見出し画像

暗号資産規制のゆくえ

金融庁が事務局を務める仮想通貨交換業等に関する研究会(「研究会」)は2018年12月14日、今後の仮想通貨関連ビジネスの包括的な規制に関する報告書案(「報告書案」)を明らかにしました。本年初頭の仮想通貨流出事件以降、仮想通貨ビジネスに対する政治的な逆風が増す一方であったなかで、報告書案は、仮想通貨に関する国内の問題と並行して進む暗号資産の国際的な規制動向を踏まえて、ブロックチェーン技術を用いたトークン関連ビジネスを、既存の法制になんとか押し込めようという金融庁の努力の跡がうかがえます。
日本は来年、G20のホスト国であり、そこでは国際的な暗号資産の規制について議論されることが見込まれます。報告書案の取りまとめが急がれた理由の一つは、G20を前に国内の議論を整理して、先進国で一番始めに国家レベルで仮想通貨規制を導入した国として、国際的な暗号資産の規制をリードしたいという思惑に基づくものと思われます。
こうした思惑がうまくいくのかどうかを占うため、今回は、国際的な金融規制コミュニティの場で暗号資産の規制がどのような枠組みのもとで議論されてきたのか、残された課題はなんなのかについて、報告書案で示された日本の暗号資産に関する議論を適宜ご説明しながら、解説してみたいと思います。世界の議論との位置づけを明確にすることで、日本のこれからのブロックチェーン技術を用いたトークン関連ビジネスのゆくえを考える材料としていただければ幸いです。

1. 暗号資産と仮想通貨
(1) はじめに
暗号資産の規制を説明する際に最も重要なのが、「暗号資産とはなにか」という点です。研究会の報告書案では、「virtual currency」を「crypto-assets」と表現するのが国際的な趨勢なので、日本でも呼称変更を行い、「仮想通貨」を「暗号資産」と呼び替えようということが提案されています。
しかし、これは正確ではありません。特に日本のように既に仮想通貨を定義して法制に組み込んでいる国では、このような理解をすると議論の流れを理解することができなくなってしまうおそれがあります。そして、いま国際的に活発な暗号資産の規制に関する議論は、まさに「暗号資産とはなにか」という問いと直接に関係しているのです。そしてこの問いに対する国際的な議論の中身こそが、この記事を通して僕が皆さんに共有したい内容ということになります。

(2) 暗号資産
 Fintechの発祥の地であり、米国に次いでブロックチェーン関連のスタートアップ企業が拠点を持っている英国のレポート によると、暗号資産とは、一言で言えば「ブロックチェーン技術を財産的価値の表示に応用したもの」をいいます。機能的な観点からもうすこし付け加えると、「ブロックチェーン技術を用いて暗号的に統一性が確保された財産的価値や契約上の権利の電子的表示で、電子的に移転、保存、取引可能なもの」をいいます。英国はfintechにおける主導的な国であり、これまでシンガポールや香港、豪州などを中心に、日本を含む多くの国とブロックチェーンについて議論を重ねてきた国ですから、英国の暗号資産に対する理解は、国際的に標準的な理解の一つと言って良いでしょう(少なくとも日本の理解よりは国際的に認められたものであると思います。)
国際的に理解されている暗号資産の定義からしますと、日本の資金決済法における「仮想通貨」は、暗号資産の一つです。しかし、ブロックチェーンは帳簿に統合的な形で資産の残高を表示する技術に過ぎませんので、ブロックチェーンが表示する財産的価値には、日本の資金決済法において定義された「仮想通貨」以外のものがありえます。
報告書案で「国際的な趨勢」として念頭に置かれているのは、主に金融安定委員会(Financial Stability Board、FSB)における議論ということになります。FSBのとりまとめがG20に報告されるという形態になっていますので、FSBがcrypto-assetsという用語を用いたことをもって研究会でこのような呼称変更の議論が出てきたものと推察されます。
しかし、FSBの報告書でcrypto-assetsは「私的資産の一種であって、その認知された又は本源的な価値の一端が主として暗号技術と分散台帳等技術に依存するもの」と定義されています 。後にご説明する通り、この定義は、日本の資金決済法における「仮想通貨」の定義よりも広いものを指しています。
もともと日本の「仮想通貨」の用語は、金融活動作業部会(Financial Action Task Force、FATF)が2015年に発出したガイダンス(Guidance for a Risk-Based Approach to Virtual Currencies )で用いられたvirtual currencyを邦訳したものです。2015年のガイダンスではvirtual currencyは「交換媒体、計算単位、価値保存の機能を持つ電子的に取引される価値のデジタル表示であって、法定通貨ではないもの」と定義されていました。資金決済法の「仮想通貨」の定義はこのガイダンスにおけるvirtual currencyの定義を日本の法制に落とし込んだものとされています。
なお、2018年10月に公表されたFATF勧告では、virtual currencyを「virtual assets」に呼称変更し「電子的に取引又は移転され、支払又は投資目的で用いられる価値のデジタル表示であって、法定通貨、有価証券又はその他FATF勧告において金融資産としてカバーされていないもの」と定義し直しています。なぜこのように呼称を変えているのかについては、なかなか深い背景事情がありますので、後ほどご説明しましょう。
ちなみにシンガポールは引き続きvirtual currencyという用語を法令上の呼称としていますし、欧州の最新のマネロン指令(5MLD)でもvirtual currencyという用語を用いています。
このように、世界の議論では「virtual assets」は単に「virtual currency」の呼び替えとは考えられていません。では、ここにいう「virtual assets」とは一体なんなのでしょうか。
「暗号資産とはいったいなんなのか」を探求するという記事の目的から、この記事では国際的な議論に合わせて、「暗号資産」と「仮想通貨」を区別しています。「仮想通貨」は、日本の資金決済法における「仮想通貨」を念頭に、FATFにおけるvirtual assetsやEU、シンガポールなどのvirtual currencyをも捉えた意味で使っています。

