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本当の「プレイスメイキング」がココにある.武蔵美小泉誠ゼミ「yatai」講評会で見た、パブリックがいきいきと使われる繊細なデザインの可能性.

学生時代から憧れていた方... 小さなプロダクトから建築までをも手がけるデザイナー小泉誠さんから連絡をいただき、国立の事務所をはじめて訪ねたのは9月のことでした。当初はmosakiのこれまでの活動から「けんちく体操」そして「パーソナル屋台」までを、小泉さんが教鞭を執られている武蔵野美術大学の1年生の授業でレクチャーしてくださいという依頼だったのですが、打合せでたくさんお話しをさせていただいたら、翌日に追加の依頼を受けました。

小泉さんからのメールを開くと、小泉ゼミの3年生課題を「yatai」としたので、その講評もぜひ!とありました。テーマは「コミュニケーションの場を構築する」とし、キャンパス内のどこかで最終的には1/1を製作するというもの。テーマはもちろんのこと、武蔵美の学生、しかも小泉ゼミということで、私たちはとても興奮しました。そして、ワクワク待つこと3か月、秋晴れの12月初旬、武蔵美へと向かったのです。

「プレイスメイキング」の基本を考えさせられる

現地へ到着すると、この講評、何と各学生はキャンパス内のどこかで実際に1/1の「コミュニケーションの場」を制作してその場で楽しんでいる、それを私たちが一つひとつ訪ねていきながら、講評・対話していくというものだったのです!

キャンパスの中につくられた作品は十数個。今回は、いくつかの作品を一緒に見ていきましょう!


はじめに見えてきたのは...

綺麗に刈り込まれた赤く染まった正方形の生け垣の中心、黄色に色づいた大きな木の下に、何かが。

紅葉と暖簾(のれん)。向こうの陰がうっすら暖簾に映り込む。暖簾は“おいで”発信ツール。何かこのシーンだけで美しい。美しいものには引き込まれる。

うわぁ、良い感じだぁ。。

あっという間に、こんな風に使われてしまいます。暖簾が自立しているのだと思ったら、腰高の高さの側壁と一体になっていて、さらにテーブルまで一体になっている。これがある学生が考えたコミュニケーションの場をつくる広義な意味でのyataiというわけです。

この側壁は効いてる。あるとないとでは、全く座る人の籠もり感、一体感が変わってきます。側壁側に座る人も、ふとしたときに側壁に寄り添ったり、肘をかけたりできる。まさに人の動作の基本をしっかりと抑えている。

昨今、都市・まちづくり界隈では、輸入された「プレイスメイキング」という言葉がよく使われはじめていて、いろんな社会実験が行われていますが、適当な椅子・テーブル・植物が置かれるものを見る度に、とても残念な気持ちになります。それって、逆に人間の心を馬鹿にしてるのでは?と。なぜなら「プレイスメイキング」は、例えばこのひとつのyataiのように、もっと人の気持ちを考えて、繊細にデザインされるべきものだと思うからです。

「プレイスメイキング」の本来の目的は、私たちの「パーソナル屋台」やこの課題のテーマでもある「コミュニケーションの場を構築する」ってことだと思います。だからこそ、そこでは「その場所で」「どうデザインすると」「人は心地よく寄り添い」「どんなコミュニケーションが発生するのか」を、しっかりと考えてつくることが大切なんだと思います。それによってのみ永続的なコミュニケーションの場がつくられる。

さて、内側に入ってみると、こんな感じ。椅子も四角いフレームを重ねただけで、簡単に高さを変えられるようになっています。う〜ん。冒頭からやばいですね。こんな yatai が軒先から都市公園まで、いろんなグランドレベルにあったら、どれほど「コミュニケーションの場」は変わるでしょうか。

ただの椅子とテーブルが置かれる場合と、今回のレポートで登場するyataiたちが置かれる場合の「コミュニケーションの場」の違いを想像しながら... 

