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SXSWで未来の食について考えてきた話

はじめに

この記事を読んでいるみなさん、こんにちは🌞

3月10日から18日まで Mercari Bold Scholarship というインターンシップで、テキサス州オースティンで開催されていたSXSWに視察に行ってきました。

SXSWでは様々なスタートアップ企業がゲリラ的なキャンペーンを行ったり、最先端のテクノロジーを体験できるブースが街中にあったり、大企業・活動家らなどが未来のあり方について語り合ったりするのですが、自分は【食】というキーワードを中心にSXSWを回っていました。そこで、この記事ではSXSWを食の観点から見て体験して、自分なりに咀嚼した『未来の食』についてまとめようと思います。

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Refresh: Food & Tech at SXSW

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SXSW2019においてもっとも食に関して展示し議論されていた人気のブースは、GoogleFiberSpaceで開催されていた「Refresh: Food & Tech at SXSW」でした。これは3月12日のみ開催していた特別イベントになっており、当日は食関係のスタートアップ企業だけでなく、ジャーナリストやシェフなどが登壇実演し、終始長蛇の列をなしている人気ブースでした。

また、イベント内で最も注目を集めていたのはヴィーガンフードの展示でした。ヴィーガン(Vegan)は最近注目されている単語ですが、ベジタリアンとは異なり動物由来の食品や道具も使用しない"絶対菜食主義"の人たちのことを言います。この考えの根底には動物愛護主義があるため、健康志向が発端になっているベジタリアンとは区別されています。

Veganism is a way of living which seeks to exclude, as far as is possible and practicable, all forms of exploitation of, and cruelty to, animals for food, clothing or any other purpose.

自分はベジタリアンでもヴィーガンでもありませんが、健康上の理由からたまにヴィーガン生活を行う"ファッションヴィーガン"の友人が身の回りにいたため、そのような人達が普段どんなものを食べているのか気になっていました。今回はちょうどそのヴィーガンフードをシェフが料理し試食できる機会があったため、体験してみました!

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シェフが目の前で調理してくれるのでワクワク感が高まります

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見た目も華やかでインスタ映えしそう

\パクっ/

な、な、な、なんだこれ、、、、、、、、

めっちゃ美味しいやんけ、、、、、、、、、

ニンニクとお塩で味付けした大豆とオリーブとトマトなどの野菜だけ、、、

これにパリパリの乾燥ケールが乗っただけのシンプル野菜炒めなのにめっちゃ美味しい、、、、、

やばい、、、、美味しい、、、、、、、、、、(大事なことなので2回目)

今まで「ベジタリアン・ヴィーガンの人=美味しいものを我慢して生きている」という偏見を持ち続けていたことを謝罪させていただきたいです。本当に申し訳ありませんでした(土下座)

正直に言うと、ブイヨンも使えなければお肉も使えないヴィーガン生活は桜が咲かない春のように寂しい生活なのだと勝手に想像していました。ベジタリアン・ヴィーガンの方達はそれでも健康のために我慢して生活しているのだと思っていました。しかし、そうではなかったのです。僕が間違っていました。実際に試食した「ヴィーガン野菜炒め」が美味しすぎて、肉食主義の自分でも「このレベルのものが毎日食べられるなら(ファッション)ヴィーガンになっても良い」と思いました。一緒にこのイベントに参加したMercari Bold Scholarshipの仲間も、周りにいた現地の参加者も美味しいと言っていたのでこれは本物だと確信しました。

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シェフの実演以外にも、様々なスタートアップ企業がヴィーガンやベジタリアンの料理にフォーカスした食品を展示していました。 Jugoというカナダ発の企業は野菜や果物をその場でミキサーにかけた100%野菜スムージーを試飲していたのですが、苦味を感じず甘くてごくごく飲める美味しさでした。実際にカナダを中心に店舗が存在しているようです。また、写真2枚目以降は"飲むカレー"として、キャベツ・人参・グリーンオニオン・リンゴなどをミックスした飲み物や、フリーズドライにした"おつまみカレー"などありました。これらはお酢を使わずに酸味を出しているのですが、塩を揉みこむ(キムチと同じ手法)ザワークラフトの作り方を応用しているらしいです。ベジタリアン・ヴィーガンフードに関しては、食べ物が全体的に美味しく日常的に消費することになんら抵抗がないレベルまで一般化してきているのだと感じました。

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ヴィーガン・ベジタリアンフード以外にも人が溢れている人気のブースがありました。それが昆虫食のブースです。

昆虫食は、人口増大などによる世界的な食糧危機を救う手段として注目されており、米国食産業の急成長分野としてマーケットリサーチャーのなかには2023年までに市場規模が1.26億ドル(約139億円)になると予想する人もいる今注目の分野です。実際にコペンハーゲンの「Noma」などのレストランでも提供されるなど、一部のアーリーアダプターから注目を集めています。日本でも一部地域ではイナゴや蜂の子などを食す文化もあります。

そんな今話題の昆虫食がSXSWでどのような扱いをされているのか気になったので実際にブースにお邪魔してみました。

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乾燥コオロギと自家製ケールと蜂の子バターで作ったリゾット(?)

