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「喫茶ランドリー」が「グッドデザイン賞ベスト100」に選出!改めて問いたい「21世紀の“デザイン”とは?」 3つのWARE(ウェア)が、私たちの日常と社会を変えていく。人間の「心の発露」による「健康と幸福」を目指して。

先日、2018年10月3日に、「2018年度グッドデザイン・ベスト100」が、発表され、「喫茶ランドリー」が選出されました。

http://www.g-mark.org/award/describe/47998

物件をはじめて見に行ったのが、2016年4月。そこからプロジェクトが始動し、その後に田中がグランドレベルという会社を設立しました。そして、2018年1月5日にグランドオープンし、9ヵ月が経ったことになります。

まちに暮らす0歳から80歳までの“あまねく人々”が、ふらっとお店を訪ねてはお茶を飲み、会話を楽しみ、さまざまに過ごしています。店内でごくごく自然に起こる小さなトライによるマイパブリックが媒介となり、新しい会話が生まれ続けています。そんな日常を目にする度に、「『喫茶ランドリー』は、とんでもないモンスターだ」と、私たちは小さな感動を積み重ねています。

まさに「喫茶ランドリー」は、さまざまな人々によって、まさに目まぐるしく育まれ続けてきました。賞のエントリーは設計に関わった方々ですが、今の「喫茶ランドリー」をつくりあげているのは、まぎれもなくこれまで「喫茶ランドリー」に触れて下さった方々です。だから皆様に感謝の念が絶えません。本当にありがとうございます。

けどある人に、こんなことを言われました。

「喫茶ランドリー」がグッドデザイン賞にノミネートするとは……

仰る通りです。なぜなら「喫茶ランドリー」のような小さな喫茶店がグッドデザイン賞を受賞することに、実質的なメリットはありません。応援してくださっている地域の方々に、ささやかの喜びを感じていただくことはできるのかもしれません。しかし、来店者が増えることもないですし、そもそも墨田区千歳の住宅街で、日々淡々と、まちに暮らしの中に存在し続けることを目指しているわけですから。

ただ、私たちはこのプロジェクトで常に「デザインとは何なのか?」ということを純粋に問い続けてきました

だから、もし「喫茶ランドリー」というプロジェクトを、グッドデザイン賞に取り上げていただけるのであれば、「これからの21世紀にされるべきデザイン」について新しい議論のきっかけにならないだろうか。それがひとつ見つけたグッドデザイン賞にノミネートする価値でした。

21世紀にされるべき「デザイン」の定義を哲学する

私たちはこれまで、数十の国、地域で、建築や都市、その他のデザインと人々との関係を観察してきました。

日本のデザインにはもちろん良さもある一方で、世界では共有されている根本的な哲学や理念が抜け落ちているようにも感じていました。

そんなときに墨田区に建つこの建物と対面しました。

目の前にある建物、その周辺に暮らす人々、そこにはもちろんざまざまな問題がありますが、これからの21世紀に「デザイン」とは、何を寄りどころに、どこへ向かっていけば良いのか、そういう大きなテーマをデザインに関わる人たちは常に持っておかなくてはいけません。目の前にある問題を解決することだけが、デザインではないからです。

3つのフィロソフィー

もう少し問いを具体的にして、デザインそのもの「目的」は何なのか?と考え続けました。いくつかの国を巡り、地域を巡り、これまでのnoteを書きながら、考えを深め続けてきたと言っても過言ではありません。そして、この問いは、「人の幸福」と「世界の平和」という究極的にシンプルな答えに私たちを導きました。これは、何をデザインするときにも、適用されるべき大きな理念です。例えそれが「ランドリーカフェ」にカテゴライズされる「家事室付きの喫茶店」だとしてもです。

そんなことは当たり前だろという声が聞こえてきそうですが、「幸福とは何か」「平和とは何か」という哲学を突き詰めていくと、意外と大きな発見があったりするものです。これについて私たちは、この数年さまざまなプロジェクトでトライとフィードバックも行いながら、考え続けてきたことでもありました。

詳細は『マイパブリックとグランドレベル ー今日からはじめるまちづくりー』(著:田中元子/晶文社)に詳しいですが、主に「パーソナル屋台」や「パーソナル屋台ワークショップ」「アーバンキャンププロジェクト」「パーソナル屋台ワークショップ」「パブリックサーカス」といったプロジェクトを通じて、「個の能動性」はさまざまなデザインによっていかに引き出しうるのかということが、最大のポイントだと気づき、さらに次の3つのフィロソフィー(理念)に行き着きました。

1.地球に存在するすべての「個人」は、特異な「何か」を持っている。それらは、社会に貢献するか、お金を生み出すか、で優越をつけられるものではなく、どれもが尊く純粋に面白い。

2.その「個人」の「何か」が顕在化されると、それを介して人は人とが自然と対話をはじめる。それこそがコミュニケーションの源泉。そして、顕在化させるのはデザインの力。

3.それらの状況が1階(グランドレベル)に溢れるまち、その光景なくして、人間のHEALTH(肉体・精神・社会)はない。そして、このHEATHと表裏一体に「幸福」はある。

