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【続報】喫茶ランドリーレポート:目の前にいるのは「消費者」?「人間」?「喫茶ランドリー」で人々を心躍らせる補助線のデザイン。その根本に持つべき考え方とは!?

前回の記事では、はじめの90日の模様をお伝えしました。いろんなところで「コミュニティスペースをつくる」といった言葉を目にしますが、「喫茶ランドリー」におけるそのクオリティやパフォーマンスが、面白いほど既存のものとは違う次元に動きはじめていることが、少し伝わったかと思います。

これまで私たちは、公園、道路、公共空間、商業施設、公共施設など、1階(グランドレベル)における、ひとびとのパフォーマンスを最大限引き出す大切さと、それが地域や社会全体に大きな影響を及ぼすことを説いてきました。そのなかで「喫茶ランドリー」は、私たちが手がければこのレベルまで到達できる!ということを、具体的につくりだすひとつの実験。本当に毎日がワクワクなのです。

前回の記事の効果もあり、投稿翌日から、さらに来客が増えていきました。その週末には満席状態が続き、ランドリーのある家事室で普通にコーヒーを飲む方まで。その後も今日まで、地元の皆さんに加えて、日本全国はもちろん、のついには海外からも来店いただいています。皆さんの職種も、デベロッパーの方から福祉関係、小売業界の方まで、実にさまざま。

地元の方であろうが、遠方からの方であろうが、私たちはできるだけ問いかけるようにしています。「もし、こんなスペースがあなたの●●にあったらどうでしょうか?」その対象は、マンション、市役所、オフィス、商業施設、小売店舗、学校とさまざまですが、どの方もその問いを与えられた瞬間、一気に妄想を膨らませます。

実は、「喫茶ランドリー」がこのようになっている背景には、さまざまな部分に緻密な設計(デザイン)があります。決して「喫茶」と「ランドリー」があるから、こうなっているのではありません。人が思わずやりたくなったり、動きたくなったりと、能動的になってしまう「補助線」のデザインを、手に触れるモノから、感じるクウカン、話しかけられるコトバにいたるまで、確信犯的につくっています。そのヒミツについては、追々お話しさせてください。

この2週間に起きたこと

さてそれでは、今回は、前回の投稿から2週間の喫茶ランドリーの出来事の一部を見ていきましょう。

「○○させてください」と声をかけていただく方が、本当に多いです。そんな中で、即行われたのが、地元の方主催による、東京マラソン応援ボードづくりワークショップでした。平日午後の2、3時間、子どもたちが集結して、工作の作業。

雑紙『ソトコト』に連載中の対談収録が行われ、なんと、田中康夫さんと浅田彰さんが、喫茶ランドリーに登場!! ランドリーのある家事室で撮影を行ってから、モグラ席で対談の収録。終わったあとに記念撮影。田中さんも浅田さんも、とっても気さくな方でした。喫茶ランドリーには、いろんな場所があるので、こういった収録や撮影にも向いているようです。

カウンターテーブルの下は、ビッグリスペクトの奇跡のコンビニこと「レコードコンビニ」店長プロデュースによる中古レコード販売がはじまりました。なんと、第一号購入は田中靖夫さんに!

12月のプレオープン以来、最初は代表の田中とわたしの二人で倒れそうになりながら死にものぐるいでやっていました。するとある日「私手伝ってもいいわよ!」と、パブリックマインド全開の地元のママさんたちが、目の前に。私たちの目には、菩薩様に見えたことは言うまでもありません。南無南無。。それくらいの感動だったわけです。

募集告知など一切出さずに、この短期間で店頭に立っていただくパートナーのママさんが3人まで増えました。何よりも外から人を迎え入れる立場として、個性的なそれぞれの能動性を炸裂させていることが、何よりも嬉しい。中には料理が大好きな方がいらして、日々次々と新しいメニューを考案してくださっています。写真は新たに加わった手作りゼリー。

