見出し画像

2019年のモバイルゲームデザインとプロデュースを考える(4) モンスト、そしてFGO、サイクルの二重化

こんにちは。
前回はゲームサイクルの観点で、ガラケーソーシャル時代からパズドラ時代への変化をまとめました。
今回は更に後の年代のヒット作であり、現在断トツのトップ1,2であるモンストとFGOについて見ていきます。
(5/2 単純な書き間違いがったので修正しました...)

モンストの誕生と特徴

この業界においては言わずと知れたモンストは、2013年10月にiOS版がリリースされました。その特徴は「スマートフォンを持ち寄って、マルチプレイができる」事でした。
当時はPSPでモンハンが爆発的に流行った時期で、「友達とのマルチプレイ」の重要性が明らかになった時期でした。
それにどれだけ影響を受けたのかは分かりませんが、スマートフォンゲームにいち早くマルチプレイを取り入れたのがモンストです。

ただし、マルチプレイを機能として入れれば良いという訳ではなく、そのためにモンストはレベルデザイン面でも工夫をしています。
例えば、モンストはキャラクター同士のシナジーを抑え、誰がどの様にキャラを持ち寄ってもクリアできよう、「アビリティと属性が揃っていればなんとかなる」バランスにしています。

モンストは無課金ゲーであり課金ゲーでもある

そんなモンストですが、リリース後1年頃のモンストのゲーム環境を覚えているでしょうか? 当時、攻略サイトで最も"強い"とされていたキャラクター、それはクエストドロップキャラのクシナダでした

Internet archiveにて遡れた最古の記録は2016年4月1日でしたが、この時点でも各種限定ガチャキャラを差し置いて、クシナダは堂々3位の評価になっています。

しかもこのクシナダ、獲得するために必要な適正キャラもクエストドロップのイザナミであり、そのイザナミの適正キャラもクエストドロップのクイーンバタフライであり......。その様に、「無課金でも最強キャラへ至る道」が見えやすく、十分に達成可能な状況でした。
ここだけ見ると、モンストは無課金で十分遊べる様に見えますし、実際「友達に誘われてモンストを遊んでいる層」には十分なコンテンツ量でした。

しかし、それではマネタイズが成立しないので、モンスト運営は「覇者の塔」を作ります。この覇者の塔、上階に行くに連れて報酬も美味しくなりますが、難易度も上昇していき、特に高難易度のフロアは実装時点では課金キャラが必要な様に作られています。
これにより、モンストをやり込みたいユーザーは必然的に課金が必要な仕組みになりました。

この二重構造が出来て以降、モンストはライト層向けで誰でも遊べる新キャライベントと、上級者向けの高難易度コンテンツを並行して増やし続ける運営をしている様に見えます。

ここで重要なのは、上級者向けコンテンツには入場制限がかかっている事です。モンストは、実際の所かなりの課金ゲーです。限定キャラのガチャ排出率は、単体でみれば0.4%設定の事が多く、単体狙いの期待値はあのFGOよりも低いのです。それでも尚、ユーザーの中で「課金ゲーだ」という印象が薄い(少なくとも薄かった)のは、「課金キャラが必要になるコンテンツはやり込みユーザーしか到達できない」構造を徹底してきたからだと考えています。

以上のことから、モンストは一つのゲームで二重のゲームサイクルを作るように運用してきたと言えます。

これを実現するのは並大抵の事ではなく、かなりのコンテンツ量を求められる茨の道です。それをやりきったからこそ、今のモンストがあるのだと思います。

FGOの誕生と特徴

次は、FGOについて見ていきましょう。正式名称「Fate Grand/Order」、Fateシリーズの最新作としてリリースされたゲームです。
このゲームの特徴は何と言っても、そのテキスト量の多さです。2019/4/7現在、app storeの紹介では「500万字で紡がれる、重厚なストーリー」と書かれており、文庫本で30〜50冊程度のボリュームという事になります*1。
2018年末に話題になったインタビュー*2では、奈須きのこ氏自身がリリース前に「このゲームでシナリオの価値を取り戻そう」と語りあっていたことが明かされており、それに恥じない重厚さになっています。

ただ、これは裏を返せば「シナリオの質」が求められるという事であり、実際第一部の前半の方は低評価で、もっと短期でサービスが終了する可能性もありました。しかし、後半、奈須きのこ氏自身が全面監修、ないしは直筆した章の評価が大変高く、それによってタイトルが持ち直した経緯があります。

FGOは無課金ゲーであり貢ぎゲーでもある

そんなFGOですが、レベルデザインの点でも他にはなかなか見ない特徴があります。それは、インフレが圧倒的に少ない事です。

多分これは、リリース後の混乱期にジョインした元ディレクターの塩川氏の方針「英霊は全員が主役」*3という路線も今も尚、踏襲しているからだと思われます。これにより、運営が3年以上たった現在でも「新キャラよりも初期キャラの方が強い」という事が起きています。

