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情報発信が苦手な経営者がコンプレックスを持つ必要はない|広報Tips

私にご相談してくださる経営者の方の多くが、他の経営者を例に「取材され慣れていて、ブログもSNSも活用していてすごいなぁ。自分は全然ダメだ」とおっしゃいます。

誤解を恐れずに言います。
社内のメンバーが情報発信したくなる、良い組織・強い組織を作ること。これは、経営者の大切な仕事の一つです。
しかし、苦痛でないなら経営者自身に情報発信をしてもらえるに越したことはありませんが、情報発信そのものは本質的には経営者の仕事ではないと私は思います。

主に広報体制の立ち上げ期において、ミッションやビジョン、各種のエレベーターピッチ、やりたいこと・やりたくないことを言語化する段階があります。ここでは経営者自身にしっかりがっつり参加してもらわないと何も始まりません。
しかし実際に様々な情報を発信するのは必ずしも経営者自身でなくても良いです。というか、情報発信はみんなでやれば良いので安心してほしいです。

そのためにも、(自分が情報発信があまり得意でないならなおのこと、)社内のメンバーが情報発信したくなる、良い組織・強い組織を作ることにリソースを割いてもらえると嬉しいです。

これは、本当に声を大にして言いたいことです。はい、これで今日のnoteで言いたいこと言い切った!


……でも、社長個人の情報発信やメディアへの露出は、世の中との接点を作る上で大切なきっかけ。だからこそ大事にしたいし、経営者の皆さんはその重要性もわかっていると思います。成り行き任せの受け身の広報対応しかできていなかったり、広報の優先度が下がって施策が滞ってしまうのは勿体無い。

そこで今日は、そんなシャイな経営者のみなさんとその周囲の悩める広報担当者さんに向けたあれこれを書きたいと思います。
(※あくまでも個人の主観ですので参考まで。「私(もしくはうちの社長)は情報発信が大好きだし、めっちゃ上手だよ」という人は読み飛ばしてくださいね)

「取材を受けたくない」という経営者は驚くほど多い

多いですね。「出たくない」という人。
理由は様々ですが、話すのが苦手とか、写真を撮られるのが苦手とか。昔取材してもらったけれど全然効果がなかった(あるいは意図しない露出になってしまった)など、過去の悪い思い出で一方的に嫌になっている場合も多いように思います。

そういう場合、広報担当者は悩みますよね……。
経営者自身の苦手意識が解消されるのが一番ですが、まぁ苦手意識を持っていたとしても、まずは新聞や雑誌、テレビなどの掲載(放送)前確認ができない媒体を避け、インタビューメディアやブログメディアなどの事前確認ができる媒体からアプローチをスタートするのがおすすめです。「後からチェックできる」という安心感から、苦手意識も払拭されていくのではないかと思います。
何度か取材を受け、場慣れすることで「鉄板コンテンツ」も磨かれていきますし、記事掲載の反響があればその成功体験からメディア露出に対する考え方が変わることも多いです。

一人で取材を受け(させ)ない、というのも大事です。
取材を苦手とする方の場合、大抵はすごく真面目で「余計なことを話してはいけない」とか「正しく理解して記事にしてもらえなければ(自分が話した)価値はない」と思っていることが多いです。

もちろん、入念な準備をして取材の時間を最高のものにしようとする心意気は素敵です。
でも、社長に限らず、取材を受けた人がぽろっと余計なことを口にしてしまうこともありますし、記者の理解度によっては事前に準備した資料が全く役に立たないこともあります。そういういろんなことをフォローするために広報担当者が同席するわけです。
広報担当者がまだいないなら、一緒に事業を手がけている人でも良いです。

そもそもメディアからの取材では、メディア側に伝えたいメッセージが先にあって、それを補強するための素材として取材をしたいということがほとんど。
だからあまり深く考えすぎずに、先方が必要としている素材、料理したくなる(しやすい)素材を出すだけで良いのです。
肩の力を入れずに「**さん(記者)はどんなエピソードが欲しいですか?」「読者はどんな話が聞きたいんですかね?」と聞けるくらいになったら余裕が出てきた証拠だし、「記事を一緒に作る」「特集に華を添える」という姿勢でいれば必ずメディアと良い関係性を築けます。

最近多いのは、経営者の取材対応時間あたりの費用対効果を気にする組織。
そのあり方自体に私がどうこう言える立場ではありませんが、いろんな事情で、受けた取材が記事にならないこともあります。
その場合も「またいつかご一緒できたら」と笑って次につなげられる余裕を持てると良いですね。

メディアとの関係は不確実性が高く、コントロールできないものです。なんだそれならと、思い切って、あえて「経営者は取材を受けない」という方針にしてしまうのも究極的にはありだと思います。
その場合は、社内の別のメンバーや経営陣の中で「取材対応担当」を決めておくと混乱しないのでおすすめです。

無理してSNSをがんばる必要はない

はっきり言いますが、SNSは、向いている人と向いていない人がいます。

向いている人や好きな人はやれば良いと思いますが、社長の個人アカウントを無理して運用する必要はないです。
苦手ならいっそのこと、SNSにアカウントは作らないとか、企業が発信するSNSの投稿を無言でシェアし続けるくらいの方が潔くて良いんじゃないでしょうか。

経営者は文章のプロではない

経営者は文章のプロでも、キャッチコピーの専門家でもありません。

だから無理して毎日Blogを書かなくても良いし、Mediumやnoteを「やらなきゃ…」と憂鬱にならなくて良いと思います。(好きなら、やれば良いと思います。書くことにはいろんな効果があると思います)

