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Co-Design;ヘルシンキの新中央図書館Oodiを市民とデザインする

12月5日、ヘルシンキに新たな中央図書館"Oodi"がオープンします。そしてもちろんこの図書館は参加型のデザインプロセスによって作られてきました。今取っているStrategic Co-Designという授業のプロフェッサーはこの図書館のCo-Designにコンサルタントとして携わっていたこともあり、どう設計してきたかを授業にてモデルケースとして取り扱ったのでご紹介。

フィンランドは図書館利用率が世界一、読書好きな人が多いことでも知られてます。ただ、北欧において図書館は本を借りに来る場所というよりも公共のコミュニティスペースとしての意味合いが大きく、以前デンマークのコリングに遊びに行ったときに訪れた図書館も最早カフェみたいだったり、家の近所の図書館では子供がゲームをしに溜まってたりします。

そんな中で、このOodiは本や文化的イベントにアクセスするカルチャーの消費地としての図書館から、カルチャーの創造地へと図書館を再定義し、市民におけるイニシアティブを向上させることを狙いとして位置づけられたプロジェクト。2012年のデザイン都市への選出からCo-DesignとService Designはより国内で浸透し、ヘルシンキ市が市民参加プログラムを戦略に位置づけて立ち上げたこと、またプロジェクトの趣旨も相まって当然のようにCo-Designアプローチが用いられました。しかも公式Webにサービスデザインのページを用意するという笑。(下記;サイトより)

オープンコラボレーション;"夢の図書館"を集める

このCo-Designプロジェクトは、市民から"夢の図書館"を集めることから始まりました。公共の場ということもあり、異なる人々の異なるニーズを満たせる場にするためにも多くの人を巻き込む必要がありました。2012年に始まったthe Unel-moi!キャンペーンでは、"Tree of Dream"と称して木の近くに紐付きの紙とペンを配置し、見かけた人が書いてぶら下げられる物理的なタッチポイントおよびwebサイト上の投稿から、2300もの未来の図書館の理想が市民から集まりました。

このキャンペーンから開始した背景として、新規事業の立ち上げと異なり公共サービスゆえに取れる手段でもありますが、まずPR目的、つまり注目度を上げることでした。そしてこれは、後の詳細なデザインをする際に必要となる深いエンゲージメントをしてくれる市民のリクルーティングにも繋がります。後述しますが、Co-DesignプロジェクトにPRを目的として置くことがプロジェクトの予算獲得にもつながるのです。

Participatory Budgetingによるパイロット選出

上記のキャンペーンによるインプットから、プロジェクトチームはいくつかのアイデアをパイロットテストとして図書館への実装に先駆けて実験することにしました。そのアイデアの意思決定に伴い、フィンランドで初めてとなるParticipatory Budgetingを手段として用いることにします。Participatory Budgeting(参加型予算)とは、自治体等で用いられる民主的な予算組の方法。上限ある予算の配分を一部の権威者が何に使うのか意思決定をするのではなく、市民・住民がこういうことに予算を使いたい、というアイデアや提案 を集めて住民が決定する手法です。パリやニューヨーク、先日はヘルシンキでもサービスデザインエージェンシーのHellonがボードゲームをデザインして、住民が気軽に参加できる取り組みを始めています。

本プロジェクトでは、市民が8つのコンセプトの中から事前に組まれたコスト構造に基づいてwebまたはワークショップに参加することで意思決定に携わります。結果、最終的にはthe Urban Workshop makerspace concept, the Storybook Birthday Parties for families and children, Space for relaxation and concentration, and a litera- ture event seriesの4つが選出され、イベントは即予約が埋まるなど成功に至りました。

とはいえ、実際のワークショップへの参加者は60人程度にとどまり、リフレクションとしてはParticipatory Budgetingという響きが「専門的な政治的知識が必要だ」というイメージを与えてしまったとのこと。この辺のイメージギャップの調整は参加の敷居を下げるためには必要。

ワークショップによる具体的アイデアの創出

上記のような誰しも参加できるオープンな方法に加えて、おおよそ20ものクローズドなワークショップも展開。上記はPRによる知名度の向上および、User Inspiration (参照)というアイデアをランダムに集めることに焦点をおいたCo-Designのアプローチが主でしたが、詳細な図書館の仕様を設計していくにあたっては、要件を抽出するための特定のグループとのワークショップが必要になります。未来の学びのあり方、読書、観光、多文化、メイカースペースなどあらゆる切り口で、市の役員、街の若者や保育士、子供連れの家族など多様なステークホルダーとアイデアを創りあげていきます。

こうした一連のワークショップは図書館のスタッフと、対象となる各ステークホルダーの暗黙知のギャップを埋めていき、多様な知の交換を可能にします。

Citizen Designerによる詳細設計

図書館の最終設計段階にあたって、Friends of Libraryと称したCitizen Designerのコミュニティを創る取り組みが行われます。主な目的はこれまでのワークショップで出てきたアイデアのテスト及び最重要なニーズの特定から、ブラッシュアップを図ること。キャンペーンにより一般市民120人の応募を集め、最終的に20名強が選出されました。参加者の選出にあたり、時間的制約もあるためにデザインスキルも多少あるLead Userを中心的にリクルートするという意見もありつつ、公共サービスがゆえに最終的に視点の偏りが怒らない構成にしたそう。そのため実際のワークショップに入る前にCapability Buildingと称したトレーニングを少し設けたとのこと。

その後4ヶ月に渡りトピック(ex: 実験と学び・21世紀の市民スキル・ 住民/観光客など多様なグループへの文化適応)ごとにグループが分けられ、ワークショップの前後ではwebベースの事前/事後タスクを参加者に課しながら勧めていきます。図書館スタッフとコンサルタントがファシリを努めながら、ペルソナ・ジャーニーマップ、シナリオ設計、ロールプレイ、コラージュ等のツールを用いていきます。

また、重要なのは図書館をサービスと捉えてオープン後の継続的な改善を行うためにも、中長期的なコミュニティ形成のためのタッチポイントとして、こうしたワークショップにおける密な対話の場は機能していくということ。
参加者のモチベーションはプロセスを通した学びの楽しさと、自分が公共に残るモノに携わっている、という行為主体性。

しかしこうした参加者がしっかりと集まったのも、前述のオープンコラボレーションを介したPR等の効果が効いており、長い時間軸でのプロジェクトの設計なのにその辺りは流石です...PRによりリクルーティングがうまく行くし、"デザイン"というファジーなもの単体での予算は取りづらいが、マーケティング名目と絡めることで予算取りもしやすくなり、よりリクルーティング等にもコストをかけられるようになる、といった設計。

まとめ

上記のそれぞれの参加型アプローチは、どの規模でステークホルダーを巻き込むのか、どのくらいのコントロールを移譲するのかという民主化の程度、共創するにあたる時間軸、それぞれの必要とする成果物、といった観点ですべて異なりますが、図書館のデザインという1つに向かったときに、どうそれぞれのアプローチが重奏的に相乗効果を生み出していくのか、という点で非常に面白い例だと感じます。実際にどんな設計になっているのか、オープン後に足を運んで調べてきます。

追伸:
本記事は授業および論文を参考にまとめました。該当論文はもう少し詳細かつ各アプローチのリフレクションも含めて記述してあるので、気になる方はメッセいただければお送りします

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