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長いワクチン待ちの行列はどのように消化されていくのかについて

注:この記事は2021年4月21日に書いたものです。ご留意の上お読みください。

前回の記事では、現在の接種速度がかなりの低速であることを公表されている数字から示した。この記事では、今後この速度がどのように変化するのか(しないのか)について公開されているデータをもとに書いてみたい。

前回の記事では、「3月29日の週までに供給された量が2,458,950回分なのに対して、4月13日までの累積接種回数が1,743,439回であるから、71%しか消化できていない、つまり『余り』が出ているのだから供給の問題よりも接種を実施するリソース(体制)の問題なのではないか」と書いた。供給があっても接種を実施する医師や会場の不足等のなんらかの理由で、速度が頭打ちになっているのではないかという見立てだ。これを、先週末(4月18日)までの接種実績データで検証してみる。

データから見る供給量増加と接種回数の関係

供給量は前回も引用した官邸の「ワクチンの配送スケジュール」を元にし計算する。注射針の仕様が変わることによる供給量の変化も加味している(詳細は末尾)。接種実績は官邸のサイトで公表されるものをダウンロードして使用する。

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先週までの供給量と接種回数を週単位でまとめてグラフにしてみた。

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このグラフから、接種回数の動きは前週の供給回数の増減に連動していることがうかがえる。接種回数が供給回数を下回り計算上の「余り」が出るのは、おそらく現場に供給される量がわかった時点でそれに見合う接種体制を整えたり、ある程度の余剰を持っておかないとスムーズな予約管理が行えないなどの理由があるのだろう。供給量が安定しない今ならなおさら「余る」ことはやむを得ないのだろうが実情はわからない。しかしいずれにせよ、供給を増やしてもスピードが上がらない「接種速度の頭打ち」になっていることは否定できると言えるだろう。

今後、接種速度はどう変化するのか

では、供給が増えると接種のスピードはどのように変化していくのか。先ほどのグラフで、接種回数とその前の週の供給数を比べると、3月22日の週から4月12日の週までの累積接種回数は、前週の累積供給量の平均しておよそ7割ぐらいをキープして変化しているように見える。

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この調子でどこまで供給に連動して接種回数が伸びるか不明だが、仮に「累積接種回数=前の週の累積供給量の7割」というルールを、既に発表されている5月10日の週までの配送スケジュールに当てはめてみる。すると、次のようになる。

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5月に入ると供給量が跳ね上がるので「7割ルール」でついて行くのは厳しいかもしれない。GWもフル無視である。しかし河野氏も5月に加速する見通しを示している通りであるから、関係各所でしっかりと準備体制が取られ「7割ルール」が持続すると期待したい。

そうすると5月10日の週には、371万回の接種がおこなわれ、累積で961万回の接種が完了することになる。前回の記事で示した「医療従事者480万人に対する2回接種=960万回」をこの辺りで達成するかもしれない。

接種のスピードはというと、371万回/週であるから、平均53万回/日となる。人口100万人あたりで見ると、およそ4200回/日となる。

各国と比較して見ると

この「人口100万人あたり4200回/日」というスピードが現実的に見て可能なのだろうか。実際に現場で起こることはわからないが、前回の記事でも示した世界各国(4月13日時点)の同様の数値と比較してみる。

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そうすると、ハンガリー、アメリカ、欧州各国には届かないがアジアの中では早いレベルといったところだろうか。繰り返すが、医療状況、供給ペース、接種体制、法整備などの差があり日本で現実に可能な速度なのかはわからない。しかし、あくまで数値だけを国際的な水準から見ると突出して不自然な値でもないという範囲では現実的と言えるのではないだろうか。

このペースが続いた場合、一般市民の接種時期は?

5月の後半以降については、現時点ではスケジュールが官邸のサイトでは公表されておらずデータを基準に考える材料が見つからない。しかし、首相が言うとおり「全対象者に必要な数量 9月中に供給可能の見通し」であるとすれば、全対象者すなわち16才以上の全人口に必要な数量=218,812,000回分という膨大な量が9月までに供給されることになる。こうなると接種速度は「7割ルール」とは切り離され、完全にオペレーションの効率次第ということになるのではないだろうか。

オペレーションの上限がどこにあるのかはわからないが、仮に先ほどの接種のスピード(=53万回/日)のままでそれ以上加速しないと仮定すると、5月の中旬時点で優先接種対象者(医療従事者と高齢者)の接種完了に必要な残りの接種回数=7199万回を消化するのに、そこから136日かかる。つまり2021年9月末あたりだ。しかし、高齢者の接種が終わった自治体から順次一般市民の接種もスタートを切るということだから、この辺りではすでに多くの市民の接種が始まっていると見ていいのではないだろうか。

さらに、そこから約132日後の2022年2月中旬あたりで全人口の60%に達し、その126日後の2022年6月中旬あたりで、全対象者をカバーするという計算になる。

最後に

以上はすべて、医療現場やロジスティクスの知識や情報を持っていない私が発表される数字から見て非常に単純な机上の計算をしたに過ぎない。実際に「7割ルール」が存在するかどうかも何の保証もないのだが、数字のイメージを持っておくことも大事ではないだろうか。なお、前回同様に、私よりももっと詳しい方からの「その解釈はおかしい」などというツッコミはむしろ歓迎である。その際は参照するべきデータなども紹介いただけるとなお嬉しい。

接種速度を定点観測するため、「ワクチン接種プログレスバー」を制作し公開している。Twitterのハッシュタグは「#ワクチン接種プログレスバー」である。一喜一憂せずに今後の動向に注目していきたい。

参考:
新型コロナワクチンについて | 首相官邸ホームページ
コロナワクチン【NHK特設サイト】
ワクチンを受けるには | コロナワクチンナビ | 厚生労働省

謝辞

前回の記事を公開後、即座に「接種実績=供給量*係数」という視座を与えてくれたMJ氏に感謝申し上げたい。

※注射針の切り替わりについては、発表の通り医療従事者向け供給については4月12日、19の週配送の一部と26日の週以降の全て、高齢者向け供給については5月10日の週から全て、注射針が切り替わり、1箱=1,170回分に相当することを加味している。



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