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2019年のモバイルゲームデザインとプロデュースを考える(1) なぜ今これが重要か

現在のモバイルゲーム市場 - マクロ視点

突然ですが皆さん、スマートフォン、お持ちですよね?
総務省の発表によれば、国内でのスマホ普及率は2017年時点で既に75%を超え、パソコンや固定電話を逆転しています。

そうしたハードウェアの普及に伴い、(少し悲しいですが)「子供の遊び」であったり、「オタクがやるもの」であった「ゲーム」という娯楽が、「スマートフォンゲーム」という形で一般に普及しています。
それは、市場規模の拡大という形でも確認でき、2018年のモバイルゲーム市場は世界全体では約7兆円、国内だけでも1兆円を超えると見られています。

そんなモバイルゲーム業界も、既にレッドオーシャンと呼ばれて久しい状況です。レッドオーシャンすら生ぬるい、それさえ超えた「ブラックオーシャン」と表現される方もいます。毎月何本ものゲームが生まれ、それと同じくらいのゲームが終了していくのが現実です。
(尚、ブラックオーシャンは本来、深海の様にライバルのいない市場という意味の様ですが、「レッドどころの騒ぎではない」というニュアンスが伝わればと...)

このように市場規模自体は伸びているものの、新規参入が相次ぎ競争は激化、市場としては大変厳しい状況になっています

現在のモバイルゲームプロダクト - マクロ視点

皆さんは、スマホゲームと聞いて、どんなタイトルが思い浮かびますか?(質問続きですみません...)

スマホゲームの元祖王者「パズル&ドラゴンズ」(以下、パズドラ)は、つい先日2019/2/20に7周年を迎え、今尚健在です。

パズドラを押しのけて大流行し、現在も国内で断トツの売上を誇る「モンスターストライク」(以下、モンスト)は、2018/10/10に5周年。
タモリさんを起用したヤバババーンキャンペーンはインパクトがありました。

また、2017年からその存在感を放ち始め、現在国内では唯一モンストに売上で肉薄する「Fate/Grand Order」(以下、FGO)は、2018/7/30で3周年。

そして、2017年末に彗星のように現れ、PUBG※のパクリだなんだと言われながら、国内のスマホバトロワゲーで不動の地位を築いた「荒野行動」は、2018/11/23で1周年です。

今ここに上げた4タイトル、途中の引用ページも見ていただいた方には分かると思いますが、実は2018年の国内スマホゲームタイトルの中で売上Top4タイトルなんです。

恐ろしいのは、国内スマホゲーム市場が1兆1000万程度と言われている中でTop4タイトルだけで3000億近い売上を上げており、市場全体の25%以上を占めている事。そしてそれが、荒野行動を除けば「運営3年以上のタイトル」によってもたらされている事です。

一昔前、業界ではゲームの寿命は3年と言われ、それを超えるとピークアウトして新しいタイトルにその席を明け渡すと考えられていました。しかし2018年、実態としては長期運営タイトルが健在です。

これが何を意味するかというと、ただでさえ「同時期の新作」と戦わなければいけない新作のモバイルゲームは、「既に流行っている過去のゲーム」とも戦わなければ、生き残れないという事です。

なぜこの記事を書き始めたのか

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
私は数年前からスマートフォンゲーム業界に席を置いており、現在は主にデータ分析を担当させて頂いています。そのため、如何にゲームビジネスが難しいものか、定量的にまざまざと見せつけられている立場にあります。
上述の通り競合は多く、家庭用ゲーム機と同じリッチ化の道に進んでいるためコストは上昇し、採算を取る事が難しくなってきています。

そんな厳しいスマホゲーム業界ですが、それでも自分は、まだまだここで戦って、勝ちたいと思っています。なぜかと言えば、やはりゲームが好きで、特にスマートフォンゲームを取り巻くビジネスが好きだからです。
それではなぜスマホゲームビジネスが好きなのか? それこそが、この記事を書き始めたキッカケでもあります。

実は自分は約2年前に一度、ゲーム業界を離れました。当時は特に、スマートフォンゲームのあり方が固定化され、作り手としての面白さを感じられなかったんですね。当時は今と違って、ゲーム性は抑えるとか、一ゲームは短くとか、とにかく「一般の方に向けて」「スキマ時間の暇つぶし」に最適化したゲームが勝つ時代でした。

それが半年ほど前に戻ってきて、市場が大きく変わっている事に気づきました。

FGOというモンスタータイトルが生まれ、荒野行動のような本格シューターが爆発的にヒット。次世代の音ゲータイトルとしてバンドリが人気を博し、ガチャに頼らないゲームデザインで艦これのスマホでのポジションを奪ったアズールレーンマフィアシティ放置少女といった中国系タイトルの台頭、ブラウンダストキングスレイドといった韓国タイトルも虎視眈々と上位を狙う。
更にその裏で、コミュニティファーストを掲げるDeNAの逆転オセロニアメギド72が健闘し、Cygamesのシャドウバースはe-Sports路線を突き進む。賞金総額1,000万の競技大会が年4回も開催され、その優勝者達が一同に会するWorld Grand Prixの優勝賞金はなんと1億円。

競争は以前よりも更に厳しくなっている。それでも、戦い方にバリエーションが許容され、それぞれのタイトルがそれぞれの工夫をしてヒットタイトルを目指せるようになった。

しかし良いことだけではなく、競合の増加に伴ってWeb広告のコストが上昇。一昔前ならweb広告は「狙ったユーザーを安く獲得できる」宣伝手法でしたが、今はもうそんな事はありません。

こうした変化の結果、遊びやすいゲームを作って、継続率を上げる改修をして、Web広告で安く人を取って、一定以上の規模になったらテレビCMを打つ、という単純なロードマップが通じなくなった。限られた予算とリソースで、どうやったらヒットタイトルになれるのか、王道が見えなくなった。

でも、だからこそ面白い

そう思って、スマホゲームビジネスについて再度真剣に考え始めた訳です。

この連載は、そんな厳しくも楽しいスマホゲーム業界でこの2019年以降どのように戦っていけば良いのかを考え、まとめたいと思い、始めました。
内容としてはまず、スマートフォン向けゲームの「ゲームデザイン」についての歴史の振り返りと現時点での最適解の考案。その後に、2019年以降のゲームプロデュースについて、という順番に進めていく予定です。

尚、この連載では基本的に日本のゲームを中心にした考察を進めます。世界的には必ずしも通じるものではありませんが、その点はご了承下さい。

更新は不定期になると思いますが、どうぞ最後までよろしくお願いします。

次回予告

次回はまず、「ゲームデザイン」の基本的な考え方を整理すると共に、「パズドラ以前」の特徴について見ていきたいと思います。

以上、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

脚注

※PUBG:PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDSの事で、一般に初めて大ヒットしたバトルロイヤル型のゲーム。こちらはPCゲームとしてスタートし、現在はスマートフォン版もある。

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