さて、次に行きましょう!


「振る舞い」と「デザイン」は表裏一体.
1センチの差で人の振る舞いは変わる.

キャンパスの奥の方に、あまり使われていなそうな階段に。えっ... 何だあれは!? 遠目にもメチャクチャ気になるじゃないですか。美しく階段そのものに寄生するように置かれたyatai。階段は椅子になり、一筆書きの板はテーブルになったり、人ひとり籠もれる場所になってる!

そこにある「デザイン」と、生まれるであろう「振る舞い」を想像しながら、左から右に、ゆっくりと観察してみてください。左半分下の籠もれるところは脚を下ろせるようになってたり、左側は尖らせることでカウンターテーブルの機能を持っていたり、右側は階段に座ることでちょうどいいローテーブルになる。細長く手前と向こうを仕切ることで、対面するコミュニケーションが取れるようになる。モノを広げることもできるし、誰もいないときは、昼寝するにも最高かもしれない。都市公園やオフィスビルにあるような大階段へ移動させていって、これによって人の関わり方が、どう変化するか見てみたいなぁ。

このyataiは、「デザイン」によって「振る舞い」がどう変わるのか、それらが如何に表裏一体なのかということを教えてくれます。ここで大切なことは、ほんのわずか1センチの差によって、人の振る舞いというものは変わってしまうということ。

続いて現れたyataiも、キャンパス内のとある階段に寄生したもの。

階段 on 階段。

山は登りたくなる、階段は上がりたくなる。これは人間の本能です。

先ほどの「1センチの差」とは、あくまでメタファーです。グラフィックデザインであればわずか1ポイント、また明度や彩度、手触り感に至るまで、五感にうったえかける全てのデザイン要素の“わずかな差”は、人の振る舞い(本能)に、大きく影響を与えてきます。


学生たちのyataiがリアルな街に出て行ったら、
という妄想が止まらない.

キャンパス内に次々と現れてくるyatai。

この馴染み感はすごい。友達が座っていても、作品に驚く前に「おー!元気!」と声をかけてしまいそうなくらいに。けど、よーく見るとここは外階段の踊り場。そこに3パターンのプレートを差し込むだけで、こんな「場」に変身させてしまっているのです。プレートのひとつは、囲まれ感を出している障子のような白いプレート。

もうひとつが座布団プレート。この数センチあがってるのが、人の気持ちを分かってる。

そして三つ目が、テーブルのプレート。企画材を既存の手摺に絡ませているだけという。

こんな簡単な操作で、キャンパス内の人気のない階段の踊り場が、確かにコミュニケーションの場として生まれ変わっている!

学生の皆さんの想像力はハンパなく。この作品は、なんと紐だけでつくりました。

人二人がやっと通れるくらいの細い通路を紐で斜めに区切った。片方がちょっと人が籠もれる場所、もう片方が通路というわけです。

二人で籠もって話してみると意外と違和感ないことにビックリ!!!

この学生は、なんと細い角材だけを使用!

確かにこうして角材を一つひとつ組んでいくだけで、人の振る舞いも変わるし、そこで生まれるコミュニケーションの形も変わっていきます。

キャンパス内だけではなく、まちの中、とくにビルの1階には、こういう何でも無い場所って生まれがちですよね。そこに目を付けたこの学生さんは、

こんなものを、これまた既存の建物に寄生するようにつくりました。奥と右側は、既存の躯体に寄りかかってるのがいい!

気持ちいいよね!! 右上の彼女は肘を乗せて見上げていますが、実は、

見上げると、こういう気持ちいいビューなんです。気持ちいいビューも、こういうものがなければ楽しむことができません。手摺下もちょっとしたテーブルに見立てて良い感じ。もうこれは、常設決定でしょ!

