見出し画像

SaaS経営者・CS責任者はCSカレッジアワードを手放しで「いいね」と言っててはいけない

#CSカレッジアワード 、素晴らしかった。
全部は見られなかったのだけど、ハッシュタグを追っているだけでも、各回の質の高さがひしひしと伝わってきた。
視聴者にとっては、「無料&ノーコミットメントで他社の提案コンペをみることができる。しかも何社分も」という、お得感しかないイベントだった。
お題提示企業の皆さん、プレゼンされた参加者の皆さん、そして主催の丸田さんには最大限の賛辞をお送りしたい。
何度も言うが、これを個人でやってるってホント意味わかんない(褒めてる)

連日の盛り上がりを確認したい方は、ハッシュタグ #CSカレッジアワード をご覧ください。

https://twitter.com/search?q=%23CS%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89&src=typed_query


さて、ここまで盛り上がったからこそ、逆に危機感を感じた点もある。そこで、あえてこのようなnoteをぶつけてみようと思う。決してCSカレッジアワードや応募者の皆さんを否定するものではないことを、くれぐれも強調しておきたい。


もしあなたが経営者や事業責任者だったら、この一連のプレゼンを見て、手放しで「いやー、スゴかった!ウチもこうありたい」と思っていてはダメだと思うのだ。

あえて言うが、ものすごく時間を掛けてリサーチして準備したら、良い提案ができる、というのは当たり前だ。今回のイベントは、日常ではなく、非日常。応募者の皆さんは、入念な準備をしてプレゼンに臨んだはずだ。それこそ、一球入魂ならぬ「1社入魂」という気持ちで。
それは何ら否定されるものではないが、一方で「1社入魂」でやれば、提案の質が上がるのは当然とも言える。素晴らしいプレゼンをされた応募者の方も、それを「毎日午前と午後1社ずつやってください」とか「担当の20社に同じ感じでお願いします」と言われたら、そうはいかないはずなのだ。

つまり、ここで経営者・事業責任者が考えるべきは、その「1社入魂」プラクティスが、自社に持続的な利益ある成長(sustainable profitable growth)をもたらすかどうか、だ。

「1社入魂」を継続するという選択肢も、もちろんある。あなたのビジネスが平均単価(ACV)1億くらい、最低でも5000万円はくだらない、ということであれば、そのアプローチもありだ。むしろ、それが差別化要因にもなり得る(つまり持続的な利益ある成長をもたらす)。
ただし、CSMの採用がコンサルティングファームとの競争になることは心しておきたい(つまり新卒に600−700万円くらい提示し、中堅には軽く1,000万円以上を払い、質を担保しながら採用し続けることを意味する)。

CSをはじめた企業や担当者の間で何度も繰り返されてきた、「ハイタッチでずっとやってきたんですけど、そろそろ限界なんです問題」を再生産してはならない。
経営者ならば、「1社入魂」でずっとやっていくのか、ある程度質を落としてでもスケールするのかを決めないといけない。いや、むしろ既に決まっているはずだ。なぜなら、それはビジネスモデル、顧客の特性、価格、プロダクトラインなどによって決まるものだから。

もし、この「1社入魂」の道では成り立たないということであれば(大半の企業がそうなるはずだ)、自社にとってあるべき姿を早くつくらないといけない。
「1社入魂」を是としてしばらく走ったら、それが良いという価値観が生まれる。一旦、価値観が生まれたら、そこから外れたやり方をすると、妥協してる感が出てしまう。本当は「1社入魂」でやるべきなのにそれができてない、というモヤモヤ感に苛まれる。それはメンバーのパフォーマンスに影響し、マネージャーの評価をブラすリスクになる。あなたが経営者や責任者なら、自社のCSはどうあるべきなのかを先に決め、マネージャーやメンバーに明確に伝えておかないといけない。

