの確信の強さ。
正しさ。強さ。明るさ。迷いのなさ。勇気。肯定。
迷いが消えて、目の前の視界が明るくなる実感がある。

ギターソロの間、胸に手を当てて客席を見回している久我さん。

人生そのものについて思う。
「正しい生き方なんて蹴っ飛ばして」という通り
ここに彼らが存在して、彼らを愛する客席に見守られて
格好良く迷いなく進んでいくということに、胸を打たれる。
そのことを誤魔化しもせず、面と向かっての感謝の形の曲だと思う。

本編最後にこの曲を持ってきて、こんな景色を見せられるのかと息を飲んだ。
演奏終了後、両手で投げキスをした後、丁寧なお辞儀。客席からの拍手に包まれて退席。

目くるめくものを見せてもらったというのが、この時点の実感。
呆気に取られているうちに、あっという間に本編が終わってしまった。

暗い中のアンコール待ち。
ステージ上は青ライト。
しばらくしてオレンジのライトが強まって、メンバーたちが入場。

「新曲のカンペだよ! 憶えられなかった! どうでしたか!」
と足元に張り付けていた紙を両手に掲げて客席に見せる久我さん。笑う。
無防備になったなってことと、客席が信頼されてるなってことと。

「今日、楽屋入ったら、朝一の仕事これだったもんね」と新井さん。

「今日のコンセプトワンマン、『煌煌たる様』は
ブラス系のアレンジをピックアップしてみました。
きらびやかさ、いかがでしたか」

「蒼蒼たる様はエキゾチックな曲をやろうと思っています。
 異国感。LIPHLICHは世界中の音楽、取り入れてますので」

アンコール1曲目、18曲目は「グロリアバンブー」
ステージもフロアも、もうお祭り騒ぎ。床が揺れる。
ベースの音がぼやけていて幾分強い。

サビ前に「さあ悪いことしましょー!」と叫ぶ久我さん。
ジャンプする客席を見回して微笑む。

「メロンジュースはどう?」が毒入りを勧める蛇みたいに見える。
この曲は数えきれないくらいライブで見てきたけれど
そんな事を思ったのは、今回が初めてだと驚いた。

アンコール2曲目、19曲目は「ペテン師マラソン」
ステージ上も、客席も走り回る仕草。七色のライト明滅。
ムーディーな一瞬、空気が変わるのに驚く。
小林さんを見てるのが楽しい。
すごいテンション。少年漫画みたいな顔してる。

それにしてもこの早口、よく口が回るなあと感心する。
今、歌詞を初めてちゃんと読んでみて

この曲調は速いけれど別にゆっくりしてもいいですぜ

というところでメタすぎて笑ってしまった。
そしてその言葉通り、その次のフレーズでめちゃくちゃゆっくりになるところも。

今こそヤバい暇つぶし 死ぬまでヤバい暇つぶし 傲岸不遜に笑え

僕の終わりまでどれくらい 残っているかなんて分からない
人間なんてタリララリラ これから変わらずに煙に巻け

この曲、折々のフレーズに、痒い所に手が届くような箇所があって
ライブで一聴しただけで、全然把握できていなかったことを、今確認しました。

個人的に、人生とペテンがリンクする曲として
筋肉少女帯のペテンを連想しました。
私は筋肉少女帯のペテンは思春期に救いになった曲の一つなのだけど
このLIPHLICHのペテン師マラソンも、誰かの救いになるだろうなと
思ったことも書いておきます。

アンコール3曲目、20曲目は「聖俗街」
祈りをこめて、大切な局面で演奏される曲のうちの一つだと思う。

歌詞に出てくる「ソドム」と「ゴモラ」にあるように
聖書に出てくる、神の怒りで滅ぼされた街ソドムとゴモラの話が下敷きとなり
そこから逃げ出すロトの家族と、「振り返るな」という教えに背いて振り返り
塩の柱になってしまったロトの妻の話が、前提となっている。

Someday I wish I were
君を置いて この街を抜け出すなんてしない
だって僕はきっと振り返ってしまうことになる
そして滅ぶなら

Someday I wish I were
君の上をちょっと高く飛んでいるだけでいい
ほらこの街の星空は降らず綺麗なまま
悪くない眺めだろう

迷いのなさで演奏されるこの曲は、彼らが心から捧げる誠実さだと思う。
サビのフレーズを歌う竹田さん、新井さん。
これって、客席に向けたすごいラブコールで愛情表現だと改めて思う。

君の腕をずっと離さないままで僕に還る

「ずっとずっとずっと」と繰り返す久我さん。
深く深く頷くような、力任せの感謝。

この光景を見た客席で、心細さや疎外を感じる人は
一人として存在しないと思う。
そんな圧倒的な景色。
力任せの感謝。愛情。胸の奥が熱くなるのを感じる。

『煌煌たる様』というコンセプトワンマンが
LIPHLICHが得意とする華やかさを前面に出したものだと理解した時には
非日常の景色を描いていく忘我や没入に傾いた勢いで押し切るような一日に
なるのかと正直予想していたけれど、それにとどまらないものを見せられた、という感が
強い一日でした。

『暗暗たる様』で見せられたような、圧倒的な景色というよりは
客席と目線を合わせたままで、きらびやかさの側面に光を当てていくような。

足を運んでよかったと思える日になりました。
素晴らしいものを見せてくれてありがとうございます。
この日のライブが、映像として上がるのを楽しみにしています。

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