もうひとつのyataiも良い感じ。これ事務所や家にも欲しいかも。

使われていないけど気持ちいい場所を見つけるという嗅覚は大切。この学生さんは、藤本壮介さん設計の図書館の一角にこんな場所を見つけました。

なんと大好きな靴磨きyataiをリアルにつくった! 振る舞う側と利用者に隔たりがないフラットな関係をつくりだしていることが素晴らしい。

続いてこちらは、紅葉の下で、風呂みたい??

なんと、既存のベンチの半分は残しつつ、もう半分はテーブルにして地べたに座れるようになってる!石垣、樹木、ベンチなど、既存の読み込みが深い。まさにこの場所だからつくれるもの。

これくらいの大きさで、顔と顔との距離が近いと、コミュニケーションは華やぐことを彼らは知っています。ベンチの手前も残したのは、やはり秀逸だなぁ。季節ごとにも楽しめそうです。

このyataiも面白くて。

既存のベンチがあるのですが、ある時間帯になるとこうして西日がきつくて座ってられないと。そこで、左右にふたつの覆いをつくりました。

それを移動させながら、その人なりの最適な籠もり感をつくれるというもの。数センチ移動させていくと、みるみる感覚が変わっていくから本当に面白かったなぁ。

最後はコレ! 何か石垣にひっかかるように建ってて。こっち側は浮いているんだけど。

逆側は高さが違っていて接地しています。こっちからはアクセスできなくて。

低い方から梯子をあがっていくと。しかも既存のベンチに一段上がってから、梯子へ。これが登ると...

ジャーン!!! もう感動ですよ! しかも「どうぞ!」と手渡されたのは、手作りの白玉入りぜんざい。しばし、ほぐほぐしながら紅葉を見上げる極上タイム。


単なる居場所づくりの先にあるものとは

駆け足で振り返ってみましたが、実はまだまだ紹介したい作品がたくさんあります。とにかくどれも今回紹介したものと同じくらい、選択した「場」と、そこに差し込む「デザイン」と、そこに生まれる「コミュニケーション(人の振る舞い)」がエキサイティングでした。

そして、とにかくどのyataiも、そこに人が集っている風景が心から微笑ましいものだったし、仮設ではなくずっとずっとそこにあって欲しいと思ったものばかりでした。そして、こういうyatai的家具が、都市生活のさまざまなシーン、さまざまなグランドレベルに展開していくことを、講評中ずっと妄想していたのです。

そういえば、冒頭で少し話した「プレイスメイキング」が誤解され一人歩きしていることを、この1月に訪ねたコペンハーゲンのゲールアーキテクツのボス、ヤン・ゲールが危惧しているインタビューがyoutubeにあがっています。

「プレイスメイキングとは、ハードとしての居場所をつくることだけではなく、つくられた後に生き生きとした使われ方をして、人々がパブリックライフのクオリティを感じられるスペースをつくることなのだ」

と彼は言うわけですが、今回の学生の皆さんの作品は、その単なる居場所づくりを越えたところまでを捉えていたからこそ、僕自身がずっとあってほしいと、都市の中に展開していってほしいと、思ったのだと気付かされました。

今回の学生さんたちによるyataiから都市やまちのさまざまなグランドレベルを見渡してみると、実に楽しい可能性がまだまだあると感じませんでしたか?

椅子を置いて賑わいが生まれるなんていう「プレイスメイキング」が恥ずかしくなるくらい、武蔵美小泉ゼミの皆さんのyataiたちには、楽しく能動的に使わせてしまうデザインだらけでした。そこにあるのは(寸法だけで言うと)ほんの数センチの格闘!将来、こんなデザイナーの卵たちがグランドレベルをきちんとデザインできる社会になったら、どれだけ日本の都市生活は豊かになっていくのでしょう。

いや〜本当に楽しかったし、学ぶことがが大きかった。こんな貴重な機会をいただいた小泉さん、そして小泉ゼミの皆さん、ありがとうございました! また機会があれば、遊びに行かせてくださいね!

1階づくりはまちづくり!

それでは!今日はこの辺で。

大西正紀(おおにしまさき)

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