そう考えると、今回のCSカレッジアワードではあまり見られなかったアプローチにもっと光を当てたい。
自社プロダクトのことを深く知り尽くし、さまざまな顧客での利用のされ方(ユースケース)を知り、それを最大限活用してスケールしていく道だ。
自社プロダクトはどう活用されると効果を発揮するのか、どんな顧客がどんな風に活用しどこに価値を感じているのか。これらを深く深く追求する。
これによって、提案のベースラインを引き上げる。キックオフをやる、経営者を巻き込むといった外形的なプラクティスに加えて、その中身 ー キックオフで何を話すのか、何を示せば経営者を巻き込めるのか ー まで含めてプラクティスにしていく。

「1社入魂」というのは、コンサルティングのようなプロフェッショナルサービスの世界だ。つまり、1つの案件で高利益率を目指さないと成り立たない世界。カスタマーサクセスは、プロフェッショナルサービスではない。ならば、自社プロダクトのことを深く知り、プロダクトのユースケースを知ることは、もっともっと重視されていいと思う。コンサルタントではなく、ベンダーのCSMの役割はそこにある、いや、そこにしかないのだから。

ところで、ユースケースとは何か?私の定義はこうだ。
どのような顧客の
誰と誰が
どんなときに
どの機能を使うことで
どんな価値を感じているのか

例えば、
愛知県内に10店舗を抱える飲食店の
エリアマネージャーと店長が
売上速報と在庫確認に
〇〇機能を使うことで
臨店が不要になる上に、仕入業者とのやり取りがスムーズになり仕入条件が良くなった。

例えば、
栃木県にある受注生産型の製造業の
役員と社員が
製造現場のカイゼン活動や、品質管理に
○○機能を使うことで
役員会議の時間が半減した上に、物事がどんどん進むようになり、新製品の出荷スピードが上がった。

こういったユースケースを蓄積し、パターン化し、CSMが常に引き出せるようにする。医師が患者の様子と症状を診断し、すばやく対処法を絞り込んでいくように、顧客の状況と課題からすばやく提案内容を絞り込めるようになるのが理想だ。
これだけで100%の提案が提示できるわけではない。だが、70点の提案が労少なくすばやく出せることに価値がある。残り30点に労力を掛けるかどうかは、その時々で判断すれば良い。


顧客対応品質は素晴らしく、顧客満足度も高いが、儲からない。

これまで多くの業界でグローバル競争に敗れていった日本企業と同じ道を辿ってはいけない。顧客の利益のためならなんでも提案・支援するのが仕事のコンサルタントとは違い、自社プロダクトの利用と切っても切れない関係にあるCSの活動・施策は、どうあるべきなのか。自社プロダクトは、どう活用されると効果を発揮するのか、顧客に価値をもたらすのか。ユースケースはどのように蓄積し、CSMはそれをどのように習得するのか。経営者・責任者ならば、そこを考えないといけない。

顧客の成功のために何でもやることが、カスタマーサクセスのあるべき姿ではないはずだ。カスタマーサクセスとは、どこまでいっても「自社プロダクトを使ってもらう」前提であり、営利企業の営みの一環だ。何でもかんでもやればいいというものではない。そう頭では分かっていても、実務メンバーにとっては「1社入魂」で提案を考えるのは楽しいし、顧客も喜んでくれるし、それで成果が出たら最高!と思ってしまうものだ。だから、この落とし穴にハマる前に、経営者・責任者は先手を打たないといけないのだ。


・・・と偉そうに書いたが、私自身はこれをやり切れなかった。その重要性は分かりつつも、そこにリソースを投下し切れなかった。だから、これをやり切るのがとても難しいことはよく分かっている。
だからこそ、だれかにやって欲しい。このプラクティスの知見が早く世に広まってほしいと、切に願っている。早くしないと、カスタマーサクセスが認知され普及するほどに、「ハイタッチでずっとやってきたんですけど、そろそろ限界なんです問題」が再生産され、「顧客対応品質は素晴らしく、顧客満足度も高いが、儲からないSaaS企業」が増えてしまう。そんな事態は何としても避けたい。

いただいたサポートはありがたく次の記事制作に役立てたり、他のクリエイターさんの記事購入に使わせていただきます。