羊と雲の丘眺望羊群れ2

タイミングが合ったら

士別にやってきて
いちばん最初にともだちになったのは
「農家さん」な同世代の夫婦だった。

「私、あなたと絶対
いいともだちになれると思ったの」

地元紙に載った協力隊着任の記事を見て、
江別からお嫁に来たという
ハルエちゃんはそう思ったらしい。
ある日突然、
会いに来てくれたのだ。

その予感は的中して、私たちは本当に仲良しになった。

ご主人のタカさんもおだやかにやさしい人で、
ふたりの周りには自然と人が集まる。
自宅にもよく招いてくれたので、
私はふたりの家で、
士別のともだちをたくさんつくることができた。

そのうち私は、
タカさんがよく口にすることばに気がついた。

それは、「タイミングが合ったら。」

注意して聞いてみると、
そのことばは多くの農家さんの口から
発せられるのだった。

「今回はタイミングが合わなかったから、
またの機会にするよ。」

このことばを使えることを、
私は勇気だと思った。

でも東京で聞いていたら、
それはあきらめのことばに
聞こえてしまうんだろうなとも思った。

今まで暮らしてきた首都圏では、
環境とか天候とか
振り幅があってこそ自然なものを
チカラで均すような感じがあったから。

チャンスはチカラづくで
もぎとるものみたいだったから。

私にはそれが
不思議でしかたがなかったから。

農業が基幹産業のまちに来て3年。
農家さんの「タイミングが合ったら」は
あきらめのことばじゃないことが
よくわかるようになってきた。

それは、
自然がつくり出すリズムに合わせながら
半年にも及ぶ長い冬を越えて、
やがて訪れる春に
待っているかもしれないチャンスを
粘り強く待つことにできるチカラなのだと思う。

このリズム感と強かさが
私にはとても
新鮮に感じられたんだ。


◎鯨井啓子 info

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