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波の刻印

どっぷり首まで海に入ったのはなん年ぶりだろう。ひょっとすると子供のとき以来かもしれない。
人肌よりも少し温かいか同じくらいの海水。
たくさん並ぶ珊瑚が荒い波を吸収して、穏やかな浅瀬に足を踏み入れる。
透き通った水底には自分の影が映り、波の模様と交差する。
珊瑚と珊瑚の間にゆっくり座るとちょうど首まで海に浸かった。
見たこともないような色の魚が集まってくるのを見てなんとも言えない気持ちになる。
海がこんなにーー。
その先の言葉を探す。
あたたかい、美しい、穏やか。
どれも当てはまらないような気がした。
人はまばらで夫と子供たちは遠くに見える。
裸で入ったら気持ちいいだろうな、とふいに思った。
一糸もまとわず海に抱かれてみたい。
周りに誰もいないのを確認して座ったまま、ジャケットタイプの水着のファスナーを少し下ろした。
白い肌に映った波の模様が揺れるのを眺めながら、この感覚をいつまでも覚えておきたいと思った。

#エッセイ #コラム #海 #波

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