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第十一章 先に苦悩を与え、その後に成長を促す

この章では第二章で述べた役割を与えることが「役職者を輩出する仕組み」であると述べた内容を受けて、上司としてあなたが実際に部下にどんな仕掛けをしていく必要があるのか、触れていきます。

まず、人が行動した方が良い本当の理由をご存知ですか?人としての成長、人としての幅を広げる、考えているだけでは何も変わらない、など様々な理由がありますが、生徒が一番納得してくれた伝え方は、「人は経験したことしか好きになれない」という理由でした。

前述の通り、社会人になることに覚悟を持っていなかった私は、専門学校現場で初めてクラスを受け持ったときに、生徒の前でホームルームを進める上で、あまりにも緊張するので逃げ出したくなったことを覚えています。

生徒が集まる教室に、カラ元気で入室していくと、初対面同士が集まる教室は、シーンと静まり返っていました。出欠を確認後、プリントを配布するにも、隣の人と話す雰囲気でもない生徒たちは目のやり場に困り、全員が私の手元に注目しているので、プリントの枚数もまともに数えられません。

注目に耐え切れずに、適当に配布を終えると、「先生足りません」と言われる始末です。私が何とか連絡事項を伝えていると、教室がとても静かなので、換気扇の音がやけに大きく聞こえます。今でもその音は忘れません。

入社してから慣れるまで数カ月、自分は教員に絶対向いていないと思い、生徒のためにも辞めた方が良い、そこまで考えていました。

しかし、辞めても次の道を探す宛てがなかった私は、緊張しても乱れないプリントの数え方、集団で話す上で、聴きやすいトーンや抑揚のつけ方などを少しずつ改善していったところ、あれだけ緊張していたクラスの前に立つことに、抵抗を感じなくなりました。

つまり、行動して苦悩したことについて、改善のための工夫をしたところ、苦手だった取り組みを好きになることができたのです。

さて、「人をまとめる役割」についても同様のことが言えます。行動して、苦悩したことに対して、改善を図ることができれば、「人をまとめる役割」について興味を持つ部下が現れます。そのためにもまずは役職を与える前に、人をまとめる役割を与えることから始めます。

新入職員の教育係、OJT指導者、もしくは業務ごとの小さなプロジェクトのリーダーでも構いません。人の上に立つことの興味の有無は問わずに、まずは何らかの「長」となるような役割を与えます。

すると、それまで個人での仕事においては感じなかった課題を部下は持ち始めます。後輩にも分かる伝え方や、後輩が資料作成に時間がかかっても大丈夫なように、計画的な仕事の指示の仕方、後輩から質問されたことに対する仕事の「意味」や「背景」の共有の仕方、人によってどこに課題を持つかは分かりません。

しかし、人をまとめるということにおいて、課題意識を持たない人はこれまで誰ひとりいませんでした。

多くの役職者は、成長し、周囲から信頼を得られている人に役割を与えます。しかし、人が成長するには、先に苦悩を得る必要があります。そのため、個人としての仕事を回せているのであれば、先に役割を与えることをお勧めします。

対象にそもそも「成長意欲」が備わっているかは重要視しません。成長意欲がなくても、先に苦悩を与えられたら自然と課題を持ち始めるからです。

この章のまとめとしては、人をまとめられるような人格が備わったら任せる、のではなく、個人として仕事を回せるようになっているのであれば、まずは先に役割を与えてみること、そうして生まれた苦悩に対して、克服するための行動を上司はサポートしていくことで、苦悩を糧に成長した実感から、人をまとめることに興味を持たせられるということです。

次の章では、実際に「上司がどうサポートしていくのか」について触れていきます。

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リーダ―育成・事業部再生コンサルタント

本間 正道
twitterID:@masamichihon

Email:playbook.consultant@gmail.com

著書『リーダーになりたがる部下が増える13の方法』

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