また、同じく塩川氏の方針で「自分自身との戦いを楽しむゲーム」であるとされ、ランキングやギルドといった要素は一切排除されています。

そんな状況で、なぜガチャが回るのか? その答えがやはり「物語」です。

インフレが少なく、他者との競争も無くなると「自分の好きなキャラクターでゲームを遊ぶ事」ができる様になります。このキャラにお金を、時間を、かけてしまって、ゲームが攻略できなくなる事はないだろうか。そういった心配はいりません。徹底的に、遠慮なく、愛のみでガチャを回して良いという信頼が、これまでの運営によって醸成されています。

また、そうした「必須キャラ」の少なさにより、限定キャラクターが1年以上復刻されない、という事も平然と行われます。それでも、ゲームをクリアする上で問題は起きません。

その結果として「まさか自分の推しキャラを今引かないやつはいないよな?」という認識がユーザーの中で出来上がり、愛ゆえに、確率0.7%が5体当たるまでガチャを回し続ける文化ができあがったのです。

こうしてFGOもまた、二重のゲームサイクルが成立しました。
ただしFGOの場合、ガチャを回すサイクルに入るとモチベーションが変化すること、今までの常識とは違う部分からガチャに向かって矢印が伸びる点が特異な所です。

二重化の利点は、口コミ効果の最大化

以上の様にモンストとFGOは、無課金でも十分遊べるコンテンツと、課金したくなる要素を二重に提供してきたと言えますが、それがなぜ良かったのでしょうか?

自分は、この構造が「口コミ効果の最大化」を実現したと考えています。

例えば私自身、今でもFGOをプレイしており、ネットでは20万爆死したとか60万爆死したという書き込みも見られますが、それでもこのゲームを友達に勧めます。それは、「無課金でも十分心揺さぶられる体験ができる」からです。最終的にお金を使うことになるかはその人次第で、とにかく一定以上の面白さは無料で得られる。だから、自信をもって友達を誘う事ができます。

モンストもこれは同じで、一定の難易度までは無課金で遊べます。また多少の背伸びは、マルチプレイで手伝ってあげれば無課金のまま超えることができます。だから、「一緒に遊ぼう」と友達を誘えます。

情報過多の現在、友達の推薦というのは無視できない要素です。それが安心してできるかどうか、それが今後ますます、大事になるでしょう。
(この辺りの話は、第6回で更に突っ込んで議論したいと思っています)

まとめ

この記事では、パズドラが決定づけたガチャ偏重のゲームサークルにおいて、モンストとFGOが「無課金でプレイする道を十分に整えながら、課金する理由を提供する」という構造を持っているという事を示しました。

2018年、売上2トップのタイトルが共に備える特徴であり、この連載のゴールである「2019年のモバイルゲーム」においても、この考え方は通用すると考えています。

次回予告

ここまでは実質的に日本産ゲームの歴史でしたが、次回は北米やアジアのゲームサイクルを取り込んだ、最新のゲームサイクルについてまとめていきたいと思います。タイトルとしては、アズールレーン、プリコネ/スタリラ、辺りを予定しています。

キーワードは、オートプレイ、スキップ、そしてスタミナ課金の復活、です。

余談:尊みの文化とFGOの噛合い

今回、話の流れでここまで触れませんでしたが、FGOが成功したと思われるもう一つの要因についても述べておきます。

私は平成前期のオタクで、「萌え」とか「俺の嫁」という単語と共にオタクコンテンツを消化してきましたが、最近はそれが変わってきています。

今、twitterで最も使われるのは「尊い」という言葉です。
これは非常に大きな違いで、「萌え」は「俺が、このキャラクターを、好き」という主体性が強い概念です。一方「尊い」という言葉は、「俺が、キャラクターのバックストーリーを、好き」とか「俺が、キャラAとキャラBの関係が、好き」という、一歩引いた概念です。

その結果オタク向けコンテンツに必要とされるのは、「一人のキャラクターの萌えポイントアピール」よりも「そのキャラクターの背景設定と人間関係」に移りました。
(余談の余談として、この文化の起こりは、けいおん!辺りに遡るのではと考えています)

例えば最近だと、ガルパではキャラクター間のコミュニケーションやストーリーの提供量に力を入れており、最近では「ラウンジ」というただただキャクターの会話を楽しむ機能が実装されました*4。
しかし結局、オリジナルIPでは運営が用意した以上の妄想材料は提供できません。

そんな中で、「英霊召喚」という文脈がこれ以上ない程噛み合いました。
英霊召喚では、設定上、そのキャラクターはよくある名前だけ借りたキャラではなく、本当に伝承上のその人であるという前提が置かれます。結果、運営が用意しきれない細かなエピソードも、その伝承を調べれば調べるほど、どんどん出てきます。
これにより、FGOは最強の「尊み」発生装置に成り得たのではないか、と推測しています。

もちろん、これは一朝一夕で真似できることではなく、インタビュー記事によればキャラクターを一体作るだけで

担当のライターが資料を読み込んで設定を起こすのに1週間から2週間程度かかり,その資料をもとにイラストレーターさんが1~2か月程の期間をかけて作業を進めていきます。

これくらいの工数をかけている訳なので、彼らの苦労が報われた、と考えるべきでしょう。

以上、余談でした。

参考文献

1)本の文字数

2)マフィア梶田さんによる奈須きのこ直撃インタビュー

3)塩川氏が明かした初期FGOにおける決断

4)どこまでも会話が続くラウンジ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?