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2019年のモバイルゲームデザインとプロデュースを考える(5.5) VIPシステムとFQ、対極的LTV向上策

こんにちは。
GWと言う事と、補回という事で連投になります。
今回は手短に、中国式ゲームでよく採用されている「VIP」システムと、国内のゲーム運営で重視される「FQ」についてまとめていきたいと思います。

ビジネス的観点で見たモバイルゲームの投資構造

今回の話をする上で知っておくべき前提として、投資としてみたモバイルゲームの構造を簡単にまとめます。

この記事を読んでおられる方であれば、以下の点はもはや説明不要でしょう。
・ゲーム作りにおいては初期開発費は全て投資である
・最近はゲーム作り以外にもマーケティング費用も大きく投資する必要がある
・ゲームリリース後、売上から費用を引いた残りを利益とし、事前に決めた期間内に利益を積み上げて、初期投資費の回収を目指す

これを数式にすれば

売上 - 開発費 - 運営費 - マーケPR費 > 0

という関係を、いつどのような時間軸で満たすか、最悪どこまでマイナスに突入して良いのか、というのがビジネスレイヤーで見たモバイルゲームの構造という事になります。

数式上ではこれを満たす方法は多くあり、売上を増やしたり、マーケ費を減らしたりします。しかし現実には、開発費やマーケをケチるとそれだけ売上も減る事が多いため、いかにバランスを取っていくかがプロデューサーの腕の見せ所となるでしょう。

特に最近はマーケティング費用が高騰しており、CPI(ユーザー一人辺りの獲得コスト)が1,000円、なんてことも起き、ビジネスとして成立させる事がどんどんと困難になってきています。

そうした状況に対して大きく二種類のアプローチが取られ、それが中国のゲームに代表される「VIP」システムか、昔ながらの日本的やりかたである「FQ」重視運営です。

VIPシステムによるリクープの最短化

中国のゲームでは、そのゲームに対しての継続的な課金ではなく、累計課金学で永続的に特典が得られる仕組みが導入されている事が多く、これを「VIP」システムと呼ぶ様です(どのゲームでもVIP、と表記されています)。
最近は中国のゲームも数多く日本に入ってきており、いずれかのタイトルで見かけた事がある方も多いのではないでしょうか。

このVIPシステムは、その性質上できる限り早いタイミングでの課金を推奨します。なにせ、一度課金すれば、あとは未来永劫お得になりますので。そうすると何が起こるかというと、日本産でよく見るリリース後1週間限定パック、など目じゃない速度でユーザーが課金してくれます。

この仕組みがある事で、たとえCPIが1,000円まで高騰したとしても、LTV(ユーザー一人当たりの生涯課金額)が短期でその1,000円を超える可能性が高まります。するとどうなるか?

こうなります。

つまり、大量の広告費をかけて圧倒的な掲載量を獲得し、日本式ゲームでは成り立たない様な速度でそれを回収し、再度大量の広告費をかける、というマネーサイクルを成立させるのです。

このやり方はタイトルの消費も早まりますが、むしろ最初に思いっきり課金してその上で早めにいなくなってもらった方が、サーバー費が少なくて済む。広告費と短期的な売上のバランスが崩れてきたら、稼いだ資金で次のゲームを出せば良い。これが中国式のゲームビジネスのやり方です。

FQ重視運営によるプロジェクト価値の長期的最大化

日本のモバイルゲーム業界では、太古の昔からFQ(Frequency)の考え方が大事にされています。

ドリコムでは5日連続ログインユーザーの数を実質的なDAUの指標として使っていたり*1、DeNAではログイン頻度や月間ログイン日数を計測していました*2。
(それぞれ古い資料のため、現在どうなっているかは不明)

この考え方の根底には「ユーザーには長く遊び続けて、長く課金して欲しい」という思想があると自分は考えています。

自分自身も分析業務を行なっているため実感を持ってわかるのですが、モバイルゲームのユーザーは1日離れただけで大半がそのまま帰ってきません。そのため、どれだけ忙しかろうが、リアルの事情があろうが、最低限ログインしたいと思ってもらう必要があります。

そうして、毎日欠かさずログインするユーザーが増えるほど、課金するユーザーも増え、長く継続的に売上に貢献頂く事ができます。

この場合ビジネス的には、例えCPI1,000円まで高騰したとしても、半年や1年かけてそれが回収できれば良い、という考え方になります。

投資判断を行なっている経営レイヤーとしては不健全な決定になりますが、ゲームを作っている現場としては中国式よりもこちらの方が健全に思えます。

そして、こうした「毎日プレイしたいと思ってもらう」ことは、プリコネ/スタリラの様な、スタミナが貴重な資産で毎日欠かさずプレイする事が大事になるゲームサイクルと噛み合っています。第5回では、課金の観点からスタミナの重要性を見ていきましたが、継続の観点でも、それは大事だという事です。

まとめ

今回は内容が発散しましたが、以下の点をまとめました。
・投資としてゲームビジネスを見た時、マーケ費が大量にかかるようになった今、取れる手段は2つある
・1つは、VIPシステムによって早期大量課金に誘導し、短期間で売りぬける
・もう1つは、1日足りともログインを欠かしたくないゲームサイクルを作り、長期的に遊んでもらう事で費用を回収する

難しいのは、ビジネス的な整合性はVIP式の方が説明しやすく、ゲーム作りの現場的には継続率の方が納得しやすい、という不整合がある事でしょう。

でもだからこそ、今のモバイルゲーム業界は面白い、と常々思います。

以上、結局長くなりましたが補回でした。次回は第6回、ゲームを選ぶモチベーションでお会いしましょう。

参考文献

1)5日連続ログインをDAUにカウントする@2014年

2,3)DAUに色を付ける



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