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『嘘八百』日本語字幕版を観て欲しい八百の理由

お知らせ📢2023.1.20  UDCastの特集記事にて『嘘八百  なにわ夢陣』バリアフリー版についてのインタビュー陣が公開されました。

日本語字幕も第3弾

2023年1月6日、『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開された。足立紳さんとオリジナル脚本を手がける『嘘八百』シリーズの第3弾だ。

シリーズになる予定は当初なかった。2作目を作るとなったとき、「作れるんや」と驚いた。「2度あることは3度ある、いうけど、どうやろ」と思っていたら、まさかの3作目となった。

映画は作品ができた後から資金を集めるクラファンのようなものだとわたしは思っている。お金を出してくれる人がいてこそ、作品は広がる、つながる。

もう一つ、1作目から作り続けてこれたものがある。

日本語字幕だ。

第1作は日本語字幕のみ。後に京都のライトハウスさんが上映会用に音声ガイドを自主制作してくださったが、パッケージには納められていない。

わたしがその存在を知ったのは、TA-net(シアター・アクセシビリティ・ネットワーク)のシンポジウムの物販で「シネマ・チュプキ・タバタ」の平塚千穂子さんの著書『夢のユニバーサルシアター』にサインを求めたときで、「『嘘八百』という映画の脚本を書いてます」と名乗ったところ、「音声ガイド作りました。うち(チュプキ)でも上映しましたよ」と言われ、なんと‼︎となった。

第2弾『嘘八百 京町ロワイヤル』と『嘘八百 なにわ夢の陣』にはUDCast対応の日本語字幕と音声ガイドがついた。

第1弾と第2弾の間の目覚ましい変化が「UDCastのおかげで、日本語字幕と音声ガイドを活用しやすくなった」こと。バリアフリー版にアクセスするバリアがかなり低くなった。

UDCast対応の字幕メガネをかけると、メガネに字幕が投影される形でいつでも字幕つき上映を楽しめる。また、スマホにUCCastのアプリを入れ、観たい作品の音声ガイドをダウンロードしておくと、劇場で音声ガイドを再生しながら鑑賞できる。

『嘘八百 なにわ夢の陣』のサイトにもUDCastのロゴと合わせて「音声ガイドあり」「日本語字幕あり」を示すマークが。

字幕メガネは高価で、「UDCast版」と「ハロームービー版」の2種類がそれぞれにしか対応していないため、必要な人に行き渡っているとはいえない。字幕メガネの貸し出しを行っている劇場もあるが、「字幕焼き付け版」のニーズはまだまだ高い。

自分が字幕つきの外国語映画を観るときを考えると、やはり映像と字幕一体化しているほうが作品の世界に入りやすいなと思う。

熱量高い5年前の原稿を発掘

このnoteを書いている2023年1月13日の前日、第2作と第3作の日本語字幕と音声ガイドを手がけ、UDCastアプリの運営もされている制作会社パラブラさんの取材を受け、『嘘八百』シリーズのバリアフリー上映についてお話しさせていただいた。

パラブラ代表の山上庄子さんとポスターを挟んで、『嘘八百  なにわ夢の陣』劇中に登場する「おはどう、ございます」のポーズ。

記事はUDCastのサイトに近日公開予定。

『嘘八百  なにわ夢の陣』日本語字幕(焼きつけ)版は、フォーラム盛岡(1/13-1/17)と川崎チネチッタ(1/13-19)のほか、全国68館で上映予定。1/21-24に実施する劇場が多い。詳しくは公式サイトの劇場情報ページを。

第1作に日本語字幕がついた経緯をお話ししながら、記憶があやふやになっているところもあり、とくに前後関係が怪しくなっていた。なにせ5年前。5年の間にこちらの記憶力はどんどん頼りなくなっている。

