夢で笑えたってしょうがないじゃない#6

「同棲しようってなって物件まで探してやっと決めたのに!」

亜梨沙が信じられないというリアクションで髪に指を沈める。

「いやでもそりゃあ男のほうからしたら、他の男が好きなのかもっていう女と同棲は厳しいって」

里奈が言うと、そこだよ、と亜梨沙が指を指した。

「だって、女の方は、この男のほうが幸せになれるとか、やっとやっと探してきた幸せを手に入れられる、って思って前向きにやろうって言ってんのに、男のほうはさ、これから自分が幸せにしてやるんだーっていう気持ちも見せないしさ、涙ぐむのはそりゃまあ彼氏彼女の別れのシーンだから分かるにしてもよ? あそこで、僕たち仕事仲間に戻りませんか、っていうのはナシだわ」

「えーなんでよー」

亜梨沙の指をさらに里奈が指した。

「あんな優しい男はいないって。そりゃドラマだからそういうキャラで現実にはここまで優しい人はいないっていうくらい優しい男の人じゃん」

「いや、里奈はああいう優柔不断なタイプが好きだからそう思うだけっしょ? あれはさ、女は同棲とか結婚とか、30過ぎたらもう新しい出会いないしとかで必死なのに、男は、仕事があれば大丈夫、もともとそんな結婚したいとか思ってなかった、っていうのの典型タイプよ」

そうかなぁ、とやっと礼奈が口を開くと、そうかなぁ、と里奈も腕を組んだ。

「挙げ句の果てに、僕はタラレバ男にはなりたくないんだ!とか言ってさ、誰もタラレバしたくてしてるんじゃないっつーの」

「亜梨沙の言いたい事も分からんでもない」

「まぁ礼奈はいつもどっちの気持ちも分かるタイプだから」

「礼奈はいつもそうだよねー」

「そうかな、私そんな感じなのかな。でも、さっきから超言いたいことあるんだけど」

なに? と亜梨沙と里奈が礼奈を見る。

「っていうかそのリアクションがまたドラマに影響されすぎじゃない?」

「礼奈は影響されなさすぎなんだよ。あれなんだかんだで最後よかったじゃん。付き合ってほしい同士でちゃんと距離縮まるし、年齢とか固定観念に縛られないでやっていこうって気持ちになるよね」

里奈が言うと、亜梨沙も、それはそうだわ、と大きく頷いた。

「だからさ、みんな忘れてるけど、ああやって演じてる女優さんはそのままなわけじゃないからね?」

と、いいますと? とまた里奈と亜梨沙はドラマのように表情をつくった。

「タラレバタラレバ言ってるように思っちゃうけど、一人は自由で奔放に見える恋愛を重ねてるし、一人は結婚して妊娠してるし、一人は仕事順調だからね」

礼奈が言うと、里奈と亜梨沙の表情が急に固まった。サーッと酔いが醒めたような目つきになって、何も言わなくても、それに比べ自分たちは…影響されて前向きになって共感していた自分たちは…という文字が顔に浮かんだ。

「自分だったら、って思ってたわ」

「自分もこうできれば、って思ってたね」

里奈と亜梨沙がぼんやりとつぶやいてテーブルに肘をつくのをみて、リアルタラレバそれな、と礼奈が言った。