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病児保育 潜在ニーズの感度分析

「第29回全国病児保育研究大会 inいわて」で発表する抄録を作成したので、図も交えてこちらで共有する。

【目的】
 病児保育の年間延べ利用人数64万人(平成28年度)であるが、そもそも潜在ニーズがどの程度あるかがこれまで明らかになっていないため、試算した。
【方法】
 オープンデータを活用し、潜在ニーズの感度分析を行った。保育園の年齢別欠席日数の検討を行った先行研究2編とオープンデータ(保育園および幼稚園の通園児童数、待機児童数、世帯状況など)を使用し、試算した。
 先行研究2編より年齢別に病欠日数を引用し、それに実際の通園児童数を乗じることで就学前の年間病欠児童数を算出した。
 病欠児童の全員に病児保育の利用希望があるわけではなく、専業主婦世帯や3世代世帯では利用しない可能性が高いため、その分は減じた。
 
【結果】
 先行研究2編から児童1人あたりの病欠日数はそれぞれ、0歳 19.3-30.2日/年、1-2歳 10.8-16.8日/年、3-5歳 6.3-9.2日/年であった。

2017年4月時点の保育園通園児童数はそれぞれ0歳 146,972人、1-2歳 884,514人、3-5歳 1,515,183人で、幼稚園通園児童数は3-5歳 1,207,884人であったため、各年齢層の病欠日数と通園児童数を乗じると2,954万人日/年-4,435万人日/年となった。つまり、年間延べ2,954 -4,435万人の子どもが保育園や幼稚園を休むため、病児保育を使いうるということになる。

さらに、病児保育を使う可能性のある世帯の検討を行った。平成27年 国勢調査の世帯構造等基本集計結果と就業状態等基本集計結果より、子どもがいる世帯を抽出すると、夫婦と子どもからなる世帯が1,429万世帯(64.8%)、ひとり親と子どもからなる世帯が475万人(21.5%)、3世代世帯が302万世帯(13.7%)であり、合計は2,206万世帯。夫婦と子どもからなる世帯の内、両親の就業状況を考慮したいが、データがなかったためより、子どもの有無に寄らない世帯データの両親の就業状況から外挿した。夫婦の就業・非就業別にみると、夫婦ともに就業者の世帯は1,308万世帯となっており、夫婦のいる一般世帯に占める割合は、47.6%。同様に、夫が就業者かつ妻が非就業者の世帯は727万世帯(26.4%)、夫が非就業者かつ妻が就業者の世帯は113万世帯(4.1%)、夫婦ともに非就業者の世帯は602万世帯(21.9%)であった。それぞれの割合を夫婦と子どもからなる世帯でもほぼ同様であると仮定し外挿すると、夫婦と子どもからなる世帯1,429万世帯のうち、夫婦ともに就業している割合が47.6%であるため、680万世帯と計算すると、子どもを持つ世帯2,206万世帯のうち、30.8%であった。以下同様に計算すると、子どもを持つ世帯のうち、夫が就業者かつ妻が非就業者の世帯は17.1%、夫が非就業者かつ妻が就業者の世帯は2.7%、夫婦ともに非就業者の世帯は14.2%であった。続いて、ひとり親と子どもからなる世帯の検討を行った。ひとり親の就業割合のデータがなかったため、ひとり親のメインとなる母親の就業割合から外挿した。平成27年 国勢調査の世帯構造等基本集計結果より、母親が就業者の割合は91.1%、母親が非就業者の割合は8.9%であった。ひとり親と子どもからなる世帯475万世帯に外挿すると、親が就業者である世帯は433万世帯で、子どもを持つ世帯2,206万世帯のうち、19.6%であった。同様に計算すると、親が非就業者である世帯は42万世帯で、全体の1.9%であった。


病児保育を利用する可能性の高い世帯は、夫婦と子どもからなる世帯のうち夫婦ともに就業者の世帯とひとり親と子どもからなる世帯で親が就業者の世帯であると仮定した場合、全体の50.4%が病児保育を利用する可能性があると考えられた。
 前述の通り、年間延べ2,954 -4,435万人の子どもが保育園や幼稚園を休むと考えられるが、病児保育を使う可能性が高い世帯は全体の50.4%であるため、年間延べ1,490-2,236万人の子どもが病児保育を利用しうる実際の潜在ニーズと考えられる。

【結論】
潜在ニーズは1,490-2,236万人であり、現在の病児保育室利用人数の23-35倍と非常に大きいことがわかった。


こちらは、8月に論文化される予定なので、またnoteします!!

出典
1)
東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学教室東京女子医科大学医学部心臓血管外科学、東京女子医科大学遺伝子医療センター
野原 理子・冨澤 康子・齋藤加代子:保育園児の病欠頻度に関する研究;東女医大誌 第 87 巻 第 5 号頁 146~150 (平成 29 年10月)

2)
新谷 尚久、五十嵐登、 八木信一、 嶋尾智、村上巧啓、村上美也子 、押田 喜博:保育園在籍児の年齢別欠席日数に関する検討;外来小児科 Vol.16 No,1(2013)

3)
厚生労働省 子ども家庭局 保育課(平成29年9月1日 )

4)
文部科学省:学校基本調査-平成30年度結果の概要-

5)
厚労省 平成30年4月11日 【照会先】子ども家庭局 保育課

6)
平成27年 国勢調査:世帯構造等基本集計結果

7)
平成27年 国勢調査:就業状態等基本集計結果

CI Inc. Founder / CEO 産婦人科医(東京大学 産婦人科) 産科婦人科学会 未来委員会、医療改革委員会、中央専門医制度委員会