2. 暗号資産を支える技術
国際的に暗号資産は、ブロックチェーン技術、もう少し技術的に中立な表現で言えば分散台帳技術(Distributed Ledger Technology、DLT)を用いて実装することを念頭に議論されています。法規制はしばしばテクノロジーニュートラル、すなわち特定の技術仕様を念頭にそれ以外の技術を用いることができないような形では行われないという建前を持ちたがります。そのような規制態様は、技術の発展を規制が止めてしまうことにつながるためです。他方において、規制を立案する場合、立案者は目の前にあるさまざまな状況(法律用語では立法事実と呼んでいます。)を念頭に立案します。この「さまざまな状況」には当然のことながら、その時点の技術水準が含まれますから、技術によるバイアスからは逃れられません。暗号資産も、その意味で現在の分散台帳技術のアーキテクチャを念頭に議論されているというのが実際のところです。
実に、暗号資産を巡る法規制の問題を考えるにあたって最初にしっかりと抑えておかなければならないのは、分散台帳技術のアーキテクチャと、これが可能にする(すなわち、従来型のデータベースでは実現が難しかった)機能的特性なのです。なぜなら、これこそがまさに「今なぜ、暗号資産を巡る法規制の問題を考えなければならないのか」という問いの本源的な背景であるからです。
分散台帳技術には様々なタイプのものがあり、なにをもって分散台帳技術と言うのかについての一義的な定義はありません。しかし、国際金融の世界では、分散台帳技術は以下の4つの機能的な特性を組み合わせたものであると捉えられています。
① データ分散 多くの参加者が同じ台帳を共有し、データにアクセスすることができる。
② 非中央集権 台帳の更新は、合意されたプロセスとルールによって、多くの参加者によって行われる。
③ 暗号技術 参加者の認証、記録データの確認、コンセンサスの獲得は暗号技術を用いて行われる。
④ プログラマビリティ コーディングされたコンピュータプログラムによって契約条件が自動執行される。
 さらに、その実装にあたり、誰もが帳簿更新のコンセンサス形成に参加することができるもののコンセンサス形成にコストがかかるpermissionless方式と、ネットワーク全体としてのコスト効率を改善するために帳簿更新に参加することができる参加者を限定するpermissioned方式があり、その設計思想によって「誰がどのようなデータにアクセスできるか」「誰が台帳の更新に関与することができるか」にさまざまなバリエーションがあるというのは、ブロックチェーン技術について少しでも勉強されたことがある方であればご存知の通りかと思います。