1週間前のこと、近くのコンビニが閉店することを知ると、ランチ難民が生じることにチャンスを見たママスタッフたちは、翌日からランチ弁当をつくって販売しはじめました。なんたるスピード! もちろん、われわれとしては、その“やりたい”を思いっきり応援します。原価計算などは、あとからで良い。とりあず走る!走る!走る! 1週間も経つと、まちの人たちに認知されてきて、好評をいただくようになってきました。これかでも試行錯誤しながら、どんどんブラッシュアップさせていくことでしょう。

いろんなお客さんとお話をしていると、意外とモノをつくっているひとが多かったりします。だから、その度に「だったらここに置きましょ!お金はいいから」と言っています。写真は、あるご近所のアクセサリー作家の方に持ってきていただいた、イヤリングやブローチたち。すると、若い女性からおばさまたちが、カワイイ!!と、即売れはじめました。コレは人気の予感。

ランドリー含め家事室も、より使われるようになってきました。どんな人でも洗濯を終えてのびのびと洗濯物を畳んでいる姿は、なんとも微笑ましいものです。写真の常連のお子さんは、家ではやらないのに、洗濯ものを自主的にたたみはじめたり。

「おそうじしたい!」と、お店の掃除までしてくれるようになって。これまた感動。。。

さぁ、そしてミシンウィークが2018年2月11日(日)からはじまりました。

前回もお話ししましたが、この企画は地元ママさんたちが主催です。初日の夜は、アドバイザーのママさんたちが集まって決起パーティーが行われたのですが。

もちまえの「どうぞどうぞ」精神で、気付くとその場にいたお客さんや通りがかりの方々も巻き込まれて、あっという間にカオス。そこかしこで「はじめまして」の連発です。たまに“地元の人たちを交流させる系のイベント”を見かけることがありますが、そんなわざとらしさは窮屈さしか生み出しません。自然な状況をいかにしてつくるか。これでもポイントは補助線のデザイン。

その中にひとり、地方から受験のために東京に出てきた受験生がいました。たまたま近くのビジネスホテルにとまって、洗濯がてら来てみたら、いろいろ巻き込まれてしまいました。楽しい時間をすごしながら、「東京ってすごい。。今、僕の頭は混乱しています。。」と。最後は、「明日は頑張れよ!」と、総勢10名の子どもたちと、20名の大人たちによるエールで送り出されるという感動シーン。もし彼が、東京の大学に合格したら、いつか必ずここへ戻ってきてくれることでしょう。

前回の記事に対して、もともと地元のコミュニティが成熟した下町だからだきたことだろうと言う方があ、チラホラいたのですが、ここ墨田区千歳はまったくそういう場所ではありません。来ていただければすぐにわかります。昔から住む高齢者も、子連れやディンクス、単身者の新住民も、働く人も、互いに関わり合いなどない、どこでもありがちなコミュニティーが分断されたエリアです。

つまり、それほど状況が整っていない場所に「喫茶ランドリー」はあるわけです。だからもはや、「喫茶ランドリー」を成立させるためには、地方であろうが、東京であろうが、新興住宅地であろうが、下町であろうが、関係ありません。だから、どのグランドレベルにも、「喫茶ランドリー」的状況はつくれるのです。

子どもたちも、はじめましてであろうが、すぐにお友だち。いつもこのコミュニケーション能力には脱帽させられます。でね。ミシンウィークに合わせて、ママたちが、喫茶で持っていたガーランドを、写真のように家事室の周りやお店の軒先に設えたんです。

そうしたらですよ。奇跡が起きてたのです!

そのパーティーの日の日中に、近くの幼稚園でこどもたちがつくったものが、一斉に展示されるイベントがあったのですが、そこであるママが一枚の絵を見つけました。なんと、ある女の子が「喫茶ランドリー」で過ごした光景を絵に描いてくれていたのです。それだけでも倒れるくらい嬉しい! しかも、今日の日を予言するかのようにガーランドまでもが描かれているじゃないですか!!!

子どもが思い出に「喫茶ランドリー」を描いて、そこに足した夢の風景が現実におこっている。ささやかだけど、とんでもないことだと思いました。嬉しすぎるので、展示が終わったら、この絵を借りてポストカードにさせてもらおうかな。

地元ママが考えた「ミシンウィーク」はどんなの?場所

さてさて。

そこで、ミシンウィークそのものはどうなったの?ということです。

どんな人がくるのかな? いや、そもそもこんなので人くるのか!?