『嘘八百』公開当時のfacebook投稿を掘り出してみると、当時のわたしがなかなかの熱量とボリュームで語っていたので、noteに転載することにした。

✔️掘り出し原稿①『嘘八百』に日本語字幕がつきました
✔️掘り出し原稿②『嘘八百』日本語字幕版を観ていただきたい八百の理由

の2本。タイトルを大見出しにし、小見出しを追加した。

2018年の掘り出し原稿①『嘘八百』に日本語字幕がつきました

手話動画がバズった

故郷・堺が舞台のオリジナル脚本映画『嘘八百』(監督:武正晴 脚本:足立紳 今井雅子)、1/5に公開され、連日劇場で初笑いしていただいています。

この作品に日本語字幕がつき、その上映をお知らせする手話コメント動画もできました。

出演されているのは、左から映画『LISTEN リッスン』の監督であり、東京ろう映画祭プロデューサーでもある牧原依里さん、ユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林さん、特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)理事長の廣川麻子さん。いずれも手話を言語とされる聾者の方です。

今井も加わった記念写真では、手話で「嘘」「八」「◯」「◯」とやっています。実際の「八百」は小指以外を広げた「八」の指先を跳ね上げて表現します。ぜひ動画で観てみてください。

役者さんのお名前(「佐々木」「中井」)やあらすじ(だまし合い)などの手話もご覧いただけます。「だます」はキツネの形をくるくる回し、相手をケムに巻く感じ。出演のお三方の手話がとにかく魅力的です!

『嘘八百』の公式サイトと公式Facebookページでは武監督のコメントとともに公開され、公式Facebookページの投稿はシェア100件を超え、動画再生は1万回を超えています。

公式ツイッターでも動画のURLにリンクする形で紹介されていますが、全国公開の商業映画で公式にこのような手話コメント動画を撮影してアップすることは珍しいそうです。

「字幕をつけて」と言われて動き出した

手話コメント動画は牧原依里さんの提案に配給のGAGA(ギャガ)さんが乗ってくれて実現したのですが、牧原さんを紹介してくれたのは廣川麻子さん。廣川さんとは2年前に『残夏(ざんげ)』という舞台の公開稽古を見学したときに知り合って以来やりとりさせていただいていますが、『嘘八百』という映画を作りましたというわたしのFacebook投稿を見て、「ぜひ字幕をつけて」と真っ先に連絡をくれたのが廣川さんでした。

「わたしも字幕をつけたいと思っています!」とお返事しましたが、そのきっかけとなったのが、4年前、通い始めた手話講座で聞いた松森果林さんの講演。CMに字幕をつける活動をされている松森さんの話に心を動かされ、自分の作品にも字幕が必要なんだと意識するようになりました。

その講演の感想を綴った日記が松森さんの目に留まり、松森さんが息子さんと初めて一緒に観た日本映画が『子ぎつねヘレン』だったことがわかりました。それまでは字幕がある洋画を観に行っていたそうです。

2013年7月4日(木)の日記 聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐ(松森果林さん講演)

2013年8月14日(水)の日記 「子ぎつねヘレン」と手話がつながった

そんな偶然もあり、また、手話を学び続けるなかで、「次に作る映画には字幕を」と思っていたのですが、『嘘八百』の撮影、編集が終わり、公開に向けての宣伝会議が始まった頃に、ようやく字幕に向けて動き出したところ、助成金の申請期限は過ぎていました。

映画を作り始めるときに日本語字幕のことまで考えておかないといけないんだ、と学びました。

そこからは廣川さんに相談しつつ、GAGAさんや堺市にも相談し、大阪ろうあ会館さんが力になってくれるかもしれないというご紹介があり、製作委員会の方々の理解もあって、日本語字幕が実現することになりました。

当事者に伝わる字幕を探る

大阪ろうあ会館さんから上がってきた字幕をチェックすることになったとき、松森さんと廣川さんにもぜひ見て欲しいと思い、お二人に相談したところ、快く引き受けてくださいました。

ひとつひとつの字幕について、

✔️「話者が誰かわからない」(誰の口が開いているかわからない場面も多く、話者はなるべくつけたほうが良いのだと学びました)