3. 金融サービスにおける分散台帳技術のインパクト
分散台帳技術が先にご説明した4つの機能的特徴を備えていることを念頭に、国際的な金融規制コミュニティでは、分散台帳技術が金融サービスにどのようなインパクトをもたらすのかについてさまざまな研究をしてきました。その結果、分散台帳技術は金融事業者と利用者にとって、以下の点で便益をもたらす可能性があるとの結論に至っています。

(1) システムの強靭性
多数の参加者が帳簿を共有することによって、特定の参加者が事故によってデータを喪失したとしても、帳簿システムを問題なく運用することができることになります。また、システムの攻撃者は多数の参加者を攻撃しない限り帳簿システムをダウンさせることができないことから、高いサイバー耐性を持つことができることになります。中央管理者が存在するシステムの脆弱性である単一障害点をなくすことによって、システムの強靭性が高まるということです。
言うまでもなく、金融は障害によるシステムダウンが特に許されない分野ですので、これまで金融事業者はシステムの強靭性を高めるために、莫大なコストを掛けてきました。分散台帳技術は、こうしたコストを大きく減らしていく可能性があると目されています。

(2) 効率的な決済プロセス
多数の参加者が元帳に直接アクセスすることができることによって、これまで決済システムにとって不可避であった面倒な突合プロセスを不要とします。
金融におけるサービスの本質は、予め定められたルールに従った正確なオペレーションです。事業者ごとに異なる帳簿を持つことを前提とした決済システムは、それぞれの事業者の帳簿間の整合性を保つための突合プロセスが不可避ですが、これにはたいへんなコストが掛かりますし、ミスも発生しえます。単一帳簿にすることによって、こうした問題点が解消されることは、金融サービスにとって非常に大きな便益です。

(3) 効率的な報告、監査、モニタリング
多数の参加者が共通の帳簿にアクセスすることができる分散台帳モデルは、金融機関内部、または複数の金融機関の間、金融機関と顧客の間、さらには金融機関と規制当局との間の情報非対称性を低減します。異なる状況にあるプレイヤーが共通の帳簿にリアルタイムにアクセスできることによって、一方から他方へのマニュアルな報告体制を取る必要性が減ります。状況を知る必要がある者は自ら帳簿にアクセスして確認すれば足りるためです。
この特徴による便益は、一つには金融資産を分散台帳技術によって実装したときに顕著に現れます。典型的には分散台帳技術を用いてファンドを運営した場合、投資者は運用者のアクティビティをリアルタイムで確認することができるという実装を採用することができることになります。透明性の向上により、例えば四半期に一度、運用者が投資者にファンドの運用報告をしなければならない、というルールはメイクセンスしないということが起こります。
二つ目は、金融機関と規制当局者の間の情報の非対称性の解消に関するものです。規制当局が帳簿に直接アクセスすることができるのであれば、わざわざ金融機関に対してレポーティングを求める必要はありません。また、規制当局が適切な分析ツールを用いることで、金融システムに悪影響を及ぼすマクロプルーデンシャルな問題の発生の契機をより早期に発見することができるようになるので、金融システムの安定性を高めることも期待することができます。

(4) 取引の自動執行
 分散台帳技術のプログラマビリティという特性は、さまざまな金融取引に自動執行性をもたせることができます。典型的には、分散台帳により表示された特定の資産をロックしておいて、ある条件を満たしたときに自動的にその資産を相手方に引き渡すというものがあります。「ある条件を満たした」という入力は分散台帳システムの外部からのものでも良いため(オラクルなどと呼ばれています。)、この特性を用いるとさまざまな契約をシステム上で自動執行することができます。「スマートコントラクト」と呼ばれるのは、このような分散台帳システムの技術特性を用いたものです。
 通常の契約は、当事者でどのように合意したとしても、相手方が合意に従った行動をしてくれないと目的を実現することができません。この相手方の契約執行の不確実性に伴う諸コストを軽減することができる点で、価値移転を伴う金融取引において、この機能特性は分散台帳技術がもたらす大きな利便性であると考えられています。

