【ゲームデザイン分析】プリコネRはなぜ成功したのか part1.提供価値編

こんにちは。今回はタイトルの通り、先日までアニメ放送も行われていた、モバイルゲーム「プリンセスコネクトRe:Dive」(以下プリコネR)について、ゲーム開発者の目線で、何が優れているのかについて分析していきたいと思います。

第一回目として今回は、サービスの基幹となる「提供価値」について見ていきます。

いつもの事ですが長くなったため、先に結論だけ述べておきます。

・プリコネRでは、2軸のストレスと2種類の提供価値を巧みに組み合わせており、無課金プレイヤーと課金プレイヤーが同居可能な設計になっている
・「面倒くさい×簡単」なストレスを超えると、「キャラクター」という代替不可能なリソースが手に入り、「アニメ、ストーリー、キャラスト」など受動的感情価値も得られるので、無課金でも世界観を堪能できる
・「面倒くさい×難しい」なストレスを超えた先では「課金石」という代替可能なゲーム内リソースしか入手できないが、「試行錯誤して成長する体験、他者との競争に打ち勝つ体験」といった能動的感情価値が得られ、そうした体験自体が提供価値になっている

ゲーム概要と成果

分析の前に簡単に、簡単なゲームの紹介と、ビジネス的な成果についておさらいしておきます。

プリコネRとは
2018年2月15日より株式会社Cygamesよりリリースされた、公式呼称ジャンル「アニメRPG」です。
メインストーリーやイベントストーリーの随所にアニメーションが挿入されるほか、イベントでは毎回アニメED風の映像があったり、ゲーム内では各キャラの必殺技発動演出でもアニメーションが流れるなど、名前に違わぬアニメ推しのタイトルになっています。
公式サイト:https://priconne-redive.jp/gamesystem/

ビジネス的成果
国内では、リリース後数日でセールスランキング上位に入り、その後年末に向けて下降していましたが、2019年始から2周年にかけて復活。以降、1位を取ることは少ないものの、50位圏内で推移することが多い状況です。

プリコネのセールスランキング

※app annieより引用

逆に、国内売上だけ見ると意外と大人しいタイトルにも見えますが、このタイトルはアジア圏でも人気を博しています。全部のデータを貼ると冗長になってしまうので、例として台湾so-netが運営を行っている繁体字中国語版のみ提示しておきます。

プリコネ繁体字のセールスランキング

他にも、Kakaoが運営を行っている韓国語版、bilibiliが運営を行っている簡体字中国語版があり、これらは初速から徐々に落ちてきている様子はみられますが、今後どうなるかは要観察といったフェーズです。

「ストレスとリターン」というゲームデザイン

アニメRPGを名乗るプリコネRですが、今どきアニメが見たいのであれば30分フル尺のアニメがNetflixでもamazon primeでも見放題なわけで、その本質はやはり「ゲーム」の側にあります。

「ゲーム」について、その特徴をまとめるには、「ストレスとリターン」の概念を用いるのが適当でしょう。
「ストレスとリターン」とは、スマブラの生みの親である桜井氏によっても言語化された「ゲーム性とは、リスクとリターンのバランスを楽しむものである」という考え方を拡張したものです。

RPG的な要素をもったゲームでは、パーティを揃える、レベル上げを行う、資金を集めて装備を整える、といった準備の段階を経て、強敵を倒し、ストーリーが進行したり、特別なアイテムが獲得できます。
こうした一連の流れを、「下準備=ストレス」と「ストーリー進行orアイテム=リターン」というように読み解く事によって、ゲームのほとんどの要素を読み解くことができます。

例えば、
典型的なソシャゲのイベントで毎日イベントクエストにスタミナを使い続けるのはストレスで、その結果限定キャラが手に入るのはリターン。
マイクラで家を建てるためにフィールドを探索して資材を集めなければならないのはストレス、一個一個自分で設置していく必要があるのもストレス、その結果自分の思い通りの家が出来上がるのはリターンです。

このように、「ストレスとリターン」のフレームワークを用いれば、ゲームデザインの最も根幹の部分を理解しやすくなります。

(過去に一度、このことをまとめたつもりでしたが、読み返してみるとあまり説明していなかった...)
元になった考え方が気になる方はこちらの記事をどうぞ。

2軸の「ストレス」と2種の「リターン」

プリコネRに考え方を適用する前に、「ストレスとリターン」についてもう少し掘り下げておきます。

まずはストレスについて、これには大きく2軸あると考えています。それは「面倒さ」と「難しさ」です。
「面倒さ」とは、ゲームへの必要投下時間や必要な繰り返し回数を指し、リアルタイムギルドバトルなどはこの指標が高く、一回クリアしたら終わりのイベントはこの指標が低いです。
「難しさ」は読んで字のごとく、その課題を達成するための難易度です。
これらは組み合わせる事ができ、簡単だけど周回数が必要、1回で終わるけど難しい、といったコンテンツとして提供される事になります。

