何もないまちに建つ団地の1階がカフェになったとき。栃木県さくら市「NO NAME CAFE」が教えてくれる「ない」は「ある」ということ。

今年に入ってから3回目の栃木。2016年のゴールデンウィークの最後は、栃木県さくら市と日光市の(1)田舎に建つ団地の1階にあるカフェ「NO NAME CAFE」(2)中禅寺湖畔に建つ「旧イタリア大使館別荘」(3)日光の西参道裏で見つけた雑貨屋「TEN to MARU」を巡ってきました。これから3回に分けて、都心から車で約2時間の場所にあるヤバイグランドレベルのレポートです。

最後に登場する日光の雑貨屋「TEN to MARU」の店主・渡辺直美さんにはじめて出会ったのは正月休みの最後の日でした。あまりに素敵なお店の佇まいだったので、その場で意気投合し「グランドレベル」の話を田中がしたら、渡辺さんから「面白い場所があるらしいので、今度一緒に行ってみませんか?」と誘われて訪ねたのが「NO NAME CAFE」でした。今回は改めて再訪しました。

田んぼと美しい自然に囲まれて家々が建ち並ぶのは「フィオーレ喜連川」。いわゆる丘陵地帯に開発された温泉付別荘型住宅地です。その脇に建つマンションの1階がリノベーションされていてカフェになっています。

な、なんて大胆なんでしょう。グランドレベルの2軒分のバルコニーを全部取り払って、テラスにしてそちらをカフェの入口に。カフェの名前は「NO NAME CAFE」。カフェオーナーであり建築家の酒井理さんと、デザイナーの奥様、酒井さつきさんによるもの。ちなみに他の住戸は普通に住まわれています。けど、このカフェは決して、この団地の住民のためにつくられたのではなく、あくまでこのまちの中のカフェとしてつくられています。だから、外側に対してかなりひらいた店構えに。

中は心地よいザックリとしたリノベーション。さらに一つひとつの設えが来た人を楽しませようという気持ちで溢れています。そこへ美味しいランチにこだわりのコーヒー。さらにオリジナルグッズや雑貨コーナーもあったりして、何だかゆっくりと時間を過ごしてしまう。ここが団地の1階なんだってことは忘れてしまいます。

ふと外に目をやると、こんな光景です。鳥のさえずりに飛び交う蝶々、温かい日ざし、もう最高。

しかし冷静になると、このカフェ、どう考えてもクレイジーなんです。カフェを開くにしても、まず何故この場所だったのかということなんです。インターから降りてここに到着するまで、カフェはもちろん喫茶店すら見ることがありません。記憶にあるのは一軒のスナックくらいで。さらに周りも人通りがほとんどない、そんな場所です。仮に栃木県さくら市内に出店しようとしても、駅前など、もう少し人気のいる場所もある。なのにどうして。

けど、そんな立地にも関わらず、覗いてみると、前回も今回も入れ替わり立ち替わりこうしてお客さんが来ています。口コミ力なのでしょうか、女性の方や子連れの方が多い。しかも、皆さん本当に楽しそうに過ごしているんですよね。別荘住宅地に住むご近所さんもいらっしゃるそうですが、ほとんどの人は少し遠くから車でいらっしゃるのだとか。

*カフェ設立の経緯や内容の詳細がこちらのインタビューにあります。
http://tochigi.itot.jp/kitsuregawa/interview/interview01

さらにインタビューの中でも紹介されている2ヶ月に1度開かれている「ノーネーム市」の様子は、実に豊かな光景です。まさにこれまでリビング的な場所がなかったまちに、まちの人たちの新しい居場所ができたかのよう。まちに生まれた1軒のカフェは、確実に喜連川のまちに小さな幸せをたくさん生み出しています。

まちの人口が少ないということは、そのエリアを対象とした商売のリスクとして一般的に捉えがちですが、何も「ない」場所(まち)につくることの可能性は、私たちの想像以上に「ある」ということなのかもしれません。

まちの特性や資産を読み取り、改めて活かしていこう! 地方でも郊外でも、まちづくり、リノベーションと盛んに声が聞こえてきます。しかし、実はそんな声をあげるチカラすらない“真の郊外”が日本列島のほとんどを覆っています。「NO NAME CAFE」以外にも何もないところに何をつくるかという視点に立ったプロジェクトをいくつか訪ねているので、また後日取り上げてみたいと思います。(また、私たち「グランドレベル」も、そういうプロジェクトがいくつかはじまったところです。)

何もないまちでも、デザインとディレクションと人間力が合わされば、個人でも大きな力を発揮できる。ぜひ、興味のある方は「NO NAME CAFE」を一度訪ねてみてください。

「NO NAME CAFE」
http://www.nonamecafesakura.com/

おおにし・まさき(mosakiGroundLevel

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

73

大西正紀/GroundLevel & 喫茶ランドリー

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

グランドレベル研究所*日本

1階づくりはまちづくり! ここでは日本における、グランドレベルをデザインとコミュニティの観点から楽しく見ていきます。
3つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。