(5) 既存アセットのデジタルトークン化
 分散台帳技術とは、基本的に統一的な帳簿マネジメントのための技術ですので、これまで中央集権的なデータベースで管理していたさまざまな資産を分散台帳技術で実装することが可能です。
 分散台帳技術は各参加者の帳簿残高を共有することができる技術特性を持っており、帳簿の更新は非中央集権的に特定のコンセンサスアルゴリズムによって、しかもプログラムに従って自動で行うことができます。したがって、帳簿残高の記録が、それぞれの参加者が所有している特定の資産の量を示すものであることを法的に又は技術構造的に確保することができれば、帳簿残高の記録の更新をもって、「その資産の所有者が移転した」ものとして取り扱うことができることになります。
 こうした特徴は、あたかも資産がデジタル化したものであるかのように一般には感じられるため、これをもって資産のトークン化(asset tokenization)と呼ぶことがあります。
 分散台帳技術のもとで資産がトークン化すると、資産取引について、上記の(1)から(4)にご説明した分散台帳の技術的特性の恩恵を受けることができることになります。特に、自動執行性が確保されると、資産取引が極めて効率化することになるはずで、その便益は計り知れないと考えられます。
 資産のトークン化による取引効率化は、資産の所有権を細切れにして取引することを可能にします。これはいわゆる証券化技術と同じロジックでありますが、これまでご説明してきたような、資産移転のコストをさまざまな面で低下させる分散台帳技術を用いることで、取引単位をより小さくすることができます。これは投資に対する間口を低くし、より流動性を高めることにつながり、流動性により生まれた市場によって取引の効率性を高めることになります。

4. 暗号資産とセキュリティ・トークン
(1) 分散台帳技術と暗号資産の論点
これまで少し回り道をして、分散台帳技術の特性と金融サービスにおけるインパクトについてご説明してきました。分散台帳技術について学んだことのある皆さん、特に金融分野での応用に関心がある皆さんにとっては、どれもどこかで聞いたことのある話だったと思います。この話が「暗号資産とはなんなのか」という問いと何の関係があるのか、と思われた方もいるのではないかと思います。
しかし、「暗号資産とはなんなのか」という問いは、分散台帳の技術的特性と金融サービスへのインパクトについての理解ができて初めて、問いの意味が理解できるという関係に立っています。この記事が探求したいアジェンダに照らして言うと、「暗号資産(crypto-assets)」は「仮想通貨(virtual currency)」の単なる呼び替えではない、ということの意味は、分散台帳の技術的特性と金融サービスへのインパクトについて理解ができて初めて理解することができる、ということです。
話を進めていきましょう。

