競争優位性を考える(2) 競争優位性を構造化する

前回に引き続き、今回も競争優位性について考えましょう。

復習になりますが、ビジネスの世界において、「他社が簡単に真似できない方法や戦略を実行する能力(=差別化要因)」は成功の必要条件ですが、必要十分条件ではありません。必要十分条件となるには「その違いがお客様にとって、他には代えがたい価値(=KBF)を持っていること」が大切です。

ビジネス成功の必要条件 =「差別化要因」が存在する
ビジネス成功の必要十分条件 = 「差別化要因」が「KBF」と結びついている

ところが多くの場合、KBFについて考え始めると議論はなかなか進みません。メンバーそれぞれに、お客様にとってのKBFとしてとらえているものが異なるからです。
そのようなときには、いきなりKBFに飛ばず、まずは差別化要因について議論しましょう。
質問はシンプルです。

「皆さんが提供する価値は、他社が提供する価値とどこがどのように違うのですか?」

このようなシンプルな質問を投げかけることで、差別化要因を、様々な角度から洗い出すことができます。難しい質問からは兎角、視野の狭い回答しか得られません。逆にシンプルな質問からは視野の広い回答が返ってくるものです。

通常のやり方では、次のステップとして、洗い出された差別化要因の中から「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」を拾い出す作業に移るのですが、私ならひと工夫します。
こんな質問をするのです。

「これらの差別化要因の中で、明らかに競争優位性を担う決定打はありますか?」

すると、多くの場合、「そんなものがあれば、苦労しませんよ」といった回答が返ってきます。
しかし、それは提供側の目線からの話であって、顧客の目線で考えた結果ではありません。目線を変えてみると、それまでは気にしていなかったものが急に輝きを放つことがよくあります。商品を選ぶ決め手は、提供側ではなく、顧客が決めることです。
最終的には、顧客の目に輝いて映るシナリオを作り上げればいいわけです。

この質問は、これから始まる作業、すなわち「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」を拾い出す作業の重要性を際立たせます。

「そんなものがあれば、苦労しませんよ」、そう答えたメンバーたちに顧客目線で考えることの大切さを説明し、しっかりと腹落ちさせることができたら、すかさず「決め手」の拾い出し作業に入ります。

とはいえ、この拾い出し作業は簡単ではありません。なぜなら、提供側は、顧客が真に求めている価値を見落としていることが多いからです。
それも無理ありません。ものが溢れかえり、使いこなせないほどの機能が手に入る現代においては、お客様自身、自分が求めているものが何かを見失っているものです。
ゆえにこの作業は、一歩ずつ、順々にゴールを目指さなければなりません。

最初の質問は、お客様の「片づけたい用事」に関するものです。

「お客様は、どういう目的で購入されるのですか?」
「お客様は、どうやって使っておられるのですか?」
「そのとき、お客様が不自由に感じることはないでしょうか?」
「お客様が『よかった』『助かった』と感じるのは、どんな瞬間でしょうか?」

このような質問を通じて、うまくいけば、メンバーはお客様の活用シーンを追体験し、お客様と目線を共有することができます。
根気よく続けるしかありません。
次の質問は、優先順位付けに関するものです。

「お客様が本当にうれしいのは、どんな瞬間でしょうか?」
「お客様は、何に対してならもっとお金を払ってもいいと思うでしょうか?」
「お客様は手に入れたいのに、手に入れるのにとても苦労するのはどれですか?」

これらの質問に答えるうちに、お客様の優先順位が浮かび上がってきます。
そして最後に繰り出される次の質問は「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」に直結します。

「皆さんはこれを提供できるでしょうか? どうやって提供すればいいですか?」
「皆さんの中に、これを解決するためのヒントや足がかりはないですか? 自分目線ゆえに何か見逃してはいませんか?」
「他社は苦労するのに皆さんならもっと簡単に提供できる、その根拠はなんでしょうか?」
「それを他社が真似しようとすると、どれほどの期間、どれほどの投資が必要ですか?」

どうです?
「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」に近づくイメージをもっていただけたでしょうか?

ひとつ例を挙げます。

ある音響機器メーカーは音声圧縮技術に着目していました。しかし圧縮された楽曲は、彼らが追い求めている「美しい音質」からは程遠いものでした。
結局、この技術を商品化することはありませんでした。
ところが、あるコンピューターメーカーは「我が社のスマート端末にこの技術を採用すれば、電車での移動中や屋外で退屈な時間を過ごす多くの人たちは、いつでもどこでも、気軽に好きな音楽を楽しめるようになるぞ」と考えました。彼らは常日ごろから顧客の行動を観察し、顧客の目線で「今、何が不満なのか」「何があればもっと豊かに暮らせるのか」をモデル化していたのです。
彼らはこのシナリオを実行に移し、魅力的なウェブサイトを無料で提供することで、シナリオにさらに磨きをかけました。

ご存知、iPod誕生の話です。

「競争優位性を見つける」という発想から「いまある差別化要因を、顧客目線から輝かせる」という発想に切り替えるだけで、競争優位性の議論には新たな発想が生まれるはずです。

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