ちなみに文章が苦手でも、周囲に引き出して言語化してもらうことで「経営者自身の言葉」を発掘し、情報発信することは可能です。
自分で書かずに、ライターさんや社内の得意な人に書いて貰えば良いんです。私はこれを、PRの仕事を始める前に5年間続けていた編集の仕事の現場で嫌という程、実感しました。(主にビジネス書の企画・編集を担当していました)

例えば私がこれまで広報PRのご支援をしてきた企業さまでは、通算すると書籍出版の実績が3冊(ニーズがありそうな出版社をご紹介した例を含めれば4冊)になりました。
「文章力がないからBlogどころか、書籍なんて無理!」と諦めている方は多いのですが、それは大きな誤解。みなさん最初は「書けない」とおっしゃいましたが、最終的には書籍の出版にたどり着きました。

ポイントは「社長は書かなくていい」ということ。実際、全ての書籍でライターさんにサポートしていただきました。
これは決して経営者自身のスキルが低いとか怠慢だからということではなく、プロの力を借りて言語化していくことは
「情報の受け取り手に正しく、より影響力を持って伝える」
「経営者のこころを守る」
という二つの観点から、非常に効率が良いのです。

もちろん、事前に経営者自身がチェックして「自分の言葉」として違和感がないかを確かめることは必要です。しかし、苦手なのにゼロから書き上げるよりは(私の体感的には)10分の1くらいの労力で済みます。

文章の著者=書き手、ではない。コンテンツメーカーであれば良い

書籍制作の現場では、文章を紡ぐ仕事の分業体制が進んでいます。

・著者=コンテンツメイカー
・ライター=文章を作るひと
・編集者=文章を磨くひと
・校正者=文章を整えるひと
・装丁者=書籍のデザインをつくるひと
・営業=出来上がった書籍を届けるひと

上記のように、明確に役割が分けられているのです。

一般的に「書籍は著者が執筆している」と考えられていますが、実は昔から、多くの著者がライター(ゴーストライター)の協力の元で書籍を出版しています。これはビジネス書の場合は特に顕著。

本人が強く望む場合を除けば、ライターさんをつけてもらって聞き書きで書いてもらうのが一番いいと思います。
著者はコンテンツメーカーとして、読者に伝えたいコンテンツを出し惜しみせずにライターと編集者に伝えるのです。作業効率も上がるし、経営者自身が締め切りに追われて本業に支障が出るなんてことも最小限に抑えられます。書籍出版の場合、ライターさんに協力を仰ぐとその分印税率は下がりますが、書籍出版の目的はなんらかの啓蒙活動を効率的に行いたいという動機のはず。本業が別にある企業経営者の場合、書籍の売り上げでどうこうしようという期待は無いでしょう?

また、今は発信した情報が常に何らかの「評価」の元に晒される時代です。
だからこそ経営者が自分で書かないことは、炎上リスクを回避し、経営者のこころを守ることにもつながります。

これ、大げさに聞こえるかもしれませんが結構本気で言っています。

ひと昔前は読者や視聴者など情報の受け手がフィードバックをしようと思ったら、出版社やテレビ局、事務所や会社あてに手紙を出すくらいしか方法がありませんでした。
しかし今はSNSの「いいね」の数やコメント、レビューなどによって、そのコンテンツに対する反応をリアルタイムで(しかもほぼノーフィルターで)受け取ることができる環境にあります。

一見良いことのように見えますが、はっきり言って著者の精神衛生状況を考えると辛い世の中になったなぁと思うんです。

経営者(特に創業社長)は、自分の専門領域に対するこだわりや世の中に対する疑問や憤りを多かれ少なかれ持っています。
この感情が事業を前に進めていく原動力になる。でも、いざ情報を発信しようというタイミングになると、疑問や憤りが度を越して建設的な問題提起にたどり着けず、単なる批判的な「感想」で終わってしまう残念な例があとをたちません。こだわりが邪魔をして、自己満足としか捉えられない表現になってしまうこともはっきり言って多いです。

結果的に、そのようにして書かれた原稿はツッコミどころ満載に。読者からの批判だけでなく、そのだいぶ手前で編集者にダメ出しされて心が折れてしまう人も少なくありません。そうなると、そこにかけた時間はなんだったのか、ということになります。
自分の書いた文章を否定されるのって、どんなに強靭なハートを持っている人でも傷つくもの。ライターが書いた原稿だからといって、悪いレビューがついたときに平気でいられるという訳ではないでしょうが、それでもやはり心持ちは多少異なるんじゃないでしょうか。

伝えたいことが固まったら、「伝えるのが得意な人」に託す

そしてこれは書籍に限らず、経営者名義で発信する全ての情報に対して同じことが言えるというのが私の持論です。

基本的な文章構成ができていて誤字脱字、重複などがない状態で文章を届けることができれば余計な部分で揚げ足を取られることもありません。読者もすっと内容に集中できます。
伝えたい内容が固まったら、それを「伝えるのが得意な人」や「編集が得意な人」に託すというのはかなり健全な判断だと思います。

逆に「社長の書いた文章、少し日本語的におかしいんだけどこのまま出さないとダメだよな」と変に気を使っている広報担当者さんもいるかもしれません。でもこれは絶対やめたほうがいいです。
「経営者の言葉」はなんだかんだ言って(きちんと作り込めば)影響力の強いコンテンツ。特にコンテンツの少ないスタートアップやベンチャー企業では、貴重なPR資源です。
だからこそ。社長の言葉こそ、磨きをかけて発信したいものです。

・・・

まとめると、「伝えるのが好きな経営者」は、自分の言葉でどんどん発信したらいいと思います。
でも、伝えるのが苦手な人にそれを強いるのは、それがたとえ経営者であってもナンセンスだし、非効率。伝えるのが上手な人と分担して、情報の受け手に正しく、スマートに伝えましょう。

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それでは今日も良い1日を!

Photo by Jason Rosewell on Unsplash

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