(2) 有価証券のトークン化と暗号資産
 株式や社債など、金融商品取引法で定められる「有価証券」は、その名前が示すとおり、当初は「券面」すなわち紙によって実装されていました。その後ろにある実体的な権利が「券面」という紙と一体化(化体(けたい)と呼ばれています。)されているのであると法律が整理し、権利を移転するためには券面を引き渡さないといけないのだと法律が定めていたのです。より正確に言うと、まず券面を発行した会社は、誰が実体的な権利者なのかを把握するため、帳簿をつけることになっています。つまり、発行者との関係で実体的な権利を持っている人は、発行者が管理している帳簿に記載されていることになっていて、実体的な権利を移転した場合、権利の譲受人は帳簿の更新をしないと発行者から権利者として認めてもらえません。しかし取引の当事者からすると、わざわざ取引のたびに発行者に帳簿を書き換えてもらわなければならないとなると、取引が煩わしくて仕方がありません。そこで、取引の当事者間では、券面を引き渡せば取引が完了したことにしつつ、券面を所有している人が帳簿の書き換えを発行者に求めれば、発行者はそれを信じて帳簿を書き換えるというルールを導入しました。これによって、発行者に対する権利の移転が効率化し、流動性が高まることになります。これが有価証券のオリジナルな仕組みです。
コンピュータが発達するにつれて、発行者は帳簿を紙ではなくコンピュータで管理するようになりました。コンピュータで帳簿を管理すれば、帳簿の書き換えは紙の帳簿よりもずっと効率化します。こうなると、今度は権利が化体された紙の券面をわざわざ引き渡さないと当事者間で権利が移転しないというのはいかにも煩わしいということになります。そこで、株式などの一部の有価証券については、法律を変えて紙の券面を発行しないことを選択できるようになり、券面を発行しない発行者に対する実体的な権利は、取引の当事者間では合意だけで移転することができるものとしつつ、帳簿を書き換えないと権利移転を発行者に主張することができないという仕組みを導入することにしました。日本で株式や社債について、この電子的な帳簿の仕組みを法的に実装したのがいわゆる振替法であり、これをもって「有価証券の電子化」と呼ばれています。
これまで繰り返し触れてきたとおり、分散台帳技術は帳簿をデジタルに実装する技術に過ぎません。これまで帳簿はリレーショナルデータベースというアーキテクチャによって実装されてきましたが、帳簿としての統一性が確保され、システム的な強靭性が備えられているのであれば、従来とは異なるアーキテクチャを持つ分散台帳技術によって実装してはならない理由はありません。
したがって、現行の有価証券法制において「有価証券」として定義されている権利を分散台帳技術によって実装したものは、有価証券そのものであるということになります。分散台帳技術を用いて実装することで、これまでご説明した技術的特性によって新たな利便性が生まれようが何であろうが、それは有価証券として金融商品取引法により規律されることになります。したがって、既存の有価証券を分散台帳技術に実装したことによって、こうしたもの「トークン」であると言い換えて、金融商品取引法のいずれかの規制に服さなくても良くなるということはありえないことになります。もちろん、金融商品取引法やその後ろにある有価証券法制は、分散台帳技術を想定して立案されていませんので、分散台帳技術を念頭に置けば、もっと効率的で従来の技術ではなし得なかった革新的な金融サービスを構築することができるわけですが、これはまた別の話として、有価証券法制を変更していかなければならないということになるわけです。
以上から明らかなとおり、既存の有価証券を分散台帳技術に載せたものは単なる有価証券に過ぎず、これは「暗号資産」の話とは区別して議論すべきものであると考えられます。先に触れた英国のCryptoassets Taskforceの報告書も、有価証券を分散台帳技術に載せたものは暗号資産のスコープとせずに、ただし規制の適用方法を変えていく必要があると述べているところです 。

(3) 暗号資産に関する国際的な合意
 分散台帳技術の出現によりさまざまなトークンが出現し、規制の適用関係が各国において混乱しているなかでも「現行法制で有価証券に該当するものは有価証券法制のもとで規定すべきである」という原則は、国際的に合意された第一原則とも呼べるものになっています。
 この第一原則についての合意の上で、国際的なコンセンサスにとって次に問題になるのは、「ではなにが現行法制で有価証券に該当するのか」という問いになってきます。有価証券法制についての国際的な規制のハーモナイゼーションは、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions、IOSCO)によって図られています。先日シンガポールの金融当局者と意見交換をした際に、責任者の方がお話していたところでは、この問いをめぐってIOSCOの内部でずいぶんと議論をしたそうです。しかしながら、なにをもって有価証券とするかという問いは、証券規制において最も困難な問題の一つで、各国それぞれ異なっています。そこで、暗号資産を巡る規制に関連して国際的に合意された第二原則として、「なにが有価証券に該当するかは各国が決めることである」という点が確認されたといいます。
 これによって、「暗号資産とはなんなのか」という問いについて、国際的な合意のレベルでは有価証券との区別がなされたことになりました。

(4) トークンの類型論と暗号資産
 国際的なレベルで上記のような区別がされたとして、各国は次なる国内レベルでの議論が控えています。すなわち、「分散台帳技術によってプログラマブルで自動執行可能なトークンを作ることができるようになったのはいいが、現行法制で有価証券の定義に入らないものの、スマートコントラクト機能を用いて有価証券のような振る舞いを見せるようなトークンについて、これを新たに有価証券法制で規制する必要があるのではないか。」という問いに対して各国は回答を出さなければならないということになります。
 この問いは、各国においてICOに対する規制のあり方という形で論点提起されました。日本もご多分に漏れず、研究会においてそのような形で論点提起され、トークンの類型論の話を経て、投資性を有するトークン(いわゆるセキュリティ・トークン)について、金融商品取引法制を適用するべきではないか、という方向性で整理されることになりました。
 「暗号資産となんなのか」という問いについての日本の議論の中では、この点が今回のハイライトになりますので、金融庁のロジックを理解するために議論の要旨を丁寧に追いかけていきたいと思います。

続きをみるには

残り 10,401字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?