リターンについては2種類があり、「ゲーム内リソース」か「感情報酬」です。
「ゲーム内リソース」は、キャラクターや武器、育成素材といったゲーム内で使用するリソースで、
「感情報酬」は、「強敵を倒せて嬉しい」とか「ストーリーに感動した」「自分のお気に入りのキャラを最大強化できた」といったプレイヤー自身の心の中に生じる報酬です。

感情報酬についてはこちらの本が詳しいです。

ここまでの話をまとめたものが次の図です。

ストレスとリターン

モバイルゲームは複雑化しており、この「ストレスとリターン」を組合わせてコンテンツとし、更にそれが複数集まる事で一本のゲームタイトルを形成します。

プリコネRの「ストレスとリターン」の設計

準備が長くなりましたが、考え方の導入が終わりましたので、さっそくこれをプリコネRに当てはめてみましょう。

プリコネRにおけるコンテンツは大きく6つあります。

・ストーリーイベント
・メインクエスト
・ダンジョン(毎日リセットのタワー型コンテンツ)
・ルナの塔(非リセットのタワー型コンテンツ)
・クランバトル
・アリーナ/プリンセスアリーナ (PvP)

これ以外にも、感情報酬が薄い育成コンテンツがありますが、簡単化のために今回は省略します。それぞれのコンテンツについて、私の主観ではありますが、先程の「面倒さ×難しさ」軸にマッピングをしてみましょう。

プリコネのコンテンツマッピング_ストレスとリターン

ざっくり言うと、右上の領域が上級者向けコンテンツ、左下の領域が初心者向けコンテンツになります。
そして各コンテンツについて、リターンも記載してみます。

プリコネのコンテンツマッピング_ストレスとリターン (3)

図中に記載の通り、プリコネRではイベントキャラクターの加入、ストーリーの閲覧について、ゲーム的難易度を抑える設計になっています。
これにより、プリコネを「キャラゲー」として楽しんでいる層はゆるくゲームを遊ぶことができ、大多数のユーザーにとっては無料で楽しく遊べるゲームになります。

一方で、クランバトルやアリーナといったコンテンツでは、ゲーム内リソースで言えば石と育成素材がもらえるだけで、キャラクターが新規加入する事はありません。一昔前のいわゆるソーシャルゲームであれば、イベント限定報酬でキャラカードや武器がありましたが、プリコネRでは異なります。
それなら、なんのために競争をするのか? という疑問も出てくるかもしれませんが、答えはそう難しくありません。人間は根源的に「本気で遊びたい」動物なのです。特に最近では、単なる暇つぶしを求めているユーザーは動画コンテンツに時間を使っており、スマホでゲームを本気でやってはいません。

そんな中でもスマホゲーを遊び、上級者向けコンテンツまでたどり着いてくれる層を、「ゲーマー」として扱う時代になってきたのだと思います。
編成を変えたらダメージがいくつ伸びた、必殺技のタイミングを変えたらダメージがいくつ伸びた、今回は1000位以内に入れたから次回は800位以内を目指そう、そういった体験自体が提供価値になっているのです。

もしまだ納得がいかなければ、そもそもコンシューマーゲームの存在を思い出してください。あれらは、わざわざお金を払って、自分から苦労を買い、それを達成して楽しむ商品ではないでしょうか?

(尚、ルナの塔というコンテンツのみ、難易度が比較的高いところにストーリーが紐付いてしまっています。こちらは最近では難易度が低下している傾向にあり、一般ユーザーに向けて調整していることが伺えます)

まとめ

今回はプリコネRの分析第1回として、大枠の価値提供構造を見ました。
「ストレスとリターン」のフレームワークでみたとき、低難易度の領域でキャラクターやストーリーを堪能でき、高難易度の領域では競争やトライ&エラーの体験そのものの楽しさを提供価値にしている事が、プリコネRの特徴だと考えられました。

次回は、この低難易度と高難易度を結ぶ、「成長実感」とそれを支える「育成システム」「レベルデザイン」についてまとめられればと思います。

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