これら3つがグランドレベルという会社の、あるいは「喫茶ランドリー」というプロジェクトの根本を成すフィロソフィー(理念)となりました。たとえば、「喫茶ランドリー」の看板にあるコピー「どんなひとにも、自由なくつろぎ」の裏には、そういう考えがあったのです。

そこでふと、広義な「デザイン」という言葉に立ち戻ってみると、これらの理念は、これまでの「デザイン」が取りこぼしてきたものでもあると思ったのです。人間には誰一人同じ人はいません。なのに、「デザイン」というものは、一人ひとりの想いと能動性、真の健康と幸福について、繊細に寄り添うことについて、どれだけ真摯に立ち向かってきたでしょうか。本当に、もっともっとできることは、なかったのでしょうか。

私たちは、そこを突き詰めたくなりました。3つの理念を、どうデザインで実現するか。その最大で最初のチャレンジの場が「喫茶ランドリー」をつくることでした。

「喫茶ランドリー」が生み出した
人の能動性を、最大に高める3つの器(WARE)

後半では少し概念的な話をします。

「喫茶ランドリー」をつくるにあたって、最初に下のような達成すべき3つの大きな目標を設定しました。

そして、私たちは、これらを実現するために、「HARDWARE(ハードウェア)」「SOFTWARE(ソフトウェア)」のデザインに合わせて、その両者の間を取り持つ「仕組み」「組織化」「ルール」「コミュニケーション」などのデザインを行いました。私たちはハードとソフトを取り持つWAREを総称して「ORGWARE(オルグウェア)」と呼んでいます。いかにこの3つのWAREをデザインしていくのか、ということを意識して取り組んでいきました。

WARE(ウェア)という言葉の語源のひとつに、「器(うつわ)」という意味があります。3つのWAREは互いにとっての器となり、それぞれを受けとめるものです。だから、ハードウェアという器の上にソフトがあるというイメージは、これに合いません。それぞれ3つのWAREが、互いを受け容れながら、有機的に変容し続けるような状態。そこに身を投じると、人は能動的であり続けることができます。(これも、これまでのさまざまなプロジェクトを通して確信していたことでもありました。そして、それこそが真の「健康」と「幸福」へとつながる、と)

たとえば、「喫茶ランドリー」では、空間もサービスも、お客さまや働くスタッフによって日々変わっていきます。家具の配置や置かれるモノ、行われる行為も、さまざまなことが変わっていきます。それを受けて、人はまた新しい使い方を発見していきます。ソフトやハードが変われば、それに伴い、運営や組織化、コミュニケーションの手法もどんどん変容していきます。

ここでもうひとつ大切なのは、これらの背景にあるのは、すべて「やってみたい」という個人の純粋な想いがあるということです。赤ん坊が大声で泣きたいということから、大きなイベントごとをやりたいということまで、どんなささいな「やりたい」でも叶え続けていく。

こういった能動性の正のサイクルを、3つのWAREを詳細にデザインしていくことで、実現したのが「喫茶ランドリー」です。そして、このひとの能動性を最大に高めるこのデザインメソッドと言うべきものは、他のさまざまなデザインにも適用できると考えています。

それが、「喫茶ランドリー」はプロトタイプだと言う所以です。

どんなモノやコトも、3つのウェアの考え方をベースにしデザインしていくことができます。それによって、“よりひとびとの能動性を引き出す”○○をつくることができる。

そしてこのことは、いかなるモノ・コトのデザインについても、置き去りにしてはいけないものだと思うのです。なぜなら、「能動」的な状態が、人間が人間たる所以だから、“小さなやりたい”の実現が、幸福と健康の基礎だから。

ここまでが、私たちが「喫茶ランドリー」を通して「デザイン」について考え抜いた、ひとつの結論です。考

人は、そのデザインによって
もっと「能動」的になれることはできないのか

そこで今一度、私たちの身の回のデザインを見直してみると、いろんなことが見えてきます。“より「能動」的な方向へ的確に導いているのか”をないがしろにしたデザインはそこかしこにあります。そこには大きな可能性しかありません。

そんな理念や概念はいいから、とっとと具体的なデザインのコツを教えろよ!と聞こえてきそうですが、この3つのウェアの先で、ようやくより具体的なデザインの話が展開していきます。

どんな運営やコミュニケーションのデザインがあれば働く人が能動的に働けるのか、滞在する人の自分のやりたいが自然にどう表出しうるのか、そこを何ミリ整えたデザインにすれば最高の居心地を生み出せるのか等々……

「SOFTWARE(ソフトウェア)」

「HARDWARE(ハードウェア)」

「ORGWARE(オルグウェア)」

と、具体的なデザインのは3つの中で、階層深く考えていくことになります。その段階では、人の心と行為をアフォードするさじ加減のデザインが必要になる。わたしたちは、それを「補助線のデザイン」と呼んでいます。

さて、ここまで伝えることができれば、この先は個別のデザインついて話しやすくなっていきそうです。

それでは、今日はこの辺にしておきましょう。


1階づくりはまちづくり

大西正紀(おおにしまさき)

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
http://kissalaundry.com
http://japanbench.jp/
http://mosaki.com/

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