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蜂の子はプチっとした食感以外は無味でした

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手軽にプロテインを摂取できるコオロギプロテインバー

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コオロギの粉をまぶしたチョコレート、ほろ苦くて美味しい

これらは全て昆虫が入った食品です。チョコレートは一見美味しそうに見えても20%がコオロギを乾燥させて粉状にしたものらしいです。日本ではみた事のない多くの昆虫食品を目の当たりにして、これから成長する分野であると言われているだけの勢いを感じました。

しかし、正直に言うとチョコレート以外はどれも「美味しい」と言えるレベルのものではなく、やはり見た目と土臭さが美味しさを阻害しているように思えました。また、ブースに設置したゴミ箱には食べきれなかったと思われる食べ残しが捨てられていました...

目の前で躊躇していた人に聞くと「美味しいかはわからないけど、あの見た目はやっぱり食べる気にはならないよね😭」と仰っていました。チョコレートはその点、最初の「食べてみよう」という気持ちを想起することができているのが良い点だなと思いました。展示していた方も、「アメリカにおいて昆虫食はローカロリー高タンパクな点が評価されているけど、実際に日常的に食しているのは極少数派なんだよね」と仰っていました。実際に展示していた企業がとったアンケートの結果からも、約半数の人は「挑戦してみよう精神」で昆虫食にチャレンジしたことが伺えます。(N=5ですが...)

いずれにせよ昆虫食を日常的に消費する未来はまだ遠いのかなと感じました。

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ヴィーガンや昆虫食の他に展示されていて気になったものは野菜自家栽培キットのスタートアップ「Lettuce Growです。外食にいったりスーパーで買ってきた野菜で料理をするのではなくて、自分が愛情を込めた野菜で食事をすることで食事を好きになろうというコンセプトらしいです。

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創業者のお二人は、家族を持つと同時に食品に関して注意を向けるようになり、添加物や有害な農薬について考える機会があり、それならばいっそ自分達でつくろうという話になったそうです。自分達で野菜を育てることで既存のフードシステムを変えようという目標もあるようです。先ほど紹介したブースでは「誰かが用意したものを食べる」という体験だったのに対して「自分でつくる」という体験になっていることは新しい選択肢と思いました。実際に日本でも田んぼや畑を借りて自家栽培を始められるサービスもありますが、狭い家でも気軽に始められるようにキットになっており、家族が満足できるような量を確保できるスタイルは実際に導入する際には魅力的です。

サステイナブルなフードシステムを構築する手段としての自家栽培と、野菜を自分でつくるという体験を通じて野菜の消費量や価値観を高めるという2つの要素が相乗効果を生んでいる良い例だと思いました。

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Trade Show

GoogleのRefresh: Food & Tech at SXSW以外にも、食に関する展示を行っているブースがありました。それが、TradeShowというメイン会場で行われている展示会です。250以上ものブースがあり、全て丁寧に回っていたら1日じゃ足りないくらいの広さでした...

この一つ屋根の下で多くの企業や国が自分達のプロダクトやサービスを見てくれ覚えてくれと言わんばかりにグッズを大量に無料頒布している中で、デモだけで注目を集めていた飲食関係のブースが二つありました。

一つ目に最も多くの国外の方が集まっていて人気だった飲食関係のブースはOPENMEALSの「SUSHI SINGULARITY」です。

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こちらは食のデータ化を前提として、米粉ゲルを3Dプリンタで出力することで個人の要望に応じたパーソナライズ寿司を生成することができます。昨年のSXSWでも「SUSHI TELEPORTATION」として出展し注目を浴びていましたが、寿司を再現するという目的から新しい進化系寿司を創造するという方針に変換していたことが大きな変更点だと思います。食品に関するデータを蓄積することができたとしても、それを再現するには人間の感性や複雑性を有する素材に対して多方面からアプローチする必要があるので妥当な変更かなと思いました。いずれも食す事は出来なかったので、結局味がどうなんだろうか、美味しいのだろうかという点は気になりますが、各国のスタートアップがサステイナブルなフードシステムや健康志向に目を向けている中で食の新たな可能性を模索していた事は注目するべきポイントだと思います。

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二つ目は、TODAI TO TEXASのプロジェクトの一つとして展示されていた自動朝食システムを搭載した朝食ロボット「Loraine(ロレイン)です。レールの上に乗ったロボットアームがプレートの上を忙しそうに駆け回り、最終的には美味しい朝ごはんができた匂いで目覚めることができるという絵に描いたような夢を実現してしまうロボットです。会場内では実際に調理を行っていたため、いい匂いで参加者を誘惑していたのが印象的です(笑)

このロボットは「起きたら朝ごはんを作ってくれる母親のような暖かさのあるロボット」を目指しているらしいので、全自動の中にどれだけ暖かさを感じることができる要素を取り入れられるのかが今後のポイントになってきそうです。自分の体調に合わせてちょっとメニューを変更してくれたり、自分の好みの加減に料理してくれるようになったり、母親の顔がタブレットで表示されていたら面白いなと思いました。

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街中/企業ブースで見かけた次世代自販機

このSXSWにあわせて、街中や空港などで日本では見かけないような自販機をいくつか見かけたのでピックアップして紹介します。いずれも自分好みにカスタマイズできるのが共通点としてあげられます。ロボットコーヒー自販機ではショットの数や砂糖の量、Beviの炭酸水自販機ではフレーバーの種類、フローズンヨーグルト自販機ではトッピングの種類をカスタマイズすることができました。自分好みにカスタマイズされた自己優先化効果が合間ってより美味しく感じ、リッチな食体験をした気分になりました。

オースティンの空港やSXSWの会場内にあったコーヒー自販機

自分の好みにフレーバーをミックスできる炭酸水自販機

NASA Houston Space Center にあったフローズンヨーグルトの自販機はトッピングも可愛いく、子供に大人気でした。

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地元スーパーマーケット(Whole Foods Market)

期間中宿泊していた場所から最も近いスーパーマーケットで現地の食生活や日本とは異なる点について調査しました。この Whole Foods Market は全米の中でも比較的高級路線で有名なチェーン店で、なんとここオースティンにあるこの店舗が本店なんだとか。最近ではAmazonに137億ドルという驚くべき価格で買収されたことでもニュースになりました。実際に店舗内ではamazon-prime会員限定のセールなどを行っていました。

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地産地消を推進する大きな野菜売り場

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最近注目の植物性肉食品専門のコーナー(meat alternative)

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ヴィーガンフードも充実した品揃えで、お菓子などの対応食品もありました

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日本人の心、味噌汁もヴィーガン対応食品のようです

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マカロンの量り売り

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店舗内の商品が楽しめるレストランやコーヒーショップなどが内部に併設されており、地元の人で賑わっていました。

日本のスーパーマーケットとは異なり店舗のスケールが大きいため、商品数や店舗内併設施設の有無などに違いは見られましたが、それを差し置いても食品の多様性という面においてはかなり進んでいると感じました。ヴィーガンの方も、ベジタリアンの方も、家で食事をしたい人も、外食したい人も、試食してから買いたい人も多くの要求に答えるだけの十分な選択肢の提示がされていることに"食の多様性"に対する一つの解を垣間見ました。また、実際に完全植物由来の肉「Beyond the meat」を購入し試食してみましたが、もはやお肉以外の何物でもなく、このレベルの代替食品が一般的なスーパーで購入できることに驚きを隠せませんでした...これが日本でも販売することになればすごい反響だろうなと思いました。(後日詳細レポートをまとめる予定です)


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SXSWでみた"未来の食"まとめ

オースティンで開かれたSXSWの展示や現地の文化に触れることで"未来の食"に関して考える上でいくつかのキーワードが見えてきました。

✔︎ ベジタリアン・ヴィーガンフード
✔︎ 昆虫食
✔︎ 野菜の自家栽培
✔︎ 自動化
✔︎ 新たな食の表現
✔︎ 代替食品
✔︎ カスタマイズ性

"未来の食"と聞くと、デジタル化が進みドラえもんのひみつ道具のようにデータ化した食べ物を取り出すことができるようになるSF風の未来予想が出てくることもありますが、もっと現実に根を下ろした5~10年先の食について考える機会が今回のSXSWには多かったように感じます。

まず直近の問題として、現在生産されている食料の3分の1が様々な理由から失われている一方で、世界で栄養不足に直面している人々は約10億人おり、今後ますます増加する人口を養うための食料増産が必要になった時に我々は何をすることができるのでしょうか。肉や小麦を生産するために消費する莫大なエネルギーをどのように抑えるか。そもそもこのままのフードシステムでは、この先に数年後に自分達が食べたいものを食べられる環境になっているかわからない状況です。そういった問題から目を背けずに問題解決に取り組み、多方面からアプローチし、サステイナブルなフードシステムを構築していくことが必要であると考えました。そこにどのようにテクノロジーが関わっていけば良いのか社会実験を繰り返して考える必要がありそうです。

また、そう言った社会を創り出すためにはそのソリューションから得られた食品が「美味しい」と人々思わせるものでなければいけないと感じました。食べ物であるがゆえに、選択肢が多くあるこの現代社会の中において、「美味しい」という最低限のハードルを超えないと、それこそサステイナブルに消費されサイクルが回ることはないのです。

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日本における課題としては、来たるべく訪日観光客の食の多様性に応えることができるように、ベジタリアン・ヴィーガンフードや代替食品などの消費者の選択肢を増やすことが最も早急に取り組むべき課題だなと感じました。

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最後に

今回のMercari Bold Scholarshipで行かせて頂いたSXSW2019で、日本でのんびり暮らしているだけでは気づくことができない、多くの視点からインプットを得ることができました。今度はこのインプットをどう自分なりに解釈してアウトプットするかが大切になってきます。今後もインプット・アウトプット・思考を止めず活動していきたいと思います。


最後まで記事を読んでくださりありがとうございました!

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