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AR体験が普及する未来で広告プラットフォームビジネスはどう変わるのか

Masaki(@masarp)です。

Google で広告製品を担当し、現在は Graffity Inc. で AR(拡張現実)技術と AR 体験について考えています。

今回は、その中でも AR 体験を「広告」という切り口で見ていきます。

前段で、広告、AR デバイスの普及、AR 体験の 3 点を踏まえた上で、広告プラットフォームビジネス(Google、Facebook のようなビジネスモデル)がどう変わっていくかを見ていきます。

1. 広告とはなにか

まずはじめに、最低限、広告の知識がないと話が始まらないので、歴史から紐解いていきましょう。(元デジタル畑の個人的な解釈も含みます)

まだ新聞も本もなく、限られた人のみが情報を取得できた時代において、技術的なイノベーションを起こしたのが印刷技術です。印刷技術により広く大勢に情報を届けられるようになります。

しかし、それでも新聞であれば、購買料を払える人しか情報の取得はできません。そこで購買料で収益化を行うのではなく、情報を広く大勢に届けたいと考える広告主に広告掲載面を提供することで、収益化を行い、情報を大勢に届けることを実現したのが広告となります。

いわば広告は、情報取得の対価を最低限にし、多くの人に情報の提供を可能にする仕組みであり、収益構造として1つのイノベーションとも言えます。

そしてインターネットの誕生により、デジタル広告が出現します。

大勢に情報を届けることができる新聞やテレビなどのマスメディアですが、広告掲載面は限られています。そのため、広告主の需要と掲載面の供給を保つため、掲載面は高単価となります。それに対して、デジタルの世界では掲載面を大量に作成できます。とはいえ、掲載面はコモディティ化し、価値は低下してしまいます。そこで掲載面の価値を高めるために、広告配信のターゲティング精度を高め、パフォーマンス計測を付け加え、広告を適切な人に届けることを実現したのが、デジタル広告です。

さて、今回はメディアプラットフォームの話なので、プラットフォームを主語に、デジタル広告を使って収益を最大化する要素を5つに分類してみます。

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まずビジネスとして成立させるために(1)ユーザーの滞在時間(=ユーザーにとって魅力的なサービス)、(2)広告在庫数(=広告主にとっても魅力的な広告配信媒体)が必要です。

この2要素の広告在庫数、ユーザーの滞在時間(広告への接触回数)を増加させることで、事業として高い収益性を実現出来ます。

そして、収益を最大化するための魅力的な広告製品を組むために、(3)広告ターゲティング精度(=適切なユーザーに広告を配信でき、高い成果をあげる事で予算の好循環を構築)(4)広告掲載面の数(=サービス内に様々な広告配信面があり、その数が豊富である)(5)広告フォーマット(=広告主が魅力的に自社商品を訴求できるフォーマット)が重要になってきます。

2. AR デバイスの普及と体験の特徴

この仕組みで Google、Facebook らが莫大な利益をあげている訳ですが、実現した一つの要因として、背景にデバイスが爆発的に増えたことがあります。これは「ユーザーの滞在時間」の絶対母数が伸び続けている環境であると言えます。

また、サービス体験を見ると Google は検索行動(知的探求)、Facebook は社交的な行動(人間関係)のようなユーザーの滞在時間が長い(=多くリテンションする)体験の中にデジタル広告が埋め込まれています。

では、今後 AR だとどうなるか。

AR 体験が可能なデバイスとして、まずは現時点で普及しているスマートフォンが AR 対応され、スマートフォンから普及していきます。そして、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)、AR グラスの順番に普及していくと考えます。AR グラスは Apple が 2020 年にローンチの噂がされており、Snapchat、Google、中国 HUAWEI も開発していると予測されています。彼らの資金投下によって 10 年スパンで大きな伸びをみせると考えることができます。

次に、AR 体験においては、デバイスによって大きく「能動的か」「受動的か」で体験が異なります。

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目的を持ってアウトカメラを向けるスマートフォン、目的を持って着用する HMD では AR 体験は「能動的」であり、AR グラスでは、目的なくとも AR 体験を行う「受動的」なものへと変化していきます。

AR グラスの受動的な体験がどういう世界観というと、このような SF 映画のような世界観が実現します。

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(参考動画:Hyper Reality - The Future Is Here

スマホと比べると、AR グラスを装着している時間は、AR 空間に繋がっている状態を意味し、AR 体験設計によっては、ユーザーの滞在時間が非常に高いサービス設計の素養が十分にあると言えます。

3. AR 体験をマネタイズするのか、AR 技術でマネタイズするのか

これらのデジタル広告の要素、AR デバイス、AR 体験の特徴を踏まえて、どう AR 体験をマネタイズするのか。

現時点では、例えば「空間や、建物の側面に AR 技術で広告が表示される世界」を作り出しAR 版 Google、Facebook のような「広告プラットフォームとして、収益性の高い事業展開を行う」ことは難易度がかなり高いと思います。収益化できたとしても、一定上限があるように思えます。

デバイスの観点で、体験が「能動的な体験」に制約されおり、収益化できるユーザーの滞在時間の母数が「スマホをつかって AR 体験をしている時間のみ」となってしまいます。また、AR 体験自体も、制約をふまえた上で、ユーザーの滞在時間が高く、広告掲載面の増加率が高い体験を構築する必要があります。

