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誰のアイデア?

最近こんな記事を読んで面白かった。英語なので要約すると、DuchampのReady Madeがもしかしたら他のアーティストのアイデアだったかもしれない、という内容のもの。彼ほどのクリエーターでも「誰か他の人のアイデア」だっただの、「アレオレ」だの言われるんだなと。面白いのは記事だけじゃなくて、コメント欄でその説を論破している人などがいて議論が続いていること。さらには誰も100%は証明できていなくて、それを含めて興味深い記事になっている。同じ構図が(もっと小さいケースで)今でもクリエーター界隈では頻繁に起きている。

モノづくりを生業とされていない方には多分本当にどうでもいいことに聞こえるかもしれないのですが、モノづくりをする人間にとっては誰のアイデアだったか、みたいなことが実は刀の銘と同じくらい大切にされている。それもあってクレジットの記載の誤差やら、アレオレ問題(業界に横行している、本当はほとんど何にも貢献してないけどクレジットに載せてもらって、アレオレの仕事だよ、と曖昧にマウンティングするというクリエーターにもっとも嫌がられる行為)やら何やらで悲しく不毛な内輪揉めが発生したりする。そんなことしてる暇があったらとっとと新しいもっといいもん作れよ、と思うわけですが、本能的なモヤモヤは同じクリエーターだから理解できる。

だから僕らwhateverでは、これからスタッフリストには必ず「Idea」という項目を記載することにしました。何かというと、そのプロジェクトのコアとなるアイデアを考えついた人をちゃんと明記していく、ということです。これまでは刀に彫ってあるべき銘を彫っていないような状態だったのをちゃんと彫ろうぜ、と。そのアイデアを考えた人はクリエイティブディレクターかもしれないし、デザイナーかもしれないし、プロデューサーや、はたまたインターンかもしれない。だから役職名じゃなくてシンプルに「Idea」。ともかく誰のアイデアだったのかということをちゃんと書くことで、その人がキチンと褒められるような仕組みをつくり、もうちょっと「ぶっ飛んだアイデア」というものの社会的価値も高めたいと思ったのです。実現できないアイデアは落書きとおんなじで価値はない、という人も多いようですが、僕はそうとも思いません(語られる文脈次第では理解できるのですが)。何か一つのアイデアがあるから人が興奮し、その実現目指して人々が集まり頑張るわけで、そのアイデアという旗を最初に地面に立てた人はやはりすごいことをやったといってよい。そのアイデアが仮に実現しなくても、その人は「そういうアイデアが考えられる人」としてきちんと評価されて良いと思うのです。

弊社では原則として:
・プロジェクトのコアとなるクリティカルなアイデアを出した人をIdeaに記載します。
・アイデアが同時に複数人いる場合、またはキャンペーンなどでアウトプットが多岐にわたる場合は、各要素においてアイデアを考えた人を併記します。何がクリティカルかはそのプロジェクトのリーダーが判断し、チームの同意を得て記載します。
・基本僕らがリードエージェンシーとして関わっているダイレクトクライアントの仕事や、自社案件をメインに記載します。エージェンシーやプロダクション経由のプロジェクトなどでNDAがあり記載できない、または記載したくない、と言われたものについては記載しませんので、曖昧にしておきたい人にも優しい仕組み。

ちょうど最近Issey Miyake BAOBAOのプロモーション映像「Colored by Rainbow」を公開したので、それに合わせてこれまでのサイトに載せているプロジェクト(上記例外を除く)については全て遡って誰のアイデアだったのかを明記したので、気になる方は是非ご覧になってください。唯一僕がくやしかったのは、記念すべきIdea明記第一弾である「Colored by Rainbow」が僕のアイデアじゃなく、弊社藤原CDのアイデアだったこと。むきー!でも素晴らしいアイデアだし、めちゃくちゃ企画力の高い人材が揃っているこのチームが僕は最高だなと思います。CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー = 最強クリエイティブ野郎)という偉そうな役職の名に恥じないよう、僕ももっといい案を出していかなきゃなーと身が引き締まります。川村最近企画実現してないなー、と気づいた方がいたらプレッシャーかけてください。

「誰のアイデアか」みたいな記事を入り口に語ってしまったので、ちょいマイナスをゼロにするような話に聞こえてしまうかもしれませんが、これは「俺のアイデアだぜ!」と小さな自己承認欲求を満たす以上に、アイデアというものにキチンと価値を与え、そしてクライアントやパートナーに対してちゃんと誰がこの素晴らしいプロジェクトの最初ジャンプをもたらしてくれたのかということを明示していくというゼロをプラスにするようなポジティブな効果の方が実は僕は大きいと思っています。

例えば、若者のポートフォリオを見たときに有名クリエイターが関わっている仕事だと、「ああ、これ〇〇さんの仕事でしょ」となりがちですが、Ideaにキチンと記載されていることで「あ、これ君のアイデアだったの!」とちゃんと主張もできるし、採用する方としてもそれがわかるとすごく助かる。というのも若い人はクラフト力やプレゼン力などが低いのはしょうがないことで、しかしそれによって才能をプレゼンしきれず、見逃してしまうことがあったりするからです。でもアイデアは仕事の経験と関係なく生み出せるものだから、この仕組みが広まることでIdeaに記載されていることで発想力を汲み取った採用などができるようになるんじゃないかと考えてます。whateverでは、そういった新しい人材をもっと見つけていきたい。逆にうちに来たらそういう目立ち方もできるから、若者には勝負しがいのある環境なんじゃないかなーと思います。

また、クライアントにとってもプラスがあることだと思っています。たとえば、巷で好きな作品をみつけて、それを「考えた」チームと仕事をしたいと思ったとき、Ideaが誰だったのかがわかることで少なくともそういった発想ができる人をスタッフィングすることができるようになる。大きな会社にお願いして、全然その仕事をやってなかったチームをアサインされたりするような悲劇は、Ideaとクリエイティブディレクターを見てそれベースで発注することで結構減らすことができるんじゃないかと考えています。

というわけで、僕らはこのIdea明記運動を草の根で地道に続けていこうと思っています。業界のスタンダードになるかどうかはわかりませんが、もし賛同してくれるチームや会社がいましたら、是非はじめてみて欲しいなと思います。

追記:
と書きつつ、同時に覚えておかないといけないのは、僕らのやっているモノづくりは個人プレーではなく、必ずチームプレーによって実現しているということ。強いコンセプト・アイデアは大切だが、それ以外のストーリーテリングやデザインといったクラフト力や、コーディング・エンジニアリングといった実装力、プロデュースやプロジェクトマネジメントといった実現力を忘れてはいけない。だから「アイデアを考えた」という価値を日陰から日向へ引っ張り出すとともに、それがより広くクリエイティブプロセスを照らし、どういう人とどうやって作ればより良いものが作れるのかを見える化してくれるようになると嬉しいな。

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