モチベーションを考慮すれば目標管理に工夫が生まれる

前回、欧米企業と日本企業では目標設定の方法が異なることをお話しました。そこで今回は、目標管理の違いについて話をしましょう。

欧米企業では、通常、以下のような流れで目標を管理し、人を評価します。

・事業戦略の遂行を前提に、人的リソースを複数の機能グループに分類する
・それぞれの機能グループに対して業績目標を設定する
・それぞれの機能グループに対して重要評価指標(KPI)を設定する
・実行フェーズでは、業績目標と重要評価指標の進捗状況を管理する
・最終的には、業績目標と重要評価指標の達成状況で個人評価し、インセンティブを決定する

欧米型の目標管理の基本的な考え方は「同じ条件の下で、機能グループのメンバー全員を横並びに管理する」です。管理の単位はあくまで個人ですが、計画の単位は「機能グループ」です。ゆえに、そこには「一人ひとりの個性」は存在しません。同じ機能グループに所属する人には、能力の違いに関係なく、同じ目標が設定され、結果が管理され、評価されます。

外資系企業で営業チームに所属していた私には、営業支援のスペシャリストとして2項目の業績目標と10項目以上の重要評価指標が与えられていましたが、同じ目標を設定されたスペシャリスト100名ほどと同じ器の中で管理されていました。
私には、せっかくなのだから自分の得意分野を活かして、スペシャリストの枠を越えてチームに貢献したいという思いがありました。しかし、そんなことをしたところで自分には何のプラスもありません。

これは、個人を重視し「一人ひとりの個性」に着目することの多い日本企業とは明らかに違います。そのため、日本企業ではよく見かける以下のような会話も、この外資系企業ではまず見かけませんでした。

「○○君は営業ですが、技術部門出身なので、お客様に対して説得力のある説明ができます。私たち営業チームとしては、彼のもつ強みを有効活用しない手はありません」

欧米企業では、営業という機能グループの一員である限り、個人の売上でしか評価されません。私のようにコンサルティング向きのメンバーが営業にいたとしても、「課題分析フェーズに参加して結果を残すことで、最終的に、営業チームの目標達成に貢献する」という役割が与えられることはないのです。たとえチームに貢献したところで何の評価にもつながりませんし、能力に応じて特別扱いされるようなこともないのです。

組織の方針が「現場は与えられた役割を完遂すればいい」なので、現場の一人ひとりが組織やチームのことを考えて行動することを、組織は期待していません。組織全体のことを考えて、戦略を作成し、目標設定に落とし込むのは、経営陣やそれを支援する戦略チームの仕事です。現場は、これらの目標を達成すればいいだけです。

このように現場の没個性を前提とする欧米企業に対し、日本企業は強みである現場力を活かすことを優先します。個性をうまく活用し互いの能力を補い合うことでチームの成果を高めようとします。もし、日本企業が欧米型の目標設定を取り入れれば、このような日本企業の良さは削がれることになるでしょう。

ところが残念なことに、最近は、自分たちの特性を無視して欧米型の目標管理をかたちだけ真似する日本企業が増えています。しかし、評価における重要評価指標の位置付けが曖昧かつ中途半端なのも手伝って、期待したほどの効果は出ていません。
そもそも、重要評価指標と戦略との関係性が曖昧なので、それも仕方ないことです。

では、日本企業はこの先、どうすればいいのでしょう。
少なくとも、個人に対する業績目標や現場の自由を奪う過度な重要評価指標は慎むべきです。例えば、業績目標は個人に対してではなく、機能グループやチームに対して管理するのです。そして重要評価指標は行動規範に関わるものに限定しましょう。
日本企業と欧米企業では、そもそも働く人の価値観やモチベーションがまったく異なります。日本人の価値観やモチベーションを前提に、チームの結束を高め、モチベーションを高める方法を考えるべきなのです。

このとき、注目すべきは「目標」ではなく「目的」です。目的を組織全員で共有すれば、現場は自律的に判断し、行動します。これが日本企業の強みです。

ただし、勘違いしないでください。
現場力を経営に活かすことと、すべてを現場に委ねることは、根本的に違います。野放しにすることなく、ガバナンスの下で良さを伸ばすことが重要なのです。
古いルールや価値観にしがみついている日本企業の多くは、ここを勘違いしています。

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