欧米型を鵜呑みにして失敗していることにまだ気付かないのか

私たち日本人は概念化が苦手です。欧米では、概念化力は「コンセプチュアルスキル」としてずいぶん前から認知されていましたが、日本ではいまだに浸透していません。

そんな中で、日本企業は欧米企業の「ものまね」を繰り返してきました。欧米人が自分たちの事情に合わせて作り上げてきた戦略や方法論といった概念を、価値観もモチベーションも違う日本企業が鵜呑みにしてきたわけです。
これは、目標設定や戦略作成の様子によく表れています。どのような状況を目指せばいいか、どんな戦略が存在するのか皆目見当がつかないとき、日本企業の幹部は、欧米のベストプラクティス(=最も成功しているやり方)を意思決定の拠り所としてきました。
技術やエンジニアリング手法を真似ていた昭和の高度成長期ならいざ知らず、今、私たちが真似しているのは欧米型のマネジメント手法です。マネジメントは人との関わり合いが強いだけに、技術やエンジニアリング手法とは訳が違います。
コンサルティングの現場で私の目の前に広がっていたのは、惨憺たる結果でした。

ベストプラクティスを参考情報として受け止めるのは悪いことではありませんが、鵜呑みにするのは、どう考えてもいただけません。なぜなら、ベストプラクティスは海面上に現れた氷山の一角に他ならないからです。
おしゃれな日本人が英国貴族の装いを真似ることはありますが、セビルロー仕立てのスーツを着て満員電車の人ごみに揺られている様子はサマになりません。鏡の中ではそれなりに見えても、生活環境が違い過ぎます。ベストプラクティスを真似る日本企業はこれと同じです。
         
ベストプラクティスとして表現されているのは「プラクティス」、つまり実践そのものです。目に見えるものがすべてです。表に現れない価値観やモチベーション、行動規範のようなものは含まれません。欧米のベストプラクティスゆえに日本企業の強みである「現場力」「すり合わせ」「阿吽の呼吸」「助け合い」「品質へのこだわり」なども考慮されていません。

失敗例には事欠きません。

欧米型の強力なガバナンスを標榜したある日本企業は、厳格かつ詳細にビジネスマネジメント方法論を作成し、PMO(プログラムマネジメントオフィス)を設置しました。この方法論にはマネジメントプロセスや会議体が極めて詳細に記述されており、膨大な数のKPI(主要業績評価指標)が組織階層との関連付けで階層的に定義されていました。しかも、現場のひとりひとりはこのKPIで雁字搦め(がんじがらめ)の状態でした。
私は外資系企業に在籍経験がありますが、まさにそれと同じでした。
ところが実際には、PMOは期待していたようなガバナンスを発揮できなかったばかりか、集まってくる実績情報はいい加減なものでした。管理体制を強化し運用を厳格化すればするほど現場の不満は増大し、活動は硬直化し、効率は低下しました。混乱は収まることはなく、壁に掲げられていた「ひとりひとりが責任を果たすことで頑健な事業運営を実現する」というキャッチフレーズはいつの間にか姿を消しました。

ある日本企業は、営業効率向上に向けて欧米企業のベストプラクティスを真似し、顧客接点を形成する営業マンや営業技術のメンバーを3年ごとに入れ替えることにしました。このベストプラクティスを理論的に支えていたのは営業マンに対するパフォーマンス分析で、営業マンの成績は3年目にピークを迎えるという結果が出ていました。しかしこれは、あくまで欧米地域でのものでした。
この企業では、お客様との信頼関係が損なわれた結果、長年続いていた取引を競合他社に奪われてしまいました。お客様の期待は、模範にした欧米企業のそれとは違っていたわけです。

欧米のベストプラクティスを学ぶことは大切ですが、そこには日本的な味付けが欠かせません。概念を概念として理解するのではなく、現場(= 具体的領域)とつなぎ込んで腹落ちしなければなりません。欧米の概念をアレンジし、日本の概念になるまで熟成させてこそ、世界に誇れる日本企業になれるのではないでしょうか。

★★★ 概念化.com を立ち上げました ★★★
https://www.gainenka.com/
★★★  ぜひ、お立ち寄りください  ★★★



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?