既存事業の足かせを振り払って新たな事業を立ち上げるためには、相応の工夫が必要だ

私は「概念化」をスキルの旗頭に据えていることもあってか、最近は新事業の立ち上げをお手伝いする機会が増えています。
以前に、ビジネス インキュベーション(インキュベーションとは「卵の孵化(ふか)」の意味)が話題となりましたが、私がお手伝いしているのは、歴史のある企業がこれまでの事業の派生や経営資源(資金、人材、技術やノウハウなど)の有効活用を目的に新事業を立ち上げるというものです。
この類の特徴は、ベンチャー企業の立ち上げとは違い、これまでの長い歴史の中で既に「さまざまなもの」ができあがってしまっているという点にあります。企業の文化や価値観、経営の仕組み、人的リソースなどがそれで、助かることもありますが、大きな足かせとなることも間々あります。

足かせの代表例としては「収益性の判断と投資の仕組み」が挙げられます。
大企業では、独り立ちした事業には収益性の目標が設定されています。例えば、売上金額○○億円以上とか、営業利益率△△パーセント以上とかいった具合です。これから立ち上げようとする事業に独り立ちした事業と同じことを期待するのは酷なことくらい、経営陣とてご存知のはずです。ところが本業(=既存事業)の業績が思わしくなくなると、立ち上げ過程にある新事業に対しても無理難題を言い始めます。すぐにそれとわかる理不尽な要求はされないまでも、投資は削減され、計画通りの実行がままならなくなることはよくあります。

このような状況下であっても、新事業の立ち上げを任されたチームは苦境を乗り越えなければなりません。そこで大切なのが「ステップ・バイ・ステップ」と「ポジティブループ」です。

まずは、ステップ・バイ・ステップから。

ロケットスタートやV字回復という言葉をよく耳にしますが、新事業の立ち上げは、よほど環境に恵まれない限り、そう簡単にはいきません。ビジネス環境の調査や立ち上げ方針の決定、事業戦略の作成には、思っている以上に時間がかかるものです。大企業の中にあって、引きずるものが多い場合はなおさらです。
ところが、新事業の立ち上げに不慣れな経営幹部には、それが冗長に映るのでしょう。立ち上げチームにさまざまなプレッシャーをかけ始めます。チームは、不満を口にしようものなら「現実を分かっていない」と一喝されかねない状況に追い込まれてしまいます。

そんなときは、小さな投資で少しずつ成果を上げながら進むというやり方(=ステップ・バイ・ステップ)が効果的です。
自分たちが掲げている仮説や理論の正しさを証明するために、まずは、資産を効果的に活用できて即効性も期待できる領域にターゲットを絞ります。
逆に、根拠の薄い将来の話を熱心にしたところで、弱みを突かれて終わるだけです。どんなに素晴らしい将来像を語ろうと、目の前の現実に押しつぶされそうな経営陣にとっては、それは単なる夢物語に過ぎません。現在を起点に説得力のあるストーリーを展開することが大切です。

巷では、数年前から「リーンスタートアップ」という手法が注目を集めています。
はじめから万全に構えるのではなく、確認しておきたい大切なポイントを見極めた上で、顧客の体験に基づく評価や問題点の指摘を最低限の準備だけで獲得しようというものです。何に対しても万全に備えなければ気が済まない日本人にとって、これは高いハードルです。しかし、チャレンジする日本企業は増えています。

次は「ポジティブループ」です。
これは金融投資マネジメントの手法のひとつらしいのですが、私は事業投資の分野でこの手法を活用しています。

投資には、一度限りのものと、次につながり継続的に価値を生み出すものとがあります。例えば、人材不足を補うための外部調達は一度限りのものですが、人材育成に力を入れるなら、教育に費やす投資は人材に引き継がれ、その人材が継続的に新たな価値を生み出す可能性が生まれます。この場合、教育費がポジティブループの起点となるわけです。同じように、事業のシナジー効果(相乗効果)を期待した投資にはポジティブループが存在します。
ポジティブループをうまく表現できさえすれば、経営幹部への説得力は増し、彼らからのプレッシャーを軽減できるに違いありません。

皆さんも、いつ何時、新事業の立ち上げを任されないとも限りません。その場合は、自分たちが何を期待されているのか、どの程度の猶予が許されているのかを確認した上で、計画立案に着手してください。
自分たちが厳しい状況に置かれていることが分かったら「ステップ・バイ・ステップ」と「ポジティブループ」を思い出してください。これらを活かしてうまくコミュニケーションすることができれば、きっと潮目が変わるはずです。

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