✔️「擬音語、擬態語が何の音なのかわからない」(「トントントン」だけでは何の音かわからないので、「トントントンと階段を上る音」とする。ただし、「絵で音が表現されている」場合は、あえて字幕にしない。ちなみに「擬音語、擬態語が多すぎ」という意見もありましたが、関西人のわたしは気にならず…。関西弁は擬音語、擬態語だらけなので、関西製作の字幕の特長かもと想像するのも楽しかったです)

✔️「ルビはなるべく振って欲しい」(固有名詞、専門用語が多いので、ルビだらけになりますが、これは聴こえる人にとっても親切)

など、より良い字幕にする具体的な意見とアドバイスをたくさんいただきました。

「字幕も演出ですから」と監督

松森さんと廣川さんから寄せられたコメントと、監督や脚本家などスタッフからのコメントを元に修正した字幕をモニターに映しながら、一行ずつ検証する作業を6時間あまりかけてやりました。

たとえば、冒頭に「チリンチリン」という字幕が登場します。これは、中井貴一さん演じる古美術商・小池則夫の車の運転席の上で揺れているお守りの音ですが、「わざわざ入れなくて良いのでは」とわたしが言ったところ、「お守りに目を行かせるための音なのだから、あえて入れたい」と監督。「チリンチリンとお守りが鳴る音」として、お守りに気づいてもらうことで、験を担ぐ則夫の性格を早めに打ち込むことができるのだ、と恥ずかしながら字幕作業をするまでわかっていませんでした。

則夫がラジオの占いに一喜一憂するのは物語の大きな鍵なので、この「チリンチリン」には重要な意味があったわけです。

ひとつひとつ字幕を確認しながら、監督の意図も確認することができ、スタジオ内は「へえー」の連続。「コメンタリーを聞いているみたい」とGAGAの担当者さん。わたしもとても勉強になりました。

印象深かったのは「字幕も演出ですから」というスタジオでの武監督の言葉。義務感でもなく責任感でもなく、じつに楽しそうに、生き生きと。字幕作業を創作のひとつとしてとらえ、取り組む。現場でのアイデアも次々と出て、聴こえない人も聴こえる人も作品をより楽しめる、とても豊かな字幕になったのではと思います。

文字起こしでアドリブの台詞もしっかり拾ってくれていて、わたし自身が字幕を見て初めて「ここでこんなこと言ってたんだ」と気づいた台詞もありました。

専門用語や固有名詞もわかりやすい

大阪ろうあ会館さんでの文字起こし、字幕作成にはじまり、字幕チェックを踏まえて東京での改訂、スタジオでの動作確認、それを踏まえての仕上げ…たくさんの人の時間と熱意をいただき、『嘘八百』日本語字幕版が完成しました。

館数も回数も限られていますが、「字幕版を劇場で観てくれる人」がふえることが、字幕版が広まる何よりの後押しになると思います。聴こえない人はもちろん、聴こえる人もぜひ、字幕版『嘘八百』を体験してみてください。

「まつだいらふまい」「しばたかついえ」「かいらぎ」「かんしんこう」「いまいそうきゅう」「つだそうぎゅう」など、音で聞いても漢字が思い浮かばない固有名詞や専門用語も、「松平不昧」「柴田勝家」「梅花皮」「欠伸稿」「今井宗久」「津田宗及」と文字を見ると、意味をつかみやすく、イメージもしやすい。しかもルビつき。小学生や日本語を勉強中の方にも、ぐっとわかりやすくなるはず。

一度ご覧になった方、もう一度字幕版で見てみると、より理解が深まると思います。

そして、字幕版を観た方はぜひ、その感想をお寄せください。「字幕版ってこんな感じだよ」が知られていくことも、興味を持ってもらうきっかけになると思います。観る人にも、作り手にも。

