テクノのDJパーティで

何時間も音楽に揺れ動き
疫病に罹るように
ビートに罹る身体
グルーブに罹る魂
午前4時
ダンスフロアはトランス状態
そのフロアを後にして
夜明け前の公園に急ぐ
アメ村スクエアビルの地下から
地上への階段を一気に駆け上がると
一陣の風が桜の花びらを運んでくる
熱くハグを交わした女子たち
熱くハグを交わした男子たち
その感触の残り香が
桜の花びらとなって体を覆う
ビートに罹った身体
グルーブに罹った魂
を愛おしく抱きながら
ぼくは歩く

去年
春の冷たい夜明け前
一匹の雄猫の屍骸を公園に埋めた
満開の桜の樹の下に埋めた
猫がベランダから落ちた
と飼い主からの電話で駆けつけた
春の冷たい早朝の路上に
猫の哀しい屍骸があった
硬直した屍骸を抱いて
飼い主の部屋に入った
飼い主は誤って落ちたと言った
彼女はその猫が
猫と人の間を行き来していたことを知らない
彼が猫と人の間を行き来して
魂の拠り所を探していたことを
ぼくは知っている
だが彼女に何も言わなかった
別れの儀式を済ませて
夜が明ける前に隣の公園に埋めた
埋めている間
風が哀しげに
満開の桜の樹から花びらを撒き散らした
その猫 彼は
人のときはDJだった
無機質なアシッドビートを操るテクノDJだった
彼がDJパーティの甘美なフロアを
ぼくに教えてくれた

冷たい夜明け前の今
ダンスフロアから
ビートに罹った身体
グルーブに罹った魂のまま
その彼に会いに来た
孤独で冷たい風が吹いている公園の
満開の桜の樹にもたれて
彼の気配を感じる
桜吹雪がぼくを弄ぶに任せ
その妖気の中で彼の口付けを待つ

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