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IMFによるステーブルコインに対する画期的な評価は、ステーブルコインの力を呼び覚ますか(その1)

IMFは19日、スタッフブログ記事の形でステーブルコインの特徴とその6大リスクについて触れている。記事の投稿者はMonetary and Capital Markets DepartmentのDirectorであるTobias Adrian氏とDeputy Division ChiefのTommaso Mancini-Griffoli氏。この2人は、FacebookがLibra構想を発表してからまもない今年の7月に「The Rise of Digital Money」と題する有名な論稿を投稿したコンビ。

記事は、世の中をにぎわせているステーブルコインは、従前の通貨である現金や預金通貨と重要な点で相違があると指摘、その一つに法定通貨との交換比率の保証が政府によって支えられているかどうか、ということと、二つ目に決済のモデルが分散化しているかどうか、ということを挙げている。確かに、銀行の預金通貨は中央銀行預金口座への接続と銀行監督、預金保険の仕組み等を通じて、交換比率が政府により支えられ、また決済権限を銀行に集中させることで決済の安全性を確保するという思想を持つのに対して、民間のステーブルコインは法定通貨への交換比率の安定性に対する信頼を私的に調達しなければならず、また決済の安全性は分散台帳技術というテクノロジーに依存する面が大きい。

筆者らは、近時出てきているLibraをはじめとする新たなステーブルコインは、従来型のステーブルコインとは異なり、中央集権性を強めている点で銀行預金に近づいているにもかかわらず、なぜ(銀行による預金通貨よりも信用性に劣るため通貨競争上淘汰されてしかるべき)ステーブルコインが立ち上がろうとしているのか、という問いを立てる。すなわち、通貨としてカギになるはずの信用力に優れる預金通貨になくて、新たなステーブルコインが備えている特徴とは何かということを問うている。

筆者らは、この問いに対して、①低コスト、②グローバルな汎用性、③決済スピード、に加えて、④ブロックチェーンベースのアセット(これは仮想通貨の言い換えとしての暗号資産ではなく、世界的に用いられている意味の、セキュリティトークンなどを含む「暗号資産」のことを言っている)のシームレスな取引に用いることができること、を挙げ、これらは既存の銀行システムにはないステーブルコインの価値の一部であると述べている。

しかし筆者らをその辺のにわか評論家と一線を画する、デジタル通貨の専門家たらしめるポイントは、その次にある。筆者らは続けて、ステーブルコインの最も強力な魅力は、取引をソーシャルメディアを用いるのと同じくらい簡単にするネットワークの魅力であると述べ、「支払いとは単に資金を移動する行為ではない」と断言している。

「支払とは単に価値を右から左に移動するものではなく、その根源において人々をつなげるための社会的な経験である」と喝破している筆者らの言は、まさにFintechにたずさわる若い起業家の面々が口々に述べるペイメントに対する価値そのものである。

ステーブルコインによって、我々のデジタル空間における生活はより良いものとなり、自由競争にさらされた企業によって、よりユーザー中心の世界観をデジタル空間に構築するカギとなるのがステーブルコインに他ならない。既にグローバルにユーザーを抱えるテック企業は、既存のネットワークの上にステーブルコインネットワークを構築することで、より効率的かつ迅速に、支払いネットワークをグローバルに築くことができるだろう。

論稿には明記されていないが、これはこれまでなされてきた通貨についての必要条件と十分条件をめぐる抽象的な議論に対して、再考の契機を促す問いであるように僕には感じられた。

そしてなによりも、IMFというペイメントの総本山ともいえる国際組織の偉い人たちが物すこの記事は、「金融って偉そうなおっさんたちが小難しい理論を振り回して上から目線で語るばかりで、僕らの言うことなど歯牙にもかけない感じだけど、やっぱりこれってソーシャルコミュニケーションの話なんじゃね?」と思っているFintechの担い手である若きデジタル世代の起業家の皆さんに対する、大いなるエールであるように僕には感じられるのだ。

(その2につづく)


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