で、蓋を開けてみたら。。。

こんな感じ! はじめてのミシンを触る方から、ちょっと技術のある方から、達人級の方まで、本当にさまざまなひとが家事室にあふれてます。近くに住む人から、遠方から来る人まで。日曜日には、地元の服作りメーカーの職人さんも来て下さり盛り上がっています。

アドバイザー役のママさんは、必要であればアドバイスをして、あとは個人で没頭。すると不思議なもので、自然と皆さんで会話しているんですね。さらに、誰かが手を止めて悩んでいようもんなら、その中でできるひとが教えてあげたり、手伝ってあげたり。そして、少しずつ完成するたびに、小さな歓声が起きていきます。

ママさんも嬉しいから、記録をきちんととって、毎日のできごとをこうしてまとめていってくれています。ミシンウィークは本日2月17日(土)の16時半まで行っていますので、ぜひ気になる方は遊びにきてください! ちなみに最終日の夜は、参加者の皆さんで集まってお食事できる会が企画されています。

で、これらの合間合間にも面白い状況が次々と生まれているのですが、ここまでがこの2週間の「主な」できごとでした。

目の前に立つお客さんは「消費者」ではありません

今回は最後に、こういう状況を生み出すための根本的な考え方をひとつ。

それは、人は消費者ではないということです。いや、消費者であったとしても、それ以前に“超絶愛すべきひとりの人間”だという視点が大事なのです。路上に暮らしてようが、ヒルズの最上階に暮らしてようが、年齢や立場も関係なく、すべての人はフラットに超絶愛すべきひとりの人間。

電車で同じ車両になった人たち、信号待ちの交差点で一緒になった人たち... 存在するすべての人が、とびっきり面白いという確信を、私たちはこの数年で持ちました。それは、“人間らしい”とも表現することができます。(*詳しいことは、『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社より2017年12月5日発売/著:田中元子)に。

ところが、日本で生み出されるモノやサービスには、そういう理念がなさすぎます。もしくは、そういう理念でビジネスに対してどう立ち向かっていいのかがわからないというのが正直なところなのかもしれません。多くの物事が、人を人として扱かわれず、消費者とうカテゴライズに収めたり、ターゲット呼ばわりしたりします。

ひとびとはそれぞれに超絶面白いのに、なかなかそれを表出できる機会が、日本の施設や店舗、まちや生活に皆無なのは、そういう理由だと思います。

喫茶ランドリーのスタッフは、コーヒーを提供する際に、よくこう言います。

「あとは、自由に(店内を)見て、自由にすごしてくださいね!」

するとお客さんは、「あれ、ここはコーヒーを飲むだけじゃなくて、何かいろいろやっていいところなの?」と、考えはじめます。心の中で、むくむくむくと何かが起こってくるようです。普通のカフェではいだくことのない感覚。そして、帰り際に、「私○○をしていて、ここで○○ってできますか?」となったりもする。これが発露。本当にすばらしいことです。

もちろんその中で、ゆったりコーヒー、ゆったり仕事、ゆったり読書も、それに含まれます。

私たちは、この「喫茶ランドリー」的状況は、まちや公園、公共施設や公共空間、商業施設など縮図として捉えています。つまり、“小さなやりたいを思い起こさせる、小さなやりたいを実現させる”ことが、グランドレベルにあるすべての場所、すべての施設に必要なものだと考えているからです。

たとえ、どんなに綺麗に整備されていても、たとえ、子連れの家族で溢れる賑わいが生まれていても、結果として小さなやりたいが思い起こらず、小さなやりたいが実現できなければ、そこにあり続けるのは「死のまち」です。

日本の社会もまちも経済も、より良くなるには、まずそのスタンドポイントに立つことがマストなんだと考えています。「1階づくりは、まちづくり」には、そういう想いも秘められています。

それでは今日はこの辺で。そう、最近日が差し込みはじめたんですよ!また次回もお楽しみに!

1階づくりはまちづくり

大西正紀(おおにしまさき)

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、ベンチの話... まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

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