スマホ、HMD 時代においては、「AR 体験を作り出し、広告配信プラットフォームを構築する以外で収益化を行う」ほうが実現可能性が高いのではと思います。

例えば、Pokemon Go が 1 つの例です。コア機能として移動してポケモンを捕まえることができ、AR 機能を使ってポケモンの世界観の中で楽しむことも出来ます。AR 体験を通じて、ポケモンの世界観を実現し、アイテム課金、O2O プロモーションによって収益化を行なっています。(詳細は長くなるので割愛)

広告配信プラットフォームを構築するのであれば、スマホ、HMD 時代は少し時代が早く、検証フェーズであり、AR グラスが普及し、AR 体験が「能動的」から「受動的」に変わった時、AR 技術を使って、収益性の高い広告プラットフォームビジネスの実現可能性は飛躍的に伸びると思います。

4. AR グラスが普及した世界での広告

では、AR グラスが普及し、受動的に AR 体験を通じて「情報」を取得できるようになった世界で広告プラットフォームがどう進化するか、上記であげた5要素ごとに見ていきます。

・広告在庫の数
・広告クリエイティブ
・広告ターゲティング
・広告掲載面の数
・ユーザーの滞在時間

ターゲティング精度

AR だからこそ取れるデータにより、ターゲティング精度を向上できます。例えば、AR 空間から「誰が、どこで、何をみているか」といった視線データの取得が可能です。既存広告プラットフォームにはない新しいインタレストデータを作り出し、ユーザーに適切な広告配信が可能になります。

また、ヒートマップを作り出すことで、ある種 Google Page Rank のような AR Vision Rank を作り出すことも可能であり、情報の重み付けを行う1要素になりえると思います。

広告フォーマット

デジタル広告の広告フォーマットの進化を振り返ると、テキスト → 画像 → 動画とよりリッチになっており、AR 時代には、3D オブジェフォーマットが可能になります。 

AR オブジェにより、購入前の商品の擬似体験や、AR で空間を装飾し、商品の世界観を体験することができる広告製品を作れ、より購買に近い訴求を実現できます。

また、AR 体験は、現実のコンテキストが重要な体験という特徴を持っており、その特徴を活かした、現実のコンテキストを理解した上での広告製品が作れると思います。現実体験の延長線上にくる訴求力を持った広告製品が可能になると考えます。

購入前の商品の擬似体験では、既に米 EC サービス Shopify が、3D モデルでサイズを測ったり、すべての角度から商品を確認出来るような機能実装がされています。

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(参考:Shopify × ARのショッピング機能

余談ですが、Snapchat と Amazon が提携した「Snap Visual Search」、Google Lens 画像認識による Google Shopping Ads への遷移などで、 AR 3D オブジェクトと相性の良い商品の購買率データを蓄積し、着々と AR グラス展開に向けて検証が進められている予想します。

広告掲載面の数

AR 時代の広告掲載面の数において、空間保存・空間共有(= AR Cloud 技術)が一つの鍵になります。

AR グラスを常に装着している世界に合わせて、AR 空間を保存、他人と AR 空間共有が実現することにより、現実世界で見えている物理世界が AR 化され、全ての世界が広告配信対象の面になります。

ここは体験構築にもよりますが、例えば、指定したモードに応じて、複数の AR 世界を変えるができれば、無尽蔵に広告掲載面を獲得することができます。

既に優秀なアドネットワークを所有している Google、Facebook などは YouTube 買収同様、他社買収もしくは自社開発において、広告掲載面が増やすことができれば、AR 時代において容易に覇者で居続けらます。

ユーザーの滞在時間

AR グラスの特性上、常に装着している状態が考えられ、スマホを取り出すアクションがなく、瞬時にサービスにアクセスできる環境があります。

スマホ時代において、人が生活する中での「可処分時間」をいかにとれるか?が求めらますが、AR グラスであれば装着している時間がユーザーの滞在時間にもなりえます。スマホ時代に比べるとあらゆる可処分時間を対象にした体験を構築することができ、高いユーザーの滞在時間を狙えます。

広告在庫の数

広告フォーマットで言及した「購入前の商品の擬似体験や、AR で空間を装飾し、商品の世界観を体験することができる広告製品」により、成果の高い広告製品を実現できれば、結果的に広告投下の予算は増え、結果的に広告在庫数は伸びます。

また、広告フォーマットの文脈でもありますが、広告在庫数を増やすためには、誰でもが簡単に AR オブジェクトを作れる環境が必要になるので、別軸で技術的なイノベーションが必要となります。

5. 最後に

長くなりましたが、AR 体験が普及した未来では現実のコンテキストを理解した精度の高い広告配信や、よりリッチな購買の擬似体験できる世界が可能になっていき、紹介した5要素ごとに、大きく変わっていくと思います。

そして AR グラスが普及し、AR 体験が「能動的」から「受動的」に変わった時にこそ、収益性の高い広告プラットフォームビジネスの実現可能性は飛躍的に伸び、空間に広告が現れるような世界が到来すると考えます。

また、今回は AR 体験を「広告」の観点から見ましたが、AR 単体の技術的には、画像認識、機械学習の分野でもあり、広告以外で収益化することも可能性も十分にあり得ます。

AR 体験が普及した未来、「広告」が、スマホ時代の「広告は邪魔な存在」から、もうちょっと「人と身近で、楽しい存在」になれれば嬉しいなと思います。

大野将希 @masarp


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