きみの服

小学生の頃に暴れん坊で、ちょっと先生や親御さんも手を焼いている男の子がいた。
力が強くて、いつも筆圧が強い字を書いていた。

私はよくゲロする児童で、
その子にもよくからかわれていて、あまり好きではなかった。
乱暴すぎて服はすぐエリや袖が伸びてたし、
登校して授業が始まるまでに既に汚れていた。
ただ、その子はいつも柔軟剤のいい香りがしていた。

田舎なので案の定そういう子は、
成長と共に少しずつレールを外れていく。
中学生の頃家にあった親父の洋物エロビデオを貸した。
その子や私はいずれ中学へもろくに行かなくなった。

私は家で厨二病こじらせて、
リストカットしたり完全自殺マニュアル読んだりしてたんだけど、彼は見事に短ランボンタンという旧世代のヤンキーに成長していた。
それでも彼の服からは、柔軟剤のいい香りがした。

そして月日は流れ
私の聴く音楽がV系からロキノン系に変わり、
高校2年生になっていた。
その頃の私はろくに家にも帰らず、
当時の恋人の家を転々としていた。

高校時代1番長く付き合ってた彼の家は、
普段親が居らず外から直接彼の部屋に出入りできるようになっていたので
友達のたまり場になっており、
全然知らんやつがガンガン来ていた。

ある日「今日はどんなセックスしよう」とウキウキで彼氏の家に向かうと、
彼氏の部屋で雑魚寝していたのは懐かしいあの乱暴な子だった。

長く会ってなかったので、
お互い気づくのに時間がかかったけど近況の報告をしあったりした。

彼の口から出てくるのは
女と、抜き屋と、パチンコと、金の話ばかりだった。

そして彼からはもう柔軟剤のいい香りはしていなかった。

彼がどんな育ち方をしても、どんな服を着ていても、きちんと洗濯してくれていたお母さんには、
きっともう長らく会ってないんだなとわかった。

母になってから、ふと思い出した。
あの時彼のお母さんはどんな気持ちで短ランを洗濯していたんだろう。

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