映画作りに携わっている方々にもぜひ日本語字幕版『嘘八百』を観ていただき、今の作品、次の作品に字幕をつけることを考えていただけるとうれしいです。

https://twitter.com/karinmatsumori/status/946214510414544896?s=46&t=pkgZjeOL_2UO87m3tdE_mg

2018年の掘り出し原稿②『嘘八百』日本語字幕版を観ていただきたい八百の理由

上映館数も回数も決して多くはありません。字幕を必要としているのに観られない方も多いと思います。だからこそご縁を感じてくださった方にはぜひ劇場で観ていただき、日本語字幕が嘘八百の「八」の字のように末広がりになってくれたら…と願い、少々熱く、かつ長くなりそうですが、書きます!

昨日堺で盛り上がりを実感してきましたが、堺を舞台にした映画『嘘八百』(絶賛公開中!)の日本語字幕版上映のお知らせです!

立川シネマシティでの1週間上映(最終日1/19は17:10の回)に続いて、1/21(日)-22(月)には渋谷シネパレス(11:00/13:15/18:30)TOHOシネマズ梅田(8:50)TOHOシネマズ鳳(11:50)など14館で日本語字幕版が上映されます。(※2018年『嘘八百』公開時の情報です。ご注意ください)

「字幕版は聴こえない人だけのもの」と敬遠される方が多く、「字幕版はお客さんが減る」傾向があるようです。

違うんです! ちゃうんです!

日本語字幕版は「聴こえない人だけのもの」やなくて「聴こえない人と聴こえる人が一緒に楽しめる形」。せやから「聴こえる人」に「聴こえない人」が加わって、いつもよりにぎわってもおかしないんです。

字幕は楽しみ方が広がるオマケなんです!

『嘘八百』は字幕なしでも十分むっちゃ面白い!と、ない胸を張って言いますが、字幕版は「へー」や「ほー」という発見や合点の連続。とくに古美術や陶芸の専門用語や固有名詞は漢字(ルビつき!)で見ると、バッチリ頭に入るんです。

「鹿革でならす音」なんかは、脚本のト書きにはあるけど台詞にはないので、鹿革なんか何の革なんか、革かどうかも字幕版やないとわからへん、つまり字幕版で観た人だけのオマケ情報いうわけです。

役者さんのアドリブや演出のこだわりも、むっちゃわかりやすくなってます。初めて観る方はもちろん二度目三度目の鑑賞の方も目ぇから鱗が八百枚落ちることうけあいです。

『嘘八百』みたいなコメディ映画に字幕がつくのは珍しいらしく、立川で観た方から「まわりの人と同じところで、同じタイミングで笑えた」という感想が届きました。

まわりの人が笑っているのを見て「なにが面白いんやろ?」とならんと同じところで一緒に笑える、それが字幕版の良さなんやなあと教えてもらいました。

そんなに言うんやったら見てみよかと思った方は、リンク先に各館の上映時間をまとめましたので、お近くの劇場とタイミングが合いましたらぜひ。字幕をつけることになった経緯なんかも書いてます。

‪【『嘘八百』に日本語字幕がつきました】 故郷・堺が舞台のオリジナル脚本映画『嘘八百』(監督:武正晴 脚本:足立紳 今井雅子)、1/5に公開され、連日劇場で初笑いしていただいています。 この作品に日本語字幕がつき、その上映をお知らせする手...

Posted by 脚本家・今井雅子(いまいまさこ) on Friday, January 12, 2018

※追伸 7/11発売のDVD/ブルーレイに、公開時に作成した日本語字幕が入りました。字幕もぜひお楽しみください。

「音で映画を観る」音声ガイドもぜひ

2023.1.15 膝枕erでもあるまゆゆさんがclubhouseで朗読。早速見つけていただき、ありがとうございます。

音声ガイドについては、こちらのnoteに。「嘘八百 京町ロワイヤル」の音声ガイド版のUDCast試写を全盲YouTuberの西田梓さんと観たときのエピソード。


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。