詩/おとぎばなし

母胎のような気候
何もない昼下がり
誰もいない昼下がり
がらあんとした芝生
見渡すかぎりの芝生
柔らかいシートを敷いて
少し甘めのカフェ・オレ
スマホの電池は満タン
そうだな
だれもいないから
音量も音域も気にせず
きょうだけは
いろいろ歌うのです
潮のかおりもする
いい感じだ
いい感じだ
いつの間に
居眠りしていると
アリスが肩をすぼめて
隣に腰かけていた
ねえ
追われてるの
悪い悪いヤツらに
大丈夫
このシートはね
結界になってんだ
いいからここにいな
やがてアリスは
ぼくのカフェ・オレを
がぶがぶ飲みだした
君にね
会いに来たんだ
一緒に歌おうよ

Brimful of asha on the 45
45って数
なんだか
ツイてる気がする
レコードは
100年もかけて
だんだんと
回転数を減らして
もういまは
回るのをやめたんだ
そういうの
流行らないんだろうね
おじいさんの時計みたいに

アリスは言った
レコードって、なあに?
ぼくは言った
レコードって、なんだろうね?
ふたり笑った
はじめて笑った
Everybody needs a bosom for a pillow
だれでもそうだ
枕にしがみつくんだ
だれでも
コーナーショップは正しい
インド哲学は穿ってくる
よく分からないわ
アリスはあくびをした
よく分からないね
ぼくは
カフェ・オレを手に取ると
もう空っぽだった
アリスが笑った
Off with the head
ぼくはさけんだ
ふたり笑った
困ってることが、あるの
アリスはささやく
困ってることが、あるんだ
ぼくもささやく
カフェ・オレの
空っぽのボトルに
ふたりの困ってることを
残らず閉じこめた
そろそろ、帰らなきゃ
ぼくも、帰ろうかな
いつでも、呼んでね
ありがとう
どこにでも、いるから
それは、うれしいことだ
Everybody needs a bosom for a pillow
目が覚めると
顔が涙でぬれていた
もう肌寒くて
ぼくはくしゃみをして